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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第4のミ幕 高みに至るも悲しみを鎮めることは無し
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プランなんぞは崩壊とともに

「ミスミちゃん! 今後のプランは?」


「ここは一時、撤退と考えています。」


 短い射撃音を最後に、ミスミ側からの追撃者は全て掃討したようだった。


「ですがそのためには1階に戻る必要があります。」


「あの見えない水の中に? それは何というか、危険というか…。」


「はい、おそらく1階から単純に脱出するルートの成功率は30%を切るかと思います。」


 ミスミが僕の左前方へと回り込み、膝をついて射撃体勢に入る。

僕のやり過ごしてきた餓鬼が、今まさにガリガリと扉を開けんと、開けるというよりは破壊しようとしているようだ。

ミスミがジェスチャーで扉を示し、そして右に避けるよう指示を出す。


 僕は弧を描くように、扉の前をかすめるように走り抜けながら、その扉にニ太刀浴びせて右へと離脱する。

扉が崩れ落ち、部屋の外で顕わになった餓鬼へと容赦なく弾丸が浴びせられる。



「あの「見えない水」は中鬼の、荒渡だとかいう男の仕業だと推測されます。

 その能力の全貌が見えない以上、中鬼を討伐できる確率は8%

 外の状況が不明な上、あの能力の及ぶ範囲が特定できないため、窓から外部へと脱出できる確率は15%程度。

 ちなみにボクだけでしたら86%ですが。」


「つまり僕は足手まとい!」


「はい…

 いえ、そういうことではありません。

 単に訓練、経験値の問題です。

 勿論ボクは、幌谷さんを置いていく気はありませんが。」


 ミスミは撃ち倒した餓鬼を飛び越え、扉を対角線上に進み廊下の右へと消える。

僕は慌てて、足手まといを汚名返上するが如くミスミに続くと、向かいの部屋から追ってくる餓鬼を斬り伏せていった。

その間、ミスミは廊下に直線状に並ぶ、立哨している餓鬼を次々に狙撃していく。



「部隊の応援要請も考えましたが、中鬼の能力、敵勢力の規模が見えない以上、部隊の喪失は73%

 元々ボクに部隊の指揮権がないうえに、仮に佐藤ウズシオさんと軒島ニコナさんに要請したところで精々、制圧の成功率は40%台。なので要請等の線は無しの方向で。」


 廊下の餓鬼たちを殲滅し終えたミスミが立ち上がり、割れた窓から外を見る。


「避難梯子を使う手立ても捨てがたいのですが…

 そこまで荒渡だとかいう男がバカだとは思えませんね。92%ぐらいの確率で。」


「つまり、残す、ところはっ!」


 僕は追撃してきた最後の餓鬼を後退しながら斬り倒し、肩で息をつく。


「30%の確率を上げることかと。」


「正攻法で、1階から、脱出するということ?」


「はい。

 勿論、正攻法で挑むつもりは毛頭ありませんが。」



 そこにボリューム調整を失敗し、あるいはマイクとの距離感を誤ったのかそれとも機材のせいか、つんざくように音割れした例の放送が唐突に再び流れた。


《あーあーあー、んーんーんー。

 ぴーん、ぽーん、ぱーん、ぽーん!

 はいはいはい、みんなお待ちかねの荒渡がお送りするっすよっ!

 警察官役の方々だらしないっすねー、だらしないっすわー!

 荒渡、正直なところがっかりです!

 なんてねっ! 最初から期待はしてませんでしたけどねっ!

 まあまあ個人的には楽しめましたけど!

 えーと、うーんと。

 泥棒? あー、闖入者かな? あ! あれだ、桃太郎一味!

 お二人さんは楽しんでくれてるっすか?》


 何というのだろうか。

蛙水の張り付けたような営業マンスタイルも、兵跡の冷酷さも、山羊仮面女の奇妙さにも苛立ちはしたが、この荒渡だとかいう男の素っ頓狂な感じに、心底苛立ちを覚えた。

こいつは一体、鬼、元人間だったはずの鬼の、命というものを何だと思っているのか。

確かにその命を奪っているのは僕なのかもしれない。だが僕は命というものを軽んじているわけではない。

一体、何だというのか。


 僕は自分の考えと荒渡だとかいう男との差異に、とは言え突き付けられている事実に心がズキッとした。

僕も同罪だというのか。


「流されてはいけません。」


 ミスミが近寄り、僕の背中越しに「心」に手を当てる。

僕は目をつぶり、大きく深呼吸する。



《あー、うーん。物足りなかったかなぁ?

 んじゃま、荒渡も2階に向かいまーす! 3階の方々も向かってくださーい!》


 そして前回同様、荒渡の全館放送は「ブツッ」という音と共に打ち切られた。


「ミスミちゃん…。

 迎え撃とう。」


「仰せのままに。」


「ちなみに迎え撃てる確率は?」


「中鬼を討伐できる確率は依然と8%程度。

 ただ中鬼を迎え撃つと見せかけて、出し抜き脱出できる可能性は46%

 といったところでしょうか。」


「冷静にありがとう。

 つまりどんぶり勘定で5分5分といったところだろうか?」


「そうですね。正攻法であれば、ですが。」


 ミスミが出会って初めてちょっと笑顔を見せた気がした。

何と言えばいいのだろう。気真面目で沈着冷静な、大人びた雰囲気。それでいてそれに似つかわしくない柔らかな声の響きとゆっくりとした口調。そんなミスミが、まるで無垢な少年…、いや失敬、少女のような眼差しでほほ笑む。

考えてみたらボクと同い年なのだ。年相応の笑顔があってしかりではないか。

いや違う。

そうだ。僕の中に記憶として残るミスミはこの笑顔だ。保育園の頃から変わっていない。


「懐かしいな。

 僕が覚えているミスミちゃんは、そのはにかむような笑顔だ。」


「な、なにを言っているのでしょうかっ!

 今はそういう状況ではありません! 気を緩めませんように、100%!!」


 思わず漏れてしまった僕の心の声に、ミスミは怒ったのか少し顔を赤らめながらそっぽを向く。

うーむ、確かに気を緩めている場合ではない。100%



「迎え撃ちつつ機を見て脱出、正攻法じゃなく。

 ってプランでいいのかな? 具体的なプランが見えていないのだけど。」


 ミスミが先を進むのを僕は慌てて追いかける。

先程ミスミが倒した餓鬼たちは、全て鬼門が撃ち抜かれている。越えてきたものを含めても10体ぐらいだろうか。その正確な狙撃能力に、驚きよりも恐怖を覚えるぐらいだ。


「このまま前進すれば、恐らく最短で荒渡だとかいう男と遭遇すると考えられます。

 1階の放送設備がある場所からの推測です。その確率で言えば78%

 ただ先程からの放送、そして餓鬼たちのふざけた衣装から、奇をてらう傾向にあると思われますので、相手も順当な行動をとらない可能性があります。それが理由で確率は低めです。

とは言え、相手は自ら愉しむ「参加型」だと推察されます。直近には必ず現れます。」


「あー、うーんと、

 ふむふむ…、なるほど。」


「そして相手は自身の力に絶対的な自信があるように推察できます。またこれまでのボクらの行動から、相手はボクらが逃げるだろうと予測しているのではないかと考えられます。

それゆえに退路を塞ぐため、3階に控えていた鬼を招集しているのではないかと。

 そこから考えられるのは、ボクらが最短で迎え撃つとは予測していないだろうということなのですが。」


「ほうほう、つまりは、つまるところ?」


「最短で強行突破。」


「それって正攻法じゃね!?」


「ですが、どうやら相手の目的は退路を塞ぐこととはちょっと違うようです。」



 そう言ってミスミはピタッと歩みを止めた。

それは視覚、聴覚、その他あらゆる感覚を研ぎ澄まし探っているような、はたまたすべての感覚をシャットダウンし深く思考しているような、刹那の静寂だった。


 突如ミスミがゴーグルのようなものを装着する。

そしてそれと同時にミスミから淡紅藤(うすべにふじ)のオーラが立ち上がる。

背中には羽が。そう、それは天使のような一対の羽が浮かび上がったのだった。


ピシッ ピシ ピキキッ


 建物そのものが軋むような音が広がる。

ミスミが僕の手を取り超高速、こいつは音速なのではないかという速度で近場にあった部屋へと跳躍する。


「あべばぼばばばばっ!」


「先に断っておきますが、翼があるからと言って飛べるわけではありません。

 跳躍力が向上するだけです。」



 その直後、僕らがいた廊下の天井が崩壊し、完全に鬼化した鬼、2メートルほどの鬼が天井の瓦礫とともにそこに降り立った。


 ご丁寧にも「アメリカンポリス」の制服を着てだ。

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