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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第4のミ幕 高みに至るも悲しみを鎮めることは無し
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吊り橋効果にデジャヴ

 ところで諸兄諸姉。二話もホラーテイスト風コメディタッチが続けば、そろそろ飽きてくるのではないだろうか。勿論、先に断っておくが、この物語はホラーではない。

いや、鬼退治という段階で僕にしてみたら十分にホラーなわけだが、一般に言う怪奇現象の類を僕は期待してなどは、いない。


 ときに諸兄諸姉はホラー映画は好きだろうか。アクション映画はどうだろうか。ファンタジーや冒険活劇はどうだろうか。あるいはストレートに恋愛物や人情物が好きな方もいることだろう。

僕はサスペンス、つまり謎解きの類が好きだ。そういう意味では広義にサイコサスペンスも観る方かもしれない。ちなみにホラーものも謎解き要素が強いものは面白いと思う。

いずれにしろ僕が思うに、好きな映画ジャンルは実生活に欠けているもの、つまり求めているものを選ぶ傾向にあるのではないかと思うのだ。


 とは言えまさか諸兄諸姉の中に、実生活に「ホラー」を求めている方はいないことだろうと思う。おそらくきっと、怖いもの見たさがあるにしろ、アクション映画等と同じように「ドキドキ感」を求めているのではないだろうか。非日常の世界に没頭し、主人公たちと体験を共有し、そして達成感を得る喜びを共に分かち合っているのではないだろうか。


 「吊り橋効果」というものがある。聡明なる諸兄諸姉ならばご存知のことだろう、「恋の吊り橋理論」とも呼ばれているやつだ。その真偽はわからないが、もし「ドキドキ、ワクワク感」を共有できるのだとしたら、好きな異性と映画を見るのは、実に効果的なのではないだろうか。

ちなみに僕はスプラッタものをあまり見ないのだが、あれはあれで生存本能を掻き立てる、つまり「種の保存」に一役買うらしいということを明記しておこう。

 

 あぁ、ユイ先輩は今頃どうしていらっしゃるだろうか…

ユイ先輩は映画を見るのだろうか。どのようなものが好みなのだろうか。「ドキドキ、ワクワク感」をユイ先輩と共有できないものか…

僕はこんなにドキドキしっぱなしな、「吊り橋効果」まっしぐらな状況下にいるというのに、なぜユイ先輩は隣にいらっしゃらないのか…


 そう、僕はリュウジンと「吊り橋効果」を共にしたいわけではない!

そういった展開を、間違っても諸姉は期待してはいけない!

ここでホラーテイスト風コメディタッチが終わるとしても、この後にそういう展開は来ない!

来させない!



「怪談調の次は…、階段か。」


 廊下の突き当りに階上へと伸びる階段を発見した僕らは、2階へと進むことにした。

いや、それしか選択肢がないと言った方が正しいだろうか。

ここは先程とは違い2階から1階へと吹き抜けとなっているため、階上からの光が差し込んでいた。その明るさにちょっと安堵する。


 建物の老朽化は激しかったが元々の作りが強固だったからだろうか、崩れ落ちるような心配はなかった。

壁にはタイルが張られている。先程までの通路とは趣が違うようだ。

瓦礫のように剥がれたタイルが横に積まれていた。僕は足元を確認しながら階段へと進む。

先行しているリュウジンは、階上への警戒を強めていた。


 大蜘蛛なんかいるのだろうか、そう思ったときふと「蜘蛛ってよく天井にいるよね」などと思い、気になって天井を見上げる。

幸いにも大蜘蛛はおろか普通の蜘蛛すらいなかった。天井には何かしらの模様が描かれていたようだが、今となってはそれが何だったのか判別がつかない。



 階段を数段上り視線を元に戻したとき、ドアが落ち開け放たれた場所、廊下につながっているであろう空間が視界に入った。


「みゃー」


 黒猫がこちらを一瞥して鳴き、そのまま通り過ぎて奥へと消えていった。

何かを訴えるような視線だった気がする。

野良猫だろうか。小さな鳴き声だったせいかリュウジンは気が付いていないようだ。

僕は何となくその様子を見つめたが、気にしている場合ではないと階段を上り始める。


「みゃー」


 黒猫が先程と同じように、こちらを一瞥して通り過ぎていった。

なんだろうか。同じ猫なのだろうか。それにしては左から右へと横切るところ、一瞥する視線、鳴き声までもが不自然なぐらいに、先程と同じ光景だった。その訴えるまなざしまでもが一致していた。

僕はその不自然さが気になり立ち止まった。


「デジャヴだ。」


〔今何と?〕


「デジャヴと。」


 僕とミスミとの会話、正確には電話なわけだが、僕の不穏な空気に気が付いたリュウジンが振り返り立ち止まる。訝し気な視線を僕に注ぐ。


〔何か見たのでしょうか?〕


「黒い猫が鳴いて横切った後、似たのがもう一匹通り過ぎたんだけど…」


〔同じ猫でしたか?〕


「さぁ、わからないな。」



「調べる。」


 僕らの不穏な会話にリュウジンがボソリと呟き、慌てて階段を駆け上がり始めた。

僕は何が何だかわからず、リュウジンの後に続く。


「デジャヴは良くねぇことの兆しだ!」


「それ、映画とかの見過ぎじゃね?」


「排水管が走ってる空洞の壁を探すぞ!」


「この流れ、乗っかった方が良いの?」


 ここで流れ、会話に乗らないのは冷めた大人なのだろうか。

突然の事態に僕の頭はついていかない。だが置いてけぼりになるのも嫌ではないか。


「えーとミスミちゃん、この建物の構造図とかないかな?

 排水管のある壁の位置とかわかったりする?」


〔GPSで構造図とのリンク完了。3階の突き当りの部屋にあるはずです。〕


「言ってみたものの、ミスミちゃんもこの状況に乗っかるんですね…

 リュウジン、3階に上がって突き当りの部屋だって!」


 3階の部屋にたどり着き内部を確認する。トイレだった場所のようだ。仕切り壁は取り除かれていたが、奥に壊れかけた便器があった。そこの壁の内部に排水管が走っているのだろうか。

何やら階下が騒がしい。追跡者、これは鬼なのだろうか。


〔ダダダダダダダダダンッ、ダダダダ……〕


 イヤホン越しに銃撃音が響く。なんだ? ミスミちゃんも鬼と遭遇しているというのか?

銃撃音の他、激しい破壊音、靴が床を引っ掻く音、衣擦れや銃器の操作音が聞こえる。そして耳元をくすぐるように聞こえる吐息。


〔一旦、通信をオフにします。〕


「もしもし? もしもーし!」


 状況が悪化しているような気がする。ミスミは大丈夫だろうか。

僕は僕の心配をするべきなのかもしれないが、電話の切り方が不安になった。



「後継者だと祈るぜ。」


「いやいやいや、これ今、どんな流れ?」


 リュウジンは唐突に僕を呼び止め、外で一刀両断した胡桃(その片割れは僕のポケットに入っているわけだが)、その半胡桃を僕に手渡す。

はいはい、受け取ればいいわけね! ハンドガンじゃないことにちょっと安心したよ!


「うぉぉぉぉぉぉっ!!」


 リュウジンが壁に穴をあける。仕込み刀とは言え木刀の打突で壁破壊とか、何気に凄いよね。


 そこへ黒いスーツ、黒いネクタイ、黒いサングラスの半鬼が10体ほど詰めかけてきた。

うん、そうかそうか。やっぱりエージェント風か。きっと先頭の奴はスミスって名前だ。


「行け!」


 そう言うや、リュウジンは先程開けた壁の穴へと僕を蹴り込んだ。

たしかあの映画はそんな風に脱出しなかったような気がするんだけど?

あれかな? この後、ミスミちゃんがバイクで屋上に突っ込んできて、迫りくる敵をヘルメットで倒し、スコーピオンキックきめるとか?


 そう思いながら僕は壁の中を階下へと落ちていった。

これなら最初から上る意味はなかったのではないかと、思いながら。

映画のワンシーンとは違い、現実に同じことをしても無様だと思いながら。

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