表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第4のミ幕 高みに至るも悲しみを鎮めることは無し
77/205

くるみ餅×重力加速度=肉じゃが

 晴天の青空と、遠くの白くモコモコした雲と、艶やかな緑のコントラスト。

静けさの中で蝉の声だけがけたたましく響き、そして畑の堆肥の匂いと青い匂いが鼻につく。


 うん、美しい夏の田園風景だ。

その「夏」な感じの美しい風景に、自分が異質だというような浮いてる感、「何しにここに来たの?」感を強く感じてしまう。


「あー、えー。

 イチモンジさんはなんか溶けこんでますよね。その、なんと言いますか、風景に。」


 僕の前に背を向けて立つイチモンジのじいさんを見る。羽織っているシャツにしろ履いているハーフパンツにしろ、素晴らしくくたびれ、そして自然色な色合いが世捨て人感に拍車をかけていた。

この田園風景に溶け込むというより、背景の一部になりつつあった。


「ポーチドッ!」


「ハイィィッ!」


 一喝するかのような呼び掛けに、僕の名前はポーチドではないのだがその呼び掛けに、思わず姿勢を正してしまった。

しょうがないではないか。年の功には逆らえないのは世の決まり事だ。僕とて例外ではない。


 イチモンジのじいさんは歩みを止めることなく、ズイズイと進んで行く。

僕は逆らいようもなく、その背中について行く。



「くるみ餅食べるか。」


「?」


 それは「食べるならあげようか?」の「食べるか」なのか、「普段食べてる?」の「食べるか」なのか、あまりの唐突な返しと、抑揚(最後に疑問符が付く上がり気味の問い掛け)の無さに戸惑い、僕は即答出来なかった。

だがイチモンジのじいさんは、その沈黙を肯定と捉えたのか、そもそもその「問い」には最初から答えが包蔵されていたのか、包みを半ば投げるように手渡す。


「…ありがとうございます。」


 ここに来て諸兄諸姉、「くるみ餅」と聞いてどのようなものをご想像か。

関西では餅、あるいは白玉を餡で「包んだ」ものが「くるみ餅」だが、東北及び北海道では胡桃を用いたものが「くるみ餅」で、別名が「ゆべし」だ。

おっと、「ゆべし」は「柚餅子」で柚子が入っているのでは? とは地域性故の特性なので、後の検証は諸兄諸姉の内々にお任せする。


 いずれにしろ、僕が渡された「くるみ餅」は胡桃の方のやつだった。


 仄かに生温いのは人肌か、この熱気のせいか。

僕は、頂き物は積極的に礼儀を持って、責任を持って食す性格(たち)だが、確かにお腹が空いていたのは事実だが、このくるみ餅は乾いた喉に容赦がなかった。



「美味いか。」


「むぐまひと、いひまふか、

(美味と、申しますか、)

 あへてふ、のとにつまり…まふ。」

(あれで御座いますね、

 不詳ながら喉に詰まりますね。)


「そうか、美味いか。」


 なかなかの強者だな! イチ爺!

正面から1G=9.80665m/s2だなこんちくしょう!


 そう言いながらも、イチモンジさんはペットボトルの緑茶を投げて寄越す。緑茶は弧を描き、正しく重力加速度に則って僕の手元に辿り着いた。

僕は礼もそこそこに、ごくごくとその緑茶を飲み倒した。



「これが真の美味さであろうよ、ポーチド。

 美味さも時と場合ということじゃ。

 然りとてその後の行動によって、過去の事は良くも悪くもなる。いくらでも改善できる。」


 イチモンジのじいさんは、どんだけ実践派&禅問答か。若しくは、どんだけツンデレ&天然爺いか。

僕は喉と腹を満たし、ふとイチモンジさんの背中を見た。

だがその背中から答えなど見いだすことは出来なかった。


「イチG……もといイチモン

「時にポーチド!」


「あっ、じゃすたぁ!」


 イチモンジさんが僕の言葉を遮るように、振り返り、(でこ)を叩いてきた。


「この程度のツッコミを躱せんでようでは、まだまだじゃな! 儂の全盛期なら、お前はもう既に死んでたであろうよ。

 ボケのリアクションとしては40点ぐらいかのう。」


 僕はやられた(でこ)をさすりながら、本来ならばボケ担当ではない、と反論したかったが、どうにもポジションを取る事が出来ずにいた。


「胸に7つの…」


「服をビリビリに破いて、上半身が裸になる趣味は無い!」


「…さいですか。」


「話の腰だけは折るやつじゃな。」


 どっちがだよ! とツッコミを入れることが出来ないのは…、説明の必要はないだろう。



「してはポーチド。

 柴刈之大鉈は扱えておるか。」


「大いに役立てては、いますです、はい。」


「野菜は…、切ったことがあるか。

 肉は? 魚は? 料理はする方か。」


 話しの回転が明後日だな!

柴刈さんでは切ったことは無いよ!

どういう論法なんだよ!


「多少は。

 一応、自炊が多い方だと思います。あー、えーと。

 鬼はあまり切らない方かな? ははは。」


「ふむ。自分が食す物を直接捌くのは、良きこと。」


 鬼は食さないけども?

一応はボケたつもりだったが爺さん、予測の範疇でそこをスルーか…。


「してはポーチド。

 肉を切ろうと思って切るのか。ジャガイモを切ろうと思って切るのか。」


「いやま、そりゃ…

「本当にそうか? 仮に肉じゃがを作ろうと思ったら、出来上がりを想像してやらんか?」


「あー、

 まーそりゃあ「こんな風に作りたいな」とか「お、今日のジャガイモは煮崩れしやすそうだな」とか思ったりはしますけど。」


「じゃろう。

 肉じゃがを作るつもりで鬼を斬れ。」


「いやいやいやいや!

 それ、肉じゃが食べられなくなるやつ!」


「いいか、ポーチド!」


「へえ。」


「ジャガイモをこう切ろう。包丁はこう持って、ジャガイモを支える指は猫の手で、サイズは何グラム程度の大きさで、

あ、まずは皮むいて、その前にタワシで洗って…

 って、日が暮れるわっ!」


 って、一人ボケ一人ツッコミかよ!

マイセルフかよ! オート完結かよ!


「つまり出来上がりこそに意識は向けど、途中経過は無意識か、多少の修正程度じゃろうが。」


「いやま、確かそんな気はするっすけど。」


「鬼を斬るということも同じことじゃ。」



 …いや、そこは同じじゃないだろ!


「良いかポーチド、鬼となった者を浄化する、魂を救うことだけを考えろ。

 肉じゃが、カレーライス、チキンとポテトのローズマリーソテーを作ると思え。」


 いや、無理っす。

そして最後のやつは、なんて?


「そう思って鬼を刈れ。」



 もはやイチモン爺の説法、剣術レクチャーは、かの有名なカラテマスター、ミヤギ氏の理不尽さを遥かに凌駕しているのではなかろうか。


「あとは刀が応える。

 そういう風に仕込んである。」


「とりあえず…、肉じゃがを作る方向でやってみます。」


「ちなみに、肉じゃがは玉ねぎだとか白滝だとかは入れるタイプか。」


「玉ねぎは余ってたら入れますけど、白滝は大抵入れます。ちなみに肉は豚肉派です。」


「そうか。」


 最後の質問はなんだったのだ!

十中八九、鬼とは関係がないのだけはわかったが、イチモンGは食にうるさいタイプなのだろうか。熟年離婚の典型的なパターンなのだろうか。

ここにきて僕は「ばあさん」のことが気になった。そういや探せって言ってたような…


「イチモンG、…もといイチモ

「さて! ここまで案内すれば良かろうが!」


 え〜〜〜っ!

ここからが僕のターン、急所を突くような鋭い会話展開となるところじゃ、ないんですかねぇ?



「つまり、この先が旧岩狩病院ってことですか?」


「正しい問いというものがわかってきたようじゃないか。」


「へい。」


「うるさい奴がいるようじゃから、儂は退散する。あとは野となれ山となれじゃな。」


「うるさい奴?」


「んま、ポーチドとは気が合いそうじゃ。

 切磋琢磨しろ!」


「あっ、たっちめぇーん!」


「25点!」


 イチモンジのじいさんは再度、僕の(でこ)を叩き、油断していたが故の素っ頓狂、不本意な僕の反応に評価を下すと、その隙に来た道を戻っていった。

なんともまぁ随分とハイクオリティなマイペースじいさんではないか。


 僕は赤くなったであろう(でこ)をさすりながら、坂道を登っていった。

おそらく、いや間違いなくこの先に噂の目的地があるということなのだ。進まざるを得ないのだ。



 その時、僕に目掛けて「硬質さで名高いアイツ」が飛来してきていることを、まったくもって僕は知る由もないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ