異様なほどにtake4
山羊女の放った不可思議な紙吹雪が迫る中、ウズウズの若竹色のオーラが実体化する。
いや、実体化というほど確たるものではない。しかし目に見えて姿形がはっきりと浮かび上がっていた。それはニコナの犬オーラほど大きなものでは無かったが、明らかに異形な存在だった。
ウズウズが纏うオーラ。
それは「三面六臂の猿」だった…。
オーラを纏ったウズウズは確かに僕の心を、焦りを鎮めはしたが、今度はその冷たさに背筋が凍りそうになる。
味方すら恐怖に陥れるような異形。その「三面」の猿はそれぞれが「喜び」「怒り」「悲しみ」を表している様だったが、いずれの顔も冷酷な冷たさを持った表情だった。
全ての感情を凍らせる様な、無慈悲な表情。
『冷徹の魔猿』
そんな通り名が僕の頭の中をかすめる。
そうだ。これがウズウズの本来の姿、魔獣の姿だ。
いや待て。そんなはずは…
それは僕の知っているウズウズなのか? それが僕の知ってるウズウズのことなのか?
記憶に霞がかかり、僕は混乱する。
そんな僕の心情、僅か0.8秒の混乱などは配慮されず、ウズウズが紙吹雪に鋭く起し金を振るう。
僕の目算が正しければだが、紙吹雪の紙片が仮に1㎠だとしよう。それが、数えるのも馬鹿らしくなるぐらいの数が襲って来ていたわけだが、それらの全てをウズウズは二太刀、この場合は太刀では無いにしろ二度切り刻んでいた。
つまり1辺が0.5cmに刻まれていた。
だが、紙吹雪はその神速な刃に失速こそしたものの、粉雪のように細かな姿にかえて、依然と僕らを襲って来る。
これは逆効果だったのでは…
などと僕が感じるのも束の間、ウズウズの背後に控えていた「悲しみの猿」が、たこ焼きピンで次々に射止めていく。
「喜び猿」が、フッと冷笑を浮かべたように見えた。
つまりウズウズが今、正面に纏っているのは「怒りの猿」なのだろうか…。
いやいやむしろ、最初に小さく切り刻む必要があったのだろうか…。
僕の「気にしてはいけない、つっこんではいけないポイント」を他所に、捕らえられた紙吹雪達が、たこ焼きピン上で、まるで大量の羽虫のようにパタタタと音を立てている。
全て捕らえきったというのだろうか。
心なしかウズウズの背中が自信満々、「やってやったぜ!」感が滲み出ているような気がする。
「三面六臂の猿」の三面がグルグルと回り出す。
その光景はもはや異形を通り越し、異様な光景だった。異様さはさらに拍車をかけ、その三面がピタッと止まったかと思うと、たこ焼きピンで射止めていた、紙吹雪たる羽虫群をパクっと食べてしまった…。
やばい! これはやばすぎるっ! と、その光景に心は訴えたが、僕は山羊女の方へと視線を移して刀を身構える。そうだ、気にしている、油断している場合ではない。
身構えた僕の柴刈乃大鉈がカチリと音を立てる。
「その…、あれだな、ウズウズ。
結構さ、その、怖いな。それは。
その…、なんというか、猿オーラは。」
「…。
怖……い?」
僕のその言葉の直後、ウズウズがその場に崩れるように膝をつく。
うなだれたその背中から剥離された「三面六臂の猿」が虚空に取り残され、ゆっくりと無為にグルグルと旋回している。
お、落ち込んでいるのかウズウズ? 山羊女の初手を回避したとはいえ、油断禁物な状況に変わりはないんんだが?
あれか! 僕の言葉が失言だっていうのか?
おーい! ウズウズちゃーん! すまん! 失言だった! やり直そう!
僕が悪かった! ねっ? ねっ?
take2
身構えた僕の柴刈乃大鉈がカチリと音を立てる。
「その…、何といったらいいのか…、あれだ、ウズウズ!
その猿オーラ?
う~んと、その…、なんというか、すごいな、それは!
恐怖を恐怖で支配する的な、インパクトが強い光景だな!」
「…。
恐……怖?」
僕のその言葉の直後、ウズウズがその場に崩れるように膝をつく。
うなだれたその背中から剥離された「三面六臂の猿」が虚空に取り残され、ゆっくりと無為にグルグルと旋回している。
って、おーい! ウズウズちゃん!!
僕が悪いのはわかってる! 助けてもらったのに「怖い」とか「恐怖」とか、心無い言葉なのはわかってる! だけど、なんというか、僕にはそれ以外の感想というか、語彙が見つからないんだよ!
だって猿達がグルグル回ってるし、今も回ってるし、食べちゃうしだよ?
ウズウズはそりゃ、暗いし言葉数少ないし、いまいち感情のつかみどころないし、でも豊満な母性だし眼鏡女子だしで、なんというか可愛い所もあると思うよ?
だけどさ、三面六臂とか神がかってるというより悪魔がかってるというか、阿修羅ってるっていうか「印度の古」な感じじゃん?
ウズウズが無口で無感情な感じで、それでいてポヨンポヨンで眼鏡キラーンな女子で、でも見た目のわりに舌足らずな感じが守ってあげたい感というか保護したい感というか、目が離せなくなるような危うさが父性本能というか、そういうのを刺激されるのは確かだよ? 僕はまだ父じゃないけど確かだよ?
でもさ? きっとその「三面六臂の猿」は、「無感情さまっしぐらな猿三人衆」は、初めて会ったら卒倒ものな出で立ちだと思うんだよね?
オーケー、オーケー! 言い訳はよそう!
そうだ、そうです。僕が悪かった!僕の失言だった! うん、そうだ! やり直そうじゃないか!
take3
身構えた僕の柴刈乃大鉈がカチリと音を立てる。
「ウズウズ! いいよ!
その…あれだ、ウズウズ!
上手く言えないけど、その猿オーラ?
え~と、その………、強いな! そいつは!
……、
びっくり仰天、猫まっしぐら!
泣く子も黙る、うんちゃらかんちゃらで、最強な感じだな!」
「…。
無理……してる…。」
僕のその言葉の直後、ウズウズがその場に崩れるように膝をつく。
うなだれたその背中から剥離された「三面六臂の猿」が虚空に取り残され、ゆっくりと無為にグルグルと旋回している。
いやいやいやいや、ウズウズさん? ごめんなさい、って!
そりゃ無理やり感はあったかもだけど、いい加減、諸兄諸姉も飽きるって!
なんていうの? 「ネタは三回まで」っていうの? 「サンド萌えの正直」じゃなかった勢いで打ち損じた、「三度目の正直」っていうの?
あれだよ! ほら「仏の顔も三度撫でれば腹立てる」とか言うじゃん?
もうわかった。僕の至らなさなのはわかった。ここまでくれば諸兄諸姉にだって、僕の至らなさは周知されたであろうこともわかった。
よし! 僕も腹をくくろうじゃないか! とことんまで付き合う覚悟だ!
take4
身構えた僕の柴刈乃大鉈がカチリと音を立てる。
「正直、その三面六臂に言葉も出ないが…
ありがとうウズウズ、助かった。
どうやら、その力が必要なようだ。」
「…。
必……要?」
「うん、ウズウズが必要だ。」
僕のその言葉の直後、ウズウズがその場に崩れるように膝をつく。
うなだれたその背中から剥離された「三面六臂の猿」が虚空に取り残され、ゆっくりと無為にグルグルと旋回している。
どうしたらいい…。
何が正解なんだウズウズ…。
僕が間違ってるというのか。
生まれてきてゴメンなさいは僕の方か。
「……わかった。」
ウズウズがそう小さく呟くと、膝をついた低い姿勢のままユラリと横に傾き、流れる液体のように山羊女へと歩を進める。
え? え? なになに?
諦めて脱力気味に発言した僕の言葉の、どこに琴線に触れる部分があったの?
どゆこと?
「いつまであなた達の茶番に付き合っていればいいのかしら?
それともそれが桃太郎のやり方なのかしら?」
相変わらず僕らに視線を向けているのか向けていないのか、その虚ろな目線の山羊女が呆れたように言い放つ。
ウズウズの「全方位防御」によって紙吹雪を亡き者にしてやったことなど、全く意に介していないようだった。
しかし僕らは気付いていなかった。いや僕が気が付いていなかっただけなのだろうか。
僕らの上空、祭りの夜空には、先程の数倍はあろうかという紙吹雪、いや紙竜巻が静かに旋回し、僕らを見下ろしていたということを。




