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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第2幕 鬼来たりて童は舞い踊り
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海猫は呑気を足蹴にして

 人々の楽しげなはしゃぐ声。その背景に海岸へと押し引きする波の音。そして呑気な海猫の鳴き声。うーむ。夏真っ盛りな海水浴場の音達だ。

いや、海猫が呑気だと思っているのは僕の主観かもしれない。彼等は彼等なりに必死であるのかもしれない。

そう、今の僕のように。


 時に諸兄、百戦錬磨な諸兄。唐突であるがお尋ねしたい。いや、切実にお尋ねしたい。こちらが全くの気の抜けた状態である時に、唐突に女の子に声をかけられた場合、どう答えるのが「できる男」的なのかと。意中の女性に対し、このシュツエーションで、どう答えるのが好印象なのかと。

はたまた諸姉、経験豊富な諸姉よ。どう答えれば「あぁ、貴方とこんな所でお会いできたのは、偶然なんかじゃないのね! そう、これは私達の運命。つまり必然なのね!」と、思ってもらえるのかと…。



「あら? 幌谷くん。」


「へ? はぇ? ほ、ユイ先輩!

 どうしたんですか、ユイ先輩?」


 僕は素っ頓狂な、「は」行を連発するような、残念な返事をするに留まらず、それを隠そうとしてさらに意味のわからない「は? お前、それって何問答?」な質問をしてしまった。

しかし、ユイ先輩はクスっと優しく笑うと、僕のどうしようもない質問を、正しい方向に修正し答えてくれた。


「この先の岬の方にね、珍しい洋書を置いている喫茶店があるの。そこに行こうと思って。

幌谷くんは、海水浴?」


 僕の海水パンツにかりゆし的な見た目から判断されれば、ユイ先輩のそれは正しい。だが、なんとなく今回の設定上の僕を、言い訳のように答えてしまった。


「えぇ、そうなんですよ。

 まぁそうなんです、というより、従姉妹達を海に連れて来たって感じです。」


 僕はあながち間違ってはいないだろう風に答えたが、どこか後ろめたい気分だった。

だが、それ以上にユイ先輩の数メートル後ろにいる男の方が気になった。


 誰なんだ、この男は。知らない男だ。そりゃ僕の知らない男はこの世にいくらでもいるだろう。だがその男の視線は「おや、ユイの知り合いかい?」といった風ではなく、「ふぅん、ユイの大学の子か何かかい。」といった、どこか大人の余裕のような感じの視線だった。

それでいて、どうも僕を品定めをしているような感じが気に入らなかった。

これは単に僕のジェラシーがそう見せているだけなのかもしれない。

でも、ユイ先輩の隣にいるには似つかわしくない、感じの悪い男だ。と、そう思った。

しかし、そんなことを思ったとて、僕が何かを言う資格があるわけでは、ない。



 僕が彼の方を見ていることに気がついたのか、ユイ先輩は一度、彼の方を振り返り、そして「なんでもないのよ、彼は」といった、まるで「あれ? 今、たい焼き屋の移動販売か何か通った?」といった感じで一瞬だけ確認し、そしてすぐにいつもの柔らかな笑顔で僕の方へと向き直った。


「それじゃあね、幌谷くん。

 またサークルでね!」


 そしてユイ先輩はゆっくりと彼の待つ車の方へと歩み、開けられた助手席へと乗り込む。


 そりゃそうだ。ユイ先輩に彼氏や彼氏候補の一人や二人、いないわけないじゃないか。ひょっとしてひょっとしたら兄弟や従兄弟だってあり得るじゃないか。

僕はなんだって、ジェラシーなんかを感じる必要があるというのだ。



「誰? にぃちゃんの知り合い?」


 いつのまに傍に来たのか、ニコナが僕の右脇から声をかけてくる。


「あぁ、大学の先輩だよ。」


「ふーん。」


 ニコナは興味あるのか、ないのかわからない曖昧な反応で返してきた。


「さて、腹すかないか?

 海の家でなんか買って行くか。」


 僕はニコナの半乾きの頭をくしゃくしゃと撫で、踵を返して海の家へと歩きはじめた。


 一体、僕は何を気にして、何を誤魔化しているというのだ。誤魔化したい現実など、この世には溢れかえるほどあるではないか。



 僕等が目指した海の家には、想像以上の人だかりができていた。昼食には少し早いぐらいの時間なのに、こんなにも人だかりができるものなのか。

僕はその人だかりを見てげんなりした。元々、僕は人混みが好きではない。まして行列に並んでまで繁盛店に行きたいと思うほど、僕はアグレッシブではない。


 そんなに美味い何かが、この海の家にはあるというのか。僕は興味本位というより、半信半疑、否定材料を探す性悪なクレーマーのように、その人だかりの要因を脇の方から確認した。



 って、おーい!

おーい、ってレベルじゃないぞ、うぉーい!!

なんでここに佐藤ウズシオが、ウズウズがグラマーな水着にハッピという夏まっしぐらみたいな服装で焼きそばを作ってるんだよ!

いいよ、いいよ?

焼きそばぐらい作ったっていいさ。海の家で「この夏は、ここがオイラの稼ぎ場だぜぃ!」とかってのはいいよ?

でも、なんで僕の行くところ行くところでバイトしてんの? いや、僕が悪いの?

僕がウズウズのバイト先に現れまくるストーカー的存在なの?


 ウズウズは一心不乱に、いや「最近のAI搭載人型ロボットはすごいよねー。焼きそばも作れるらしいよ。」と勘違いされるような無表情マシーンで、焼きそばを生産し続けていた。

うーん、接客は壊滅的だが、道具を使うとあれだけの動きが出来るということか。起し金(焼きそばやお好み焼きを作るときに使う、金属製のへらのことだ)は武器の一種なのか。手元の動きが早すぎて残像しか見えない。おそらく悲しむべきは、あれだけの動きをしているのに、上半身は全くぶれることなく、その豊満な二つの入道雲がプルンとも揺れていないことだろう。ここいらの衆人男子諸君もそこを期待しているようだが、それは叶わぬ夢だ。

だがしかし、この海の家がこれだけの集客を得られているということは、その二つの入道雲によるところが大きいと推察できる。


「カツーン」


 突き抜ける青空へと響かせるように、ウズウズの起し金が灼熱の鉄板を叩く。どうやら今日のノルマ、在庫の材料は全て使い切ってしまったらしい。ちょっと強面なおじちゃんが、集まっていた男子諸君を逃すまじと、見物料として焼きそばを強制的に買わせ…、いや、これは男性諸君が自ら進んで買っているのかもしれない…。

トボトボと店の奥に入っていくウズウズを見送りながら、僕も焼きそばを3パックほど買った。


「ニコナ、他に食べたいものあるか?」


 僕は後ろを振り返り、ニコナに問いかける。しかし、そこにはニコナがいなかった…。



「おまえ、猿だろ。」


 海の家の裏から出てきたウズウズの前に、ニコナが立ちはだかっている。


「……、犬。」


「むぅ〜っ! そんなんで、そんなんで!

 にぃちゃんをたぶらかしてるんだろー!」


 ニコナが指し示してるのは…。ウズウズの胸だ。


「ふっ」


「あーっ! 今笑ったな! バカにしてるなっ!

 くぅ〜っ!」


 ニコナ。いつもはもっとクールなのに、随分と感情的になってるな…。ちょっと涙目だし。そしてウズウズ。笑うこともあるのだな君は。いや、笑っちゃダメだろ、そこは。

つか、何争いだよ!


「どうしたんだよ、二人とも。」


 僕は素知らぬ風に二人に近寄った。これはうまく引き離さねばならない予感だ。

しかし、ニコナは一歩早く、真空飛び膝蹴りを仕掛ける。ウズウズはスゥーっと体を捌いて躱し、ニコナの背面へと反撃を…


「って、ちょっと待てぃ!」


 僕は慌てて二人の間に入り込む。が、ウズウズは容赦なく左手の起し金を振り下ろし…


「うおっぷ!」


 ニコナが瞬時にティッチャギ(テコンドー、上段後ろ蹴り)を放つ。しゃがみ込む僕の頭を掠め、起し金を足の指で白刃どりした。そして互いに静止する。

うーむ、ニコナのスラリと伸びた内腿、ウズウズの豊満な胸…。下から見上げるこのアングルも悪くないな。

って、そうじゃない!



「あっ」


 ウズウズは素早く右手の起し金で、伸びたニコナの足を薙ぎにいく。


「らっ」


 ニコナは瞬時に伸ばした足を振り上げ、バナネイラ(カポエイラ、逆立ち)に移行し、そのまま回転しながら連続で蹴りを繰り出す。


「そっ」


 それに対し、ウズウズは躱しながらも距離を開くことなく、攻撃の手を休めず起し金を薙ぎ続ける。


「うなーっ!

 僕の頭上で争うなーっ!」


 僕の要請に二人は互いに距離を取り、攻撃を止める。

ふふふ、幸いにも二人ともノーダメージのようだな。よろしい。

だが攻撃の1割は、僕に的確にヒットしていたぞ!



「ニコナにウズウズ、初対面で〇秒でバトル! とかやめてくれ!」


「にぃちゃんがそう言うなら、今回は分けだな。」


「……。わかった。」


「よーし、じゃあ皆んなにアメリカンドックを買ってやろうじゃないか!

 夏といえば海、海といえばアメドク! ラブアンドピースだ!」


 僕はこのテンションを維持すべく、間髪入れずに二人を引き連れ、アメドクを人数分、ニコナの友達の分も含めて人数分買った。

 ウズウズは早速、アメドクに視線をロックオンし、休憩へと戻っていく。うん、ウズウズはこれで大丈夫だろう。



「友達のところに戻って焼きそば食べようぜ。」


「…。焼きそばはいらない。」


「そういうこと言うなよニコナ。焼きそばに罪は無い。」


 そうだぞ、ニコナ。胸の大小に罪は無いじゃないか。

凹むなニコナ。君の可愛さは無敵じゃないか。


 とはいえ、ニコナは大事そうに三人分のアメドクを握っていた。うん、この分ならニコナの機嫌も時期になおるだろう。



 二人の喧嘩を仲裁する。それも食べ物で。

僕はなんだか、自分は昔からこういう役回りだったような気がした。

なんなのだ。この懐かしいような、やれやれ感となごみ感のような感情は。


 海猫が僕と太陽の間を横切り、一瞬の影を僕の足元に落とす。

「呑気にしているのも、そろそろ終わりだ」とでも言うように。

僕は僕なりに必死だというのに。

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