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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第7の戌幕 地に息吹あるや否や
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三度相見えて第三ラウンド

「Face each other

 三度、相見えるか。」


 兵跡が大地をトトンと踏む。土中から僕らを突き刺さんと氷柱(つらら)が複数、迫ってくる。


「ニコナ! 友達は?」


「ん? 琴子とヒヨリン?」


 僕は先程同様に、その逆さ氷柱を刀で防ぎ凌ぐ。ニコナは練習かウォーミングアップのように優雅に舞いながらその氷柱をいなし、すり抜け会話を続ける。


「ミスミさんにさぁ、二人を頼んますってお願いしたんだけどさ、

 そしたらヤチヨから電話きてさぁ、手配するって。

 もうさ、嫌味ったらしいんだよ? あのババァ。」


「いやいや。中身はお婆さんかもしれないけどババァ呼ばわりはなんかその、

 あれだろ、反抗期の母親に対する表現みたいだろ。見た目は小学生女児なんだし!」


 僕のわりと必死な防御に比べ、ニコナは自身の身体が思ったように動くのかを確認しているかのようだった。攻撃に対する防御以下といった感じだ。


「んで! 今現在は?」


「なんて言ったっけ? 屋敷船? 家がのっかった船。

 それに琴子とヒヨリンを載せてきた!

 もうさ! びっくりしてた!」


 ニコナが思い出し笑いで一層その笑顔をほころばせる。

そしてその気持ちに呼応するように動きが加速していく。いなし躱す動きから、氷柱を捉え砕く動きへと変わっていく。


「それ、たぶん屋形船な……。

 そりゃ驚くだろうよ! とんだ財力だなッ! ヤチヨ様はッッ!!」


 先程よりも距離が近いからなのか秘かにテンション上がってるからなのかわからないが、兵跡による牽制の数が多くなっていた。必死に捌き続けていたところへ、正面から極太な氷柱が僕に迫りくる。

僕は瞬時に貫かれるのを覚悟し、その後のリセットを腹に決めた。


「これで存分にやれるだろう? 駄犬。

 ってさ? ひどい言いようだよね?」


 ニコナが僕に迫っていた極太氷柱に向けて背部による打撃をきめる。八極拳でおなじみの鉄山靠。僕の目の前で極太氷柱が粉々に砕かれていく……。


「……んまぁ、お互い様な気がするよ。」



「さてっと。

 十分すぎるほどに身体が温まってるんだけど?」


「成長著しいな、少女。」


 兵跡がポケットから手を出し、ここに来て初めて身構える。


「まぁ、成長過程にある乙女なもので、ねっ!」


 躊躇なくニコナから仕掛ける。

初手からのトップスピード。真っ向からの連撃。身長差やウェートは大人と子供ほどの開き。だがニコナはその差をものともせず、いやそれを利用するかのように上下左右と前面180度。いやそれ以上か。

正面へと間断なく打撃を放っていく。一つ一つの打撃を試し打ちするかのように。

ん? 兵跡がブレた? どういう動きなのかステップを変調させて体軸を僅かに逸らす。

そこから閃光のようなハイキック。距離を詰めたニコナの側頭を襲った。


「それはさ、読めた。」


 蹴り抜かれたかに見えたニコナが残像を残し、低空からのソバットで空を切り、数歩後ろに着地する。兵跡の被っていたフードがパサリと降ろされる。


「カウンターにカウンターを合わせてくる、か。」


「これでさ、本気で遊んでくれる気になったかなぁ。」


 大鷲がその翼を大きく広げるように、ニコナが両手を優雅に開くとそのまま内へと小さく畳む。そして今度は獲物を虎視眈々と狙う爬虫類のように滑らかな動きに転じ、構えた。


「……、面白いことをいう。」


 兵跡が右スタンスの構えから左スタンスへと変える。


「その受け、氷で固くしてるやつさ。硬気に似てるよね?

 他の部分でもできるの?」



 今度は兵跡から仕掛ける。初めて見た。こいつから攻めるところを。

キックボクシングらしい基本的な攻め。ローキックで牽制しつつインに潜り込みパンチを放つ。

細かなラッシュ。攻めすぎることなくインアウトを繰り返す。間断なく。

通常の試合ではグローブをはめていることからわからなかったが、構える両手は握っていない。インパクトの瞬間だけ握り、反撃には掌で受け流し、四肢で防いでいる。身長差もあり、ミドルキックがハイキックの意味を持つ。打ち下ろすようなパンチが多いのも身長差、ニコナの構えからだろうか。


 対するニコナは先ほどまでの猛攻とは違い、爬虫類の如く、柔軟に身を躱し攻撃の全てを防ぐ。そして執拗にカウンターでボディへと抜き手を放っていた。


「当たったのは1割にも満たなかったか。残念。

 でも、やっぱりできなくは無いんだ。その氷の使い方。」


「……、無意識だがな。」


 互いの攻防は切れてはいない。兵跡がブラフにブラフを重ねたのか、崩れるように上体を極限まで低くし、見えないほどの速度でニコナにアッパーカットを放つ。

後方へと大きく吹き飛ぶニコナ。反射的に僕はニコナへと駆けた。



「そしてインパクトの瞬間に凍らせてくるわけね。

 やっぱ発勁に似てるよね、それ。

 攻撃も防御もさ。」


 凍らされたと思ったニコナが、平然と防御に使った両腕を払う。

まるで服の上についた雪を払うように。いや事実、その払われた両腕から雪の結晶が落ちていく。


「ニ、ニコナ! 大丈夫なのか?!」


「あ! にぃちゃん。もしかしてあたしの心配してくれた?」


 戦いの最中(さいちゅう)、命の取り合いの最中(さなか)とは思えない笑顔で僕へと返す。

その笑顔はまるで、遊びに夢中になっている子供に声をかけた瞬間のようではないか。


「そ、そりゃまぁな……」


 再び兵跡を見据えるニコナ。


「発勁とこのあたしの力。割と使い方は同じなんだよね。

 そしてさ、それってあんたも同じってことでしょ?」


 ニコナから立ち上るオーラが見てわかるほどに、緋色に輝く大きな犬の姿を形作る。

まさに獣の王。闘うことだけに特化した狩る者の姿。純粋な闘争の具現。

ニコナはそのオーラで、その内在する力で兵跡の力を防いだということなのだろうか。兵跡の氷結を発するオーラで弾いたのか。


「……、相殺か。」


 兵跡が靴の調子を確かめるように、つま先を大地にココンと打ち、手首をほぐす。まるで試合前の格闘家のように。



「第二ラウンド、といこうか。」


 兵跡がハーフコートを脱ぎ棄てる。そして軽快なステップを踏み始め、構えを取る。正統なキックボクシングの構え。

こうなってくると僕はまるで蚊帳の外だ。

うん、最初から蚊帳の外だったろう? とは言ってくれるな! 諸兄諸姉!

「バトルシーンで解説する仲間」みたいなポジションまでは落ちないからな!

せめてセコンドぐらいの役割は果たしたいぞ!! 僕は!!!



 ニコナが先程のコンパクト且つ低い構えから一転し、両腕を大きく振り上げ回す。兵跡に対し半身以上、ほぼ真横で相対する。上体が保たれ、両足は広くスタンスを取って沈み込んだ。

兵跡のコンパクトな構え、リズム、動に対し、ニコナは大きく、そして静。あえて真逆に対応しているのだろうか。


 二人が同時に動き出す。


 互いが互いにぶつかり合い、牽制、というよりは技の確かめ合い、探り合いのような攻防。インに踏み込むことなく、外からの打ち合い。

一定の距離間、兵跡の距離感では、身長差からニコナが不利に見えたが、そんなハンデは感じられない。

ニコナの受けは即、攻撃に転じられていた。いや、受けと攻撃が同時に行われている。カウンターとはまた違う動き。兵跡に合わせて闘っている印象だ。


 一見すると五分五分、ややニコナの方が上回っているように感じる。

だがそんなはずはない。ニコナは気が付いているだろうか。


 兵跡が左右へとブレるような動きを織り交ぜてくる。

つかみどころ無く、次から次へとステップ、リズムを変調させていく。そこにはブラフが混ざっているのだろうか。ニコナの手数が減っていく。



 兵跡に蹴りに対しニコナも蹴りで合わせたが、力負けしたニコナが吹き飛ぶ。

吹き飛んだ勢いに任せ、バク転、側転を交えながらニコナが兵跡から距離を取った。


「……、大丈夫か、ニコナ。」


「む~ん!

 残念ながらここがあたしの、現段階での到達点かな?

 今のままだと倒せなくもないんだけどさ、残念。」



「久々に本気になれそうだ、少女よ。

 1ラウンド3分。これ以上、遊ぶ時間はない。次で終わりにしよう。

 第三ラウンドだ。」


「へぇー。

 あたしに本気出してくれるんだ。」


 兵跡から凍てつくような瘴気が発せられる。冷気が立ち上るように。

そして頭部には重々しい水牛のような角が現れる。

その立ち姿は絶対的王者の風格。全てを寄せ付けぬ冷酷な闘鬼。


 次は殺す気で来る証……。

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