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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第7の戌幕 地に息吹あるや否や
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氷柱に閉ざされた膠着

 周囲に霜柱が立つ。

いやいやいや! 霜柱といえば冬じゃないか!

確かに夏が終わろうとしている。だが夏が終わってすぐ冬が来るわけがないじゃないか! それになんだ、あれだ! 霜柱は靴底からシャリ、シャラリと鳴る程度のものだろう! ちょっとだけ哀愁が漂う程度のものだろう!

だが僕の前に並ぶものはなんだ! 霜柱ではなく巨大な氷柱だろうが!!



 さてさて諸兄諸姉よ!

最早、「しょ」の段階で予測変換されるほど親愛なる諸兄諸姉よ!!

本日はご多忙の中、僕は五里霧中の中、日頃よりご指導ご鞭撻を与え下さる諸兄諸姉に、今一度、お知恵を拝借願いたい!!

諸兄諸姉は自分のキャパを超えた事象、とりわけ生命とは言わないまでも人生に関わるような問題が起き、今すぐにでも対処せねばならないような状況に置かれた場合、どうなるタイプだろうか?


 「あれ? それって前にも質問しませんでした?」

いえす、あい、どぅ~! 仰る通りだよ! 諸姉!!


 「あほかっ! 自分で考えて対処せんか~~~いっ!」

うん、その通りなのだが諸兄! へるぷ、み~、ぎぶ、み~! なのだ!!


 がしかし、

僕は僕なりに此処まで試行錯誤からの微々たる成長をしてきたつもりだ!

以前のように「茫然自失し、動きが止まる」なんてことは無い!

「慌てふためき、無意味な言動、奇行に走る」なんてことは過去のことなのだ!

そう、僕はしっかりと此処に留まり、眼前の事象に真っ向から、対処しているっ!!


 とはいえ……

万策尽きようとしていることは否めない膠着状態なのだ……

他力本願に助けを求めたく候っ!!



「hard to understand……

 何がしたい、桃太郎。」


「ぼ、僕は桃太郎なんかじゃない!」


「……、通り名以外は知らん。」


 僕を突き刺すように土中から「逆さになった氷柱(つらら)」が次々に襲い掛かる。

右へ左へ、あるいは前後へと躱しながら僕は兵跡を睨んだ。だが奴と僕の視線が合うことは無い。兵跡はその着ているハーフコートのフードを目深にかぶり、視線をこちらに向けることはなかった。


 両手をポケットに突っ込み佇む兵跡。

佇まいから見れば僕は奴へと仕掛けられるように見える。だが兵跡が時折、大地を踏み抜いた。その度に忌々しいことに僕へと向けて氷柱が立ち上がり僕と奴への道を遮る。


 僕は「そんなものは無い!」という意思を込め、その襲い掛かり僕の行動を阻害する氷柱を斬り、そして雲散霧消させていった。

だが手数が違う。僕は後手に回り続け、兵跡を捉えきれることはなかった。

だがどうだ! 兵跡とて僕を無視して進むことは出来まい! つまりこれは膠着状態!!


「そんな小細工で! 僕をやれると思うなよ!!」


「……、」


 強がり、虚勢かもしれない、僕の発言は。

だがどうだ? 奴は言い返す言葉すら無くなったではないか!



 全てを浦島家、リュウジンに任せて僕は先へと急いでいた。出来るだけ先に、出来るだけ早く橋へと辿り着き、万全の態勢を整え迎え撃つ心構えだった。

だが僕の希望虚しく兵跡に追いつかれてしまったのだ。幸か不幸か他の鬼は見当たらない。奴一人ならばと僕は刀を振るっているわけだが、全くもって相手にされている感がない。手も足も出ない状態に陥っている。


 兵跡と僕は似ているところが全くない。似ても似つかない。

だが一点だけ共通項があるように思う。確かに技術、力量、経験。つまり戦闘能力は奴の方が上だろう! だがどうだ、この膠着状態は! つまるところ、ある一点に置いて力が均衡しているのだ!

間違いなく僕と兵跡は一撃必殺を狙うタイプ。もちろん僕の方がそのレベルが下回るとしても、相手を殺傷しめる力は、蜂と虎においても同等ではなかろうか。

そしてその一撃を放つために、僕らは明らかにカウンター型なのだ。


 勿論「相手の攻撃を凌ぎカウンターを狙う」レベルは奴の方が上だ。だから今現在、僕が凌ぐ係なのだが……

とはいえ、奴は積極的に攻撃し、距離を縮めてここようとはしていない!

呆れているのかも、もしかしたらそうかもしれないが……



「……用がないのなら、押し通る。」


 氷柱が並木道のように立ち並び、兵跡の道を作らんとしている。

それは世界を否定し拒絶する壁のようだった。煩わしい喧噪を遮断するような氷の道。


「ま、待て! この先の人々に危害を加えることは許さん!」


「apathic」


 ん? どういう意味だ? なんだっけ?

執着しない? 興味がない? ん?

僕に興味がない? 話に興味がない? それとも逃げる人々に興味がない?


「おっ、お、お前の母さんが泣いてるぞっ!」


「……、俺に母親はいない。」


「お、おぅ、そうか……

 じゃなかった! お、お前の目的はなんだ!」


「橋を壊す。ただそれだけだ。」


「ま、待てっ!」



 つまりはなんだ? 人々を殺すのが目的ではなく橋を壊すのが目的だといいたいのか?

いや待て。そうは言っても、こいつの場合だと人がいようといなかろうと関係がなく目的を達成するだろう。つまり犠牲者がゼロということはあり得ない。

では人々の避難を完了させて橋を受け渡すか? いや違う。それは妥協点、譲歩案に見せかけて短絡的思考だ。それは敗北と変わらない。

鬼どもの目的の全貌はわからないが、橋を壊すということはここが陸の孤島となるというに等しい。結果的に犠牲者は生まれるはずだ。

橋を壊させるわけにはいかない!!


「よ、よ~し、お前のも言い分はわかった!

 お前がしたいのは橋を壊したい! そして僕らがしたいのは人々を危険に晒したくないだ!

 その上でだ! 今はまずい! 今、壊されるわけにはいかないっ!」


「……、知らん。」


 だからちょっと待てって! 必要以上にその氷柱を僕に突き立てるな!



「くっ! よかろう!

 押し通るというのならば、僕にできる事はただ一つ!

 邪魔させてもらうっ!!」


 浦島家での特訓よろしく、立ち上がる氷柱を足場に兵跡へと駆ける。

はっはっはっ!

池に並んだ木柱に比べたら、氷柱を駆け抜けることなどたやすい!

落ちても水に濡れることもないっ!


 兵跡の間合いはわからない。僕の間合い、刀の間合いを維持して刃先で撫で斬りかかる。


「……、踏み込みが浅い。

 さっきの子供の方がまだましだ。」


 さっきの子供? リュウジンのことか?

一戦交えたのか。兵跡がここにいるということはリュウジンの刃は届かなかったということだろうか。あいつは無事なのか。


「そんな子供に大事なコートを斬られたようだけどな!」


「……、子供以下の者がはく言葉か?」


 おそらく兵跡のコート、胴が切り裂かれているのはリュウジンによるものに違いない。


「んじゃ、戻ってやり直して来いよ! その子供と!!」


「遊んでいる暇はない。お前ともな。」


「うごっ!!」


 僕が刀を振り切った隙をつくように兵跡が一気に距離を縮め、開いた脇腹に向けてミドルキックを放ってくる。勿論それに合わせて氷結のおまけ付きなのは言うまでもない。

咄嗟に肘を下げ防御したがその肘ごと僕の胴を蹴りぬかれる。刀の軌道に制動をかけず、その勢いを利用し僕は蹴られた方向へと自ら飛んだ。それでも威力は消え去らない。

「蹴りによるダメージは無い、氷結もない!」と瞬間的に過去を上書きする。「痛い」という感覚、記憶だけは残り、僕はそのまま立ち上がっていた氷柱へと激突した。


 「遊んでいる暇はない」。つまりリュウジンは戦闘不能には陥ってはいない。いや、あいつがそう簡単に、今の僕のようにやられるわけがない。


 体を起こし体勢を立て直す。修行の成果か打たれ強くはなっているように思う。勿論、大きなダメージは「桃源郷送り」でノーダメージにするにせよだ。痛みに対する耐性だとか次に対する心構えだとかが身についてきたように思う。

しかしながら、やはりそうか。仕掛ける分、カウンターをもらうか。

むむむぅ。



「どーーーん!」


 突如飛来した山吹色の閃光弾が、口頭効果音を伴って僕の横にあった氷柱を破壊する。

お陰様で僕は、その砕かれた氷の塊を被弾するに至るわけだが。わりと痛いのだが。


「にぃちゃんはやっぱ、あたしがいないとダメだなぁ。」


「そろそろ来る頃だろうと思ってたよ、ニコナ。」


「んで? あたしとは遊んでくれるよね? 兵跡さん。」


 流れ舞うように身体を動かし、ピタッと静止して構えを取るニコナ。

その表情は、遊びを待ちきれない子供のように純粋無垢な笑顔だった。

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