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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第7の酉幕 天に光明あるや否や
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壁ドンして監獄行き

「荒渡ぃぃぃぃぃーーーーーっ!


 僕の雄叫びが、無意味に夕焼けの中を駆け抜ける。そこに荒渡はもういない。

だがその咆哮を号砲と受け取ったかのように、ボクの左右を抜け、外人SP達が出現したゾンビ鬼共へと飛び掛かっていった。

無表情にして無感情、無慈悲に拳が振るわていく。弾き飛ばされ、殴り付けられ、文字通り蹴散らされいく鬼、鬼、鬼。

無茶苦茶という言葉が妥当かはわからない。しかしそれでも外人SP達は迫りくる鬼を掴み、千切り、抜き手を放って鬼門を握りつぶしていく。打倒していく。



 いやつかさぁ、素手なの? 野蛮な感じなの? 力任せ? ゴリ押し感が半端ないな!

なんと言うかあれだよね? 一応、僕のコピー的な兄弟分だよね?

あれ、ほら、いつも懐から色々と出すじゃないの。刀とは言わなくとも、武器的なもの出したりしないのかなぁ。微塵もエレガントさが無いよね? 無言なのがかえって怖い感じだよね?


 とは言え、僕の兄弟分たる外人SP達は鬼と互角どころか、押しているようにさえ見える。

完鬼ですら一対一でフィンガーロック、プロレスで言うところの手四つ状態で抑え込んでいる。鬼の軍勢、マンホールから湧き出したゾンビ鬼に君らは引けを取らぬか。



 さて、諸姉。我々を導きたる天女の如き諸姉様よ。

やはりあれだろうか。男はこう、時には野蛮と言うか強引さが求められるのだろうか。

壁ドンして「おまえのことが気になって仕方ねぇ。」だとか、ハプニング的展開からの床ドンで「今夜は……、一緒にいてくれるだろ?」だとか、顎クイして「俺か、俺以外か。」ってローランド様かよ!

という勢いが僕らには必要なのだろうか。

股ドンって、ちょっとオラオラ過ぎて引きませんか? 蝉ドンって最早、暴行罪が成立しますよね?

え? 網トンはありな感じなんですか? 180度周って優しさアピールですか?


 よし、いいだろう。

僕も「床と言うか地面にドゴーン!」だとか「股って、完全に急所にバカーン!」してる兄弟に続こうじゃないか! 相手は愛しの子じゃなく鬼だけれどもな!!



「お待ちください、幌谷様。」


 太刀を脇に構え、勇んで駆け出そうとした背後から呼び止められる。


「ここは彼らによって防ぎきれましょう。

 他にも数か所、同様の展開が発生しておりますが、いずれもこちらが優勢です。

 問題御座いません。」


「他にも?」


「はい。どうやら下水道管を用いて第一包囲網を潜り抜けたようですが、出現個所は全て応戦中です。そしてここ同様、時期に殲滅致します。」


 振り返った先に立っていたのは、まるで執事のような出で立ちの壮年だった。

とても戦闘員には見えない。いやま僕の兄弟も戦闘員という感じではないのだが。僕だってそうなんだが。

「あの、貴方は……」と言い出す前に僕の表情を読み取ったのか、その壮年は一礼し言葉を続けた。


「申し遅れました。わたくしストーク隊を率いる山柴の者で御座います。

 ストークと御呼び下さい。」


 そして「あれをご覧ください。」と言うように交戦中の鬼共へと手を差し向ける。

振り返ると、どこかから援護射撃が放たれ、鬼門を撃ち抜かれた鬼が沈んでいく。


「第一包囲網を潜り抜けたと申しましても、それは一般人を近づけないようにするのが主目的。心配はありません。幌谷様が為すべきことはここにはありません。」


  パンッ


 視線を外し鬼との交戦を見ていた僕の背後から1発の銃声。

一人飛び出した餓鬼が転んだようによろけ倒れる。


「ですので、幌谷様は幌谷様の為すべきことを。

 あちらにお車を用意しております。申しつけ頂ければ妨害を排除し目的地までお送りいたします。」


 指示した先には軍用と思しき装甲が施された無骨な四駆が待機していた。この車ならば確かに鬼の包囲網だって抜けられるかもしれない。

僕は促されるままに車内に乗り込む。


「花火大会の会場と伺っております。まずはそちらに。」


 車が鬼共、そして応戦している外人SP達を尻目に走り出す。



「ストークさん……

 僕の為すべきことは何だろう。」


「大鬼を討つことで御座いましょう。」


 助手席に座ったストークさんが前方を見据え、無線を手に取りながらそう返す。

これは、これはミスミの、いや山柴の総意と言うことなのだろうか。

間もなく陽が沈む。件の花火大会が始まる。


『ストークよりフェゼント。

 情報にあった「黒づくめの中鬼」が一般人を装い出現。

 第一撃、一斉掃射によるも生存、下水道マンホールを通じ鬼の複数体を出現させる。

 中鬼はその下水道より戦線離脱。

 現在、人造桃太郎(ネクスト)により出現した鬼と交戦、制圧の兆しあり。

 なおPにあっては我々が保護中。戦線より離脱中。』


 フェゼント。


 ミスミは変電所の中か。彼女の為すべきこととはあの中か。



「ストークさん、申し訳ないがUターンしてください。」


「Uターンですか?」


「あの変電所へ僕を戻してください。」


 しかし、車は速度を落とすことはない。

確実に変電所から遠ざかっていく。


「幌谷様。あの場所に貴方の為すべきことはありません。」


「僕が為すべきこと。大鬼を討つことですよね?

 それは十分に理解しています。それを皆が望んでいることも、この鬼の元凶であることも理解しています。でも今の僕が為すべきことはここから離れることじゃない。

 わかっています。僕がここにいて出来ることなんてたかが知れている。鬼1体倒すことだってやっとだ。そして同時に僕にしかできないことがあることもわかっている。此処じゃないところで為すべきことも。」


「お分かりいただけるのならば、我々が行っていることもご理解ください。」


「それは……、その我々はというのは、

 ミスミちゃんの意見でもあるわけですか?」


「勿論でございます。そもそもこの作戦は雫ミスミ様、フェゼント隊長の草案が土台となっています。

 そして山柴の総意でもあります。」


「だったら猶更だ! 今すぐ引き返してください!

 僕は大鬼の凶行を止める! そして同時にあの場所にも向かう必要がある!」


「……、その選択に後悔なさりませんか?」


「後悔なんて……、後悔なんて今迄の僕の人生は後悔だらけです。

 でも僕はもう逃げるわけにはいかない。逃げるという選択でもう後悔するわけにはいかない!」


「わかりました。」


 ストークさんが運転手に頷く。

車がスピンターンし、来た道を爆走する。

ストークさんが手に持った無線機を口元へ当て、暫しの沈黙の後、何も通信することなく無線機を下した。



「ストーク隊は全力で幌谷様を変電所までお届けします。」


「なんか……、わがまま言ってすみません。」


「山柴イチモンジ様から申し付けられております。

 幌谷様が何か決断為されたときは、最優先でそれを遂行、サポートに当たれと。」


 うわー、イチモンジの爺様か。

その指示は不可解な気もするが、ハチャメチャな行動を支持する辺りは爺さんらしくも思う。


「今現在、変電所は外部との接点を完全に遮断しております。

 内部に侵入するにしても、鬼はおろか我々も拒絶されています。」


「そんなんじゃ……、万が一の時に助けることが出来ないんじゃ?」


「凍結と申しましょうか。

 一見すると鬼共の目的は変電所の破壊行為の企てです。しかしながらそれは本来の目的のための過程でしかありません。目的は変電所の機能停止なのです。であればその目的を無くせばいい。つまりすでに機能停止していれば彼らは目的を遂行することが出来ない。

 その上で誰からも干渉されない状態を構築する。つまり外界を拒絶し凍結させるのが本作戦の概要です。」


「でも……、ミスミちゃんがそこに残っているということですよね?

 僕はどんな手段だろうと中に入ります。」



「心得ました。必ずお送りいたしましょう。」


 変電所が再び見えてくる。高い塔が立ち並び、そこから何本もの黒い線が空を這っている。

燃えるように夕日に染まったそれは、あたかも絶対的に全てを拒絶する監獄のようだった。

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