表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第6幕 其れ即ち終焉の灯になりにけり
146/205

左斜め後方からの開花

 そろそろミスミから唐突な、本人にしてみたら予定通りなのだろうけれども唐突な「次のミッションは……」なコンタクト。あるいはニコナから気ままに「熊狩りにいこっか。」という、「カラオケいこっか。」的なノリでの誘い。もしくはウズウズが「……、買う?」って何の行商だよっ!

という訪問があるのではないかと予測していた。

だが、僕のマンション前に居たのはいつもの3人ではない。


 11時27分。

黒い日傘をさした少女が、マンション群の稜線に切り取られた四角い青空を見上げている。

その姿、横顔からは感情を読み取ることが出来ない。その無感情さが一層、高貴、崇高、いや実際の存在がそうなのだろうけれども、神々しさを感じさせた。


 僕の気配に気付いた、いやとうに気が付いていたであろう「宝鏡カグヤ」が、

んー、あれか、今は「此花サクヤ」か。

が、僕の方へ向き直る。


「ごきげんよう。引きこもりから一転、健康志向ですか。」


「言うほど引き籠り体質ではないのだけれども。

 僕なりのささやかな、世界に対する抵抗だよ。」


「世界とは大きく出ましたね。烏がサンズイに言う午がましい。」


 そう言うやサクヤはこちらに背を向け、ゆっくりと日傘を回す。



 あ、ところで唐突だが、

いやはやそろそろ僕の唐突な質問に慣れたであろう諸兄諸姉よ。いや、これは質問というより「どうでしょうか?」といった確認行為なのだが。

僕は言うまでもなく「曲線」というものにひどく固執、執着、羨望しているわけだが、僕はその「人体の曲線」というものが最も際立ち、至高にして至上に完璧に体現されるのは「左斜め45度から30度後方」ではないかと思うのだ。つまり自身から見て右斜め前に対象がいるという構図だ。

頭頂部からの髪のライン、額から鼻筋へのライン、頬辺りから顎のラインに続き首筋のライン。

肩から背筋、そして腰からの臀部。かーらーのっ、太腿から一気に膝裏、脹脛。

勿論、二の腕から指先までの腕の存在も忘れてはいけない。最早、手首から指先までの部分は〆のデザート的ご褒美だ。

つまるところ、僕は「人体の曲線を完膚なきまでに鑑賞するのは左斜め後方から」ということを提唱したい! これを上回る角度があるのならば是非ともご教授願いたい! 諸兄諸姉よ!!



「正直、僕の方も話したいと思っていたんだ。

 うちに上がる?」


「邪な気が蔓延している部屋になど、上がる気にはなりませんね。」


 サクヤはそう言い放つと、そのまま歩き始めた。

僕は彼女の左後方に位置し追従する。う~む、辛辣女学生でありながら、流石は「神のSライン」を体現した人物。恐るべし。


「大前提としてウチは貴方達の味方ではないと理解してください。」


「そして敵でもない、と。」


 サクヤはこちらに視線を向けることなく、まるで詩でも口ずさんでいるかのように話し、歩き続ける。


「貴方は、貴方の能力がどのようなものか理解していますか。」


「感覚的にはね。

 現実に起こったことを無かったことにする能力だろ?

 なんていうか「勘違いにする」みたいな。」


「そんな安易な解釈では困りますね。人偏に氏一い、低能ですか。

 『桃源郷送り』は認識してる既成事実を虚構へと陥れる能力、存在への干渉能力です。」


 サクヤの言葉を僕は反芻する。


「いやそれ、ただ難しく言っただけなのでは……」


「よろしいですか。「存在への干渉」と言うことは「神の(ことわり)に干渉する」ということです。」


「……、神にお断り入れればいいですかね。」


 赤信号に止まったサクヤの横に並び、その横顔を見る。日傘のせいで見えなかったフェイスライン、じゃなかったその表情は依然、無感情だ。


「過度な干渉を実行するのならば、貴方の存在をサンズイに肖します。

 そもそも『桃源郷送り』は神域能力です。()()が扱うには大き過ぎます。

 貴方にその重荷を背負えますか。貴方に扱いきれますか。

 千条様が仰っていた「抑止力(ブレーキ)」とは、そういう意味です。」



 信号が青に変わり、カッコウがヒヨコになった。

サクヤは歩き始める。再び僕は「神のSライン」に晒される。


「忠告か。」


「忠告です。」


「鬼は、鬼の存在は神に反した存在じゃないのかよ……」


「鬼は人の心が生み出したものです。所詮は()()の産物。

 神が手を下す存在ではありません。」


 つまり神には「関係が無い」といいたいのか。人の世のことは人が解決しろと。


「一つだけ過ちを犯さぬように鍵を渡しましょう。『桃源郷』とはどこにあるのかということです。

 貴方がしているのは『桃源郷』への出入り。その行為過程で現世(うつしよ)を書き換えているということです。」


「益々、訳がわからないわけだが……」


「期待していませんので構いません。」


 一見、謎が解明されたようでその実、謎が深まっただけだ。自分の能力なのに。

結局のところ僕自身で「解」を導き出せ、ということか。

『認識』『桃源郷』『干渉』『出入り』。重要そうなキーワードが僕の頭の中を駆け巡る。



「三点ほど聞いてもよいだろうか。」


「下らない質問なら門構えに耳ませんので、勝手にどうぞ。」


「えーと、まず一点目。

 『宝鏡カグヤ』の能力を具体的に教えてほしい。」


「『宝鏡カグヤ』は芸名ですが、出来ることをを教えてほしいと。

 それはオフィシャルサイトを見ていただければわかると思いますが?」


「いやいや、そうじゃなくて!

 あ、ところでさ。芸能活動中の「宝鏡カグヤ」と随分キャラが違うと思うのだけど。」


「あちらが「依り代」の素です。本名はオフィシャルではありませんので伏せますが。

 それが一点目の質問ですか。」


「いやごめんなさい。今のはノーカンでお願いします!」


 そうなのかぁ……、あっちが本体なのか。此花サクヤの憑依で、多少の補正はありそうだが。

つか、紛らわしいな!


「えーと改めて。

 君のなんか相手の能力をコピーする能力、を具体的に知りたい。」


「ウチの能力、というより特性ですが、能力開花です。

 相手の能力(タネ)を用い、それを自身で開花させることが出来ます。意味合いとしてはコピーのそれと変わりませんが、対象が写る状況、つまり視野に入れていないとできません。

 そして写したところで再現出来ないこともあります。例えばいくら本を読んでも相撲は取れないのと同じです。基本性能は依り代の身体のままですので。

 つまり、戦闘員として期待しても無駄です。」


「いや、味方じゃないって断言されてるから、戦闘面で期待はしてなかったけどね。

 ちなみに助けてくれたことがあったと思ったけど、あれは?」


「貴方が暴走する可能性を摘んだに過ぎません。」


 なるほどねぇ。流石、抑止力として機能していらっしゃる。



「二点目だけど……、転生は君の能力によるものなのだろ?

 転生を避ける、若しくは遅らせる方法はないのだろうか。」


「ありませんね。

 先ほど申し上げましたが対象を視野に居ないとできません。転生、「黄泉返り」は大鬼の固有能力ですので、大鬼が転生を始めた時を逃すと不可能です。

 もっとも、大鬼を追わない、もう戦わないというのならば別ですが。」


 なんとか一縷の望みをかけて聞いてみたが無理か。

結局のところ、大鬼を倒す以外に方法が見当たらない。転生させずに、逃がさずに。



「それで。」


「それで?」


「それで三点目の質問はなんですか。」


 あー、勢いで三点ほどとは言ったものの、なんとなく言っただけでそれ以上聞きたいことはなかった。


「えっと、……そろそろお腹すきませんか?」


「それは食事に、言遍に秀っているということですか。」


「えぇ、まぁ。」


 これも勢いで誘っただけだ。

そもそも国民的スーパーアイドル「宝鏡カグヤ」が、僕のような一介の大学生男子と歩いてて大丈夫なのだろうか。しかも白昼堂々と。

ん~、遂に僕も週刊誌デビューかぁ。


「では、そこのラーメン屋で。」


「え?

 大丈夫なの? その、国民的アイドルな立場として。」


「問題ありませんね。

 貴方の能力を使いますので。「宝鏡カグヤがラーメンを食べているところを見た」というのは「見間違いだった」ということになりますから。」


 いいのかそれで……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ