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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第6幕 其れ即ち終焉の灯になりにけり
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男域にて振るわれる箸

 聡明にして崇高なる諸姉にお尋ねしたい。

いや、決していつも大変お世話になっている諸兄を蔑ろにしているわけではないのだが、一部の諸兄には「フッ、私が貴殿に的確なアドバイスができないとでも?」と、仰られるかもしれないが、いややはり諸姉にお尋ね申し上げたい。


 魅力的な男性は大きく分けると二分出来ると思う。いわゆる肉食系か草食系かだ。

あくまで外見的な話だが、肉食系で言えば筋肉隆々だとか髭の濃いダンディな感じだとか、つまり男性ホルモンが溢れ出ている感じだろうか。まさに紳士の皮を被った野獣の如き猛々しさだ。

そして草食系といえば女性かと思うほどの美麗さ、繊細さ。ストレスを感じさせるどころか癒しでむせ返るような甘いマスク。はたまた愛玩動物のような従順さ。まさに天使。

つまりはだ、諸姉はどちらのタイプがお好みだろうか?

確かに僕は肉食系ではない。かと言って草食系かと言われればそうではなく、いわゆる根暗な貧弱系に分類されることと思う。なので僕が諸姉の眼鏡に叶うのか、と言うことをお尋ねしているわけではない。


 どうもここ最近の僕の周りは、男臭で溢れかえっているような気がする。

筋肉隆々な鬼共らはさて置き、祭りへ行けば金剛の兄貴達。遊園地へ行けば外人SP達。はっきり言って男祭り、男パレードの連続ではないか。一体、誰得なのか!

7対3ぐらいの割合で僕の周りはいつの間にやら男域だ。僕はそんな世界は望んじゃあ、いない。出来ることならばムフフでウヒャヒャなハーレム系の世界に没したい。



 僕は今、そんな男域で男のケツを追っかけていた。

これは比喩表現ではない。リアルの話だ。何の因果で僕は、無骨な野郎のケツを追っかけねばならぬのか。


「遅ぇぞビャクヤ! ちゃっちゃかやらねぇと飯が食えねぇだろうが!」


「僕は僕なりに全力で事に努めている。

 文句があるなら、こうなることを予測できなかった自身を恨むべきだ、リュウジン。」


 僕はリュウジンと共に、いや、候補生だか下級生だかわからないが見習い僧兵達に交じり、道場の雑巾がけをしていた。前を走る巨漢な僧兵のケツを追いかけながら。


 リュウジンの兄であるリュウエイ氏から「仕合もひと段落したようだし、そろそろ昼食にしようか。でもあれだねぇ、散らかしたものは綺麗に片づけないとね。」と、朗らか且つ快活、太陽のような笑顔で指示され、僕らは道場の跡片付け、清掃を行っていた。通常ならばここまで大変ではないに違いない。はっきり言って、ここまで散らかったのはリュウジンとニコナのバトルが原因だ。


 とはいえ、ニコナは率先して雑巾がけをしている。その上でニコナの雑巾がけは目を見張るほどスピーディで正確だ。雑巾がけの経験値が高く、それすらも鍛錬の一部として積み重ねてきたであろうことが伺える。これは僕にとってもこの雑巾がけが鍛錬の一部として蓄積されると言うことだろうか。ニコナほど楽しく雑巾がけが出来ないのだが。



「ところでリュウジン。

 君がさっき使っていた赤い刀はいつものとは違うんだな。」


「あ? あぁ、あれは修練仕様だが、いわゆる打刀だな。うちでは赤魚って呼ぶ類だ。」


「この青いのとは違うの?」


 僕は壁まで雑巾がけすると、その壁に備え付けられていた青い鞘の刀を指さした。


「それは青魚。太刀だ。

 そうだな、ここにいる間はビャクヤ、それを貸しといてやる。」


「そっちの方が短いし扱いやすそうなんだけどなぁ。」


「お前ぇバカか? 今日は持ってきてねぇみたいだが、ビャクヤがこないだ使ってたのは太刀、野太刀だろうが。」


 貸してくれるのはありがたいとはいえ、意味がよくわからない。僕の発言に心底呆れたようにリュウジンが言い放つ。


「うちにゃ太刀の他にも薙刀とか槍もあるが、主力は刀。より実戦向きな打刀が主だ。そもそも帯してねぇ奴が打刀を求めるな、つうの!」


「いやはやすまぬ。まったく意味が解らんでござる。拙者、学なき故にご教示願いたい。」


「いいか? 日本刀ってのは直刀や両刃の剣もあるが、ざっくり言えば太刀、打刀の二つ。太刀は元々が馬上戦で使うためのものだから刀身が長ぇ。それに対して打刀は歩行時、すぐ抜けるように腰に差す、つまり帯刀する。故に刀身は短ぇ。俺は普段から持ち運ぶのに便利だから木杖に見せかけた直刀を持ち歩いてるだけだ。

 太刀と打刀のどっちがいいって話じゃねぇ。お前が使ってるのは太刀だろ? って話だ。

ほら、鞘に紐が付いてるだろ。だからそれを()いて身に着けとけ、まずはその重みに慣れろ。」


「うーん、わかったようなわからないような。」


「いけすかねぇ。」


 リュウジンが踵を返して先に進む。履けっていうけれど、どう身に付ければよいのか。僕はとりあえず青魚なる太刀を肩からぶら下げ、リュウジンを追いかけた。



 掃除道具を片付けて、道場の隣の小講堂、のような畳の広間に入る。何かの宴会場の様にお膳が長いコの字型に並べられ、女中らしき方に促されて奥へと座らさせられた。

うぅむ、ここって上座の方だよね? 全体を見渡せる中央の席には机のような席が一つ設けられていたが、リュウジンはいつも通りといった感じでその隣に腰を下ろす。


「午前中の修練、お疲れ様。

 もう既に手合わせをした者もいることだろうと思う。紹介が遅れてしまったけれど、本日から客人を迎えている。幌谷君と軒嶋さんだ。」


 一段高い机の席にリュウエイ氏が着く。なるほど、格上という表現ではなく、彼の身体的特徴からか。

皆に紹介され、こそばゆくも僕は全体へと礼をする。良く良く見渡せば、男ばかりの僧兵集団かと思っていたが、男女比7対3ぐらいかもしれない。いずれも厳かではあったが。


「お二人はうちに学びに来てはいるのだけれども、我々もお二人から学ぶことは多いと思う。互いに切磋琢磨できれば幸いだ。

 さて、講釈はこれぐらいにして食を頂こう。ちなみに稲荷寿司は幌谷君からの差し入れだ。

 では、生けるものからの命を頂き、我等が生けることに感謝し、その力で人々を護ることを誓って。

 頂きます。」


 声を揃えて唱和される。全員の意思がそこに統一される。



「ところでニコナ。なんでここにいるんだ?」


「えー、

だってあたしもお昼まだだったし。」


「いやいや、そういうことじゃなくてだな。」


 僕は粛々と食の感謝を味わっている皆の衆を他所に、それを邪魔せぬよう小声でニコナに話しかけた。

うぅむ、相変わらずニコナは箸の使い方が美しい。そしてこういった種類豊富なお膳での食べる手順のようなものが美しい。密かに僕はニコナの食べ方を踏襲していた。

そう、ここは寺に併設された道場の割に、精進料理っぽさを残しつつも魚料理と共に和風角煮のようなものもあり、もちろん野菜もあるというバランスの取れたお膳だった。


「肉料理が出るとは思わなかった。」


「ん?

 やっぱり闘う身体作りには、タンパク質と油分も必要だと思うけど?」


「なるほどな。

 いや、そうじゃなくてだな。何で浦島道場にニコナが来てるのかってこと。」


「だってにぃちゃん、また一人で楽しいことしようとしてるし。」


「楽しみに来てるわけじゃないんだが。」


 いやま、確かにちょっとはリュウジンの私生活を覗こう、いや、理解しようとは思ったり思わなくもなかったが。


「うそうそ。

 雫さんがさ、「ボクは戦闘スタイルが異なりますので」って言っててさ。

 にぃちゃんが修行するから、お相手をどうですか? って言うから来たってわけ。」


「なるほど。

 でもそういう意味ではウズウズの方が刃物だし近い気もするんだがな。」


「んー、おサルのは暗器だしね。

 使い方が裏術中心だから、にぃちゃんにはそぐわないと思うけど?」


「大蜘蛛のねぇちゃんは、俺らが陽なら陰だわな。」


 僕の隣、斜め右に座るリュウジンが話に割り込む。ニコナにしてもリュウジンにしてもなんだ、ウズウズのあだ名がそれとは。評価が高いのか低いのかわからない。


「正直なところ、俺にしてみたら闘い辛いタイプの相手だな。

 んま、んじゃ鬼に対して有効かどうかは、あれだが。」


「つまり端的に言うと?」


「あぁ? あれは対人、暗殺の類だろうが。

 鬼なんざ正面切ってやってくんだから、わざわざ裏に回る必要も暗殺する必要も無ぇ。

 こないだ見た限りじゃ全然、そんな心配はいらねぇって感じだったがな。」


 まったく。

どうして君らはいつの間にやら「知り合い」みたいな感じなのかな。

てか、ウズウズって、なんでアサシンスキルあるの?



「どっちにしても僕から言えることは一つだ。

 たとえ練習試合だとしても、君らとは戦いたくないってことだ。」


 どうして僕が、一般人の僕が戦闘特化のこいつらと戦わねばならないのか。

そんなものを、「男域」に身を没すること以上に僕は望んじゃあ、いない。

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