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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第6幕 其れ即ち終焉の灯になりにけり
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ハイスピードで静と動が交差して

「準備運動にすらならなかったかも。」


 まるで渡り鳥がこれからの長い旅路に向けて地で羽ばたくように、大きくそして優雅な演武が行われる。そう、それはまさにこれからの闘いへと準備する、各関節の調子、四肢への意思伝達が正常であるかの確認行為。

そして一段と大きくゆっくりと伸びあがると、息を吐きながら深く腰を落とし、構えを取る。


「そこでノサれちまったのは下級クラスだ。だが安心しろ、ここじゃ俺が一番強ぇ。」


 白木の木刀を担いだまま、自然歩行で相手へと間合いを詰める。だがそれは静かに燃え盛る練炭の如し。見た目に反し、内在するは灼熱の炎。確かに感じる炎は外見からは視認できない。

歩みを止めると、上体をそのままに左半身となり、自然体のまま視線、意識だけ身構える。



『ニコナVSリュウジン! ROUND 1 FIGHT!』



 ニコナが笑みを浮かべ、一足で急接近。一気に間合いを詰め圧をかける。見てるこっちが身構えるほどの直線的な闘気。だが、そのまま攻撃かと思わせておいての急停止、初動からブラフ。その制動力を回転運動に転じ、想定される迎撃を躱す動きで空中にて体を捻り、そのまま斜め上方からの胴回し蹴り。

だがリュウジンはそのブラフに引っかかることなく、また迎撃も行わずに足捌きだけで体軸を逸らし、死角を突くようなその蹴りを木刀の柄で受け流す。互いの流れるような動き、流水の如し。


 蹴りを受け流されたニコナが着地するやそのまま上体を地まで下げ、水面をすべるように超低空の足払い。リュウジンが後方へと退くも、まるで水切り石のように2撃、3撃と連続で追いかける。リュウジンも壁際に追い詰められぬよう、大きく円を描くように動き、バックステップで躱し続ける。


 互いの動きにリズムが生まれつつあるタイミングでの変調。

ニコナがさらに加速し、すくい上げるように上方への飛び蹴り。いや、伸び上がりながら身を半回転捩じり、その足で首を掴みにかかる。

リュウジンが上体を沈めながら大きく引き、引き足での急制動。その反動を利用し、逆さ且つ背面となっているニコナの正中線へ、納刀したまま鞘での打突。

刀というよりは杖術のような使い方だ。抜刀し、斬るには僅かにも遅れが生じる、ということだろうか。


 ニコナの背部にその打突が極まった。いや、極まったかに見えたが、その打点を軸にするかのようにニコナの身体がさらに捻じられ勢いを殺し、そして両手での着地。その場から腕でジャンプし、数回のバク転を繰返し大きく離脱する。



「捕まえられると思ったんだけどなぁ。」


「俺の打突を背中で受け流すとはな。」


 ニコナが構えのスタンスを変え、左右へと体を振る。まるでカポエイラの動きのようだ。

それに対してリュウジンは、相変わらず左半身を取りつつも、先ほどまで担ぐように構えていた木刀を右脇へ下ろし、体側に重ねるように添え持つ。

ニコナの「動」とリュウジンの「静」がよりに大きく対峙する。



「つか、ニコナのそれは道着なの? 私物?」


「ん?

 うん、これは最初に武術を始めたときの道着だよ?

 なんだかんだ言ってさぁ、これが一番動きやすいんだよねぇ。」


「なんつうか、あれだよな。

 道着の下に肌着的な、スポーティ的なTシャツを着てるとは言えだ。

 ちょっと襟元がはだける感じとか、帯からズレて乱れた上着とかさ。 どう思うよ? どうなのよ? リュウジン?」


「バッカじゃねぇの? 本気でバカじゃねぇのビャクヤ!

 そんな話題、俺に振るんじゃねぇ!!」


「隙ありっ!」


 僕の方へと意識と共に視線を向けたリュウジンの横っ腹に、ニコナのドロップキックが炸裂しクリーンヒット。リュウジンが盛大に吹っ飛び、壁に激突する。



『ニコナ WIN!』



 激突した壁から、飾られているかのように陳列されていた数々の武器がガラガラと音を立てて落ち、煙のようなエフェクトがかかる。



「こうなることを予測して茶々入れてきやがっただろう、ビャクヤ。

 甘ぇよ。」


 噴煙の中からリュウジンが首をコキコキと鳴らしながら、何事もなかったかのように立ち上がる。

先程までの木刀、いつもの仕込み刀ではなく、赤く装飾された打刀を手にしている。


「抜かなきゃ真剣になれねぇ、てか?」


 リュウジンが刀を腰に添え、静かに歩み間合を詰める。

そのの殺気に呼応するように、ニコナが山吹色のオーラを滾らせる。

リュウジンが歩みを止め、右手を柄に沿えゆっくりと腰を落とした。



『ROUND 2 FIGHT!』



 先程、中断した時と同じ様相。違うのはニコナのオーラとリュウジンの殺気。いや、リュウジンが左半身の構えから右半身の構えに移行している。まるで反転した鏡の世界だ。


「がおっ!!」


 ニコナが左右のステップを保持したまま咆哮する。衝撃波が走ると同時にニコナが動き出す。その動きは左右へのブレから残像を複数体生み出し、そしてリュウジンへと急襲をかける。

一方的な暴力、嵐のような衝撃が襲い来るにもかかわらず、リュウジンは微動だにしない。「静」と「動」が交差する。



「死線を越えてねぇ奴の攻撃でよぅ、俺をやれると思ってんのか? あぁ?」


 ニコナの暴力的な衝撃が空振りし、そこをすり抜けたかのように静かに佇むリュウジン。

伸ばされた刀身。

膝をつき、地に伏せる相手へと止めを刺すように突きを放ったニコナ。その拳は虚空を突く。

その背後から首筋に当てられた刃。

今ならその刃を受け流し、試合を続行できるかもしれない。だがそれは「今」があるから言えること。



『リュウジン WIN!』



 瞬間的に勝負が決していた。僕の眼からはニコナが手加減しているようには見えなかった。無論、速すぎるその攻防の全てを目に追えたわけではない。ないが、ニコナのそのオーラ、闘気から感じたものは本物だったはずだ。


「死線を越えてねぇのはお前もだ、ビャクヤ。

 ()()()()ことを予測して、さっき茶々入れてきやがったんだろ?」


 僕は言葉に詰まった。


 リュウジンが静かに刀を引き、膝をつくニコナに背を向けて数歩離れる。抜刀したまま身体から余分な力を抜き、仁王立ちとなる。


「まだやる気があるなら次は命取る気で来いよ。

 手加減なんてのは格上の役目だ。格下は全力で、殺す気で来い。」


「つまり、あんたが死線を越えさせてくれるってわけだ。」


 ニコナが立ち上がり滾るオーラを収縮させる。それは闘気が下がったと言うことではない、凝縮し濃厚に身にまとい始めたと言うことだ。魔犬のシルエットがより鮮明になる。



『FINAL ROUND! FIGHT!!』



 お互いに背面状態からのスタート。二人とも闘うような素振りは無い。だがこの息が出来なくなる濃厚な殺気。その重圧に見ている僕の方が押しつぶされそうだ。倒れていた僧兵達が静かにゆっくりと立ち上がり、壁際に控えて二人の勝負を見守る。


 と、リュウジンが振り向きながら刀を横一閃。首を刎ねにいく。同じく振り返ったニコナがその刀を右腕で受け、空いた右脇腹に掌底を打ち込む。

リュウジンが吹き飛んだかに見えたが勢いが弱い。自ら後方へと飛んだようだ。


 お互いが笑っている。命の取り合いを楽しんでいる。まるでチャンバラ遊びをする子供の様ではないか。だがリュウジンが手にしているのは真剣、ニコナにしても寸止めでは打ち込んでいない。小手先の打ち合いはあるものの、互いに狙うは水月。つまり鬼門のある位置だ。

ハイスピードの攻防に目が追い付かなくなってくる。



「彼女はまるで野獣のようですね。

 それでいて基礎鍛錬を疎かにしてこなかったのが見て取れる。」


 いつの間にか車いすの青年、リュウエイが僕の横に並ぶ。


「リュウジンって結構強いですね。」


「そうですねぇ。当主、父と五分までいけるんじゃないかな? 若さも強さの内ですし。」


 そう言いながら朗らかに笑う。



『リュウジン WIN!!』



 数分間の濃厚な「死合」の後、リュウジンが闘いを制した。

左逆手に構えた刀からのカウンターの突き。僅かにニコナの刀を払いにいった手刀が届かなかった。まさに紙一重の決着。


 ニコナの表情は悔しそうにしながらも、どこか晴れ晴れとした明るい表情だった。


「お腹空いたなぁ。」

「腹減ったな。」


 こんな「死合」の直後なのに、二人が同時に発した言葉はこれだ。

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