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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第6幕 其れ即ち終焉の灯になりにけり
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明智アクセル

 僕は残っていた、すでに冷めた茶を一気に飲み干した。

SPのエリックだったか。渋い感じの方のSPが新たに茶を沸かし、僕の茶碗に注ぐ。


「えーと、頭ん中が全く纏まらないですね。

 手短なところから、思いついたまま質問してもいいでしょうか、ヤチヨ様。」


「応。」


「それじゃあ遠慮なく……。

 彼等、この外国人SPな方々は、その、僕のクローン的な感じですか?」


「半分正しく、半分は誤りといったところだな。

 今生の幌谷ビャクヤの遺伝子、DNAは用いてはいない。むしろ過去に、転生した者の遺伝子を用いてはみたものの劣化しか見られなかった。

 結局は原初の桃太郎が一番有用だった。あくまで遺伝子情報と魂は別物といったところか。

 そしてカラクリはわからぬが、西洋人との相性が一番良い。」


「つまり……、人造人間?」


「どちらかと言うと遺伝子交配、遺伝子操作、人工授精の類だな。

 量産型桃太郎、廉価版といったところか。ガンダムで言うジム。

 遠い従兄弟と考えるが良い。仲良くしてやってくれ。」


「いや、それは……、遠慮しときます。つかジムって……。

 えーと。

 結局のところ、転生してるのは僕と……、犬・猿・雉だけなんですかね?」


「是。

 母なる大鬼を除けばな。」


「おじいさ、いやイチモンジさんとヤチヨ様はその、

 人ではないのでしょうか?」


「人であることをやめたつもりは無い。ただ誓願を叶えるための方法が「生」を手放すということだっただけに過ぎぬ。仙人の類、と言えばしっくりくるかな?」


「えーと、イチモンジさんは何となくわかるんですけど、ヤチヨ様は元々幼じ……、

 いえ、今と同じ出で立ちでございまして候で?」


「生老病死から離れたことにより、年齢、成長の度合いを自由に操作できる。

 余生満喫ジジィはジジィの姿であることを良しとしておるが、生憎わたしは主権を「世代交代」という形で自作自演しておる。今は幼少期といったところだな。」


「つまり、その関係で私立学校の設立も?」


「是。」


「その、

 先程の話から察しますに、お二人に力、闘う力はもうない感じなんでしょうか。」


「如何にも。

 「生」を手放した段階で生きるための力そのものが手から離れておる。

 故に、おおよそ生きるために必要なことは出来ない。例えば馳走を食べ、生きる喜びを感じるなどということもな。飢えることが無い故か。

 ただ、此の世に干渉し続けることだけだな。」


「干渉ですか。」


「鬼を、母なる大鬼を討つことが誓願であることは変わらぬ。

 そのために、限られた中で出来ることは全てする。」


「なるほど。」


 改めて淹れられた茶が程よくぬるくなっていた。一口、二口と、新たな知識と共に飲み込む。



「サクヤさん? は、あのー、神様ですか?」


「サクヤ、コノハナサクヤヒメは現代人の解釈から言えば非、神という言葉よりも聖体と言った方があっておるかもな。所謂、大神とは違う。

 神の序列で言えば、中層の上位体といったところか。」


「何故に神様が、えーと、アイドルに?

 サクヤさんは宝鏡カグヤさんですよね?」


「その点に関してはいくつか理由があってな。

 一つに、そもそもサクヤの依り代が女優、ダンサー志望の子であったということ。

 巫女が神へ奉するにあたり、舞い演じ降ろすことを考えれば不思議は無いのかもしれぬ。

 二つに、コノハナサクヤヒメほどの才覚、隠しようがない。故にあえて隠さず。いや「小石を隠すならば河原」といったところか。」


「全然、小石じゃないですけどね。巌レベルすよ。」


「それは言うな。

 三つに、サクヤを千条家で保護する必要があった。

 そのための理由付けとして最適だった。お陰でW&Cの株価が上がるという恩恵もあったがな。」


「商売、ですか……。」


「綺麗事だけでは世の中と渡り合えぬ。

 先程言ったであろう。 限られた中で出来ることは全てするとな。これも一つの方策に過ぎぬ。」


「へい。

 あとは……。そうですね、」


 もう一口、茶を口に含み、喉を潤す。



「あえて質問を避けておるか。」


「……。」


「まずは出生についてであろうな。」


「……。えぇ、そうですね。」


「今生の話で言えば、お前が壇之浦ヨウコウと幌谷ヒビカの子であることは違わぬ。

 ただ前世が桃太郎であったというだけ。

 その桃太郎の出生が、創られたのが、目的が、といった話であろう。」


「はい……。」


「方法は違えど、この千条ヤチヨと山柴イチモンジが望んで生んだ子。

 子に未来を託し、未来を望み、未来を夢見ることとて普通の親と変わらぬ。

 そして子の身を案じる気持ちも、母のそれと違わぬ。」


「……。」


「祖父母の願いと思え。今のこの容姿では説得力がないかもしれぬがな。」


「祖父母の願い……。

 それは……、理不尽で無責任な気がします。」


「誰しも生まれ落ちたその時にはすでに性別、身分、人種、国籍は決まっておる。

 地位、環境、時代。それを理不尽とは言わぬ。

 ただ誰の前にも、己の前には道がある。それを天命という。

 その道を進むも進まぬも、また逸れるも、それは自身で選択するべきこと。

 その道の先に何があるか、何を為すのかは誰にもわからぬだけ。

 何の為に、誰の為にするのかは、選択した自身が理由付けに用いてるだけのこと。」


「厳しいですね。」


「母親じゃからな。」


「でも厳しいのはその先ですよね。

 その選択。」


「……、是。」


 ここに来てヤチヨ様が僕から視線を初めて逸らした。

言葉を詰まらせ、閉じた(まなこ)で虚空を仰ぎ見る。



「転生……、ですか。」


「如何にも。

 明智光秀の最後は知っておるか。」


「史実と……、断片的な記憶の上で、ですが。」


「そう。

 先にも触れた通り、桃太郎の転生者にしてお前の前世の一つだな。」


「そのようですね。実感はないですけど。」


「あ奴は本人の持って生まれた気質もあろうが、代も浅き故に桃太郎としての本質が大きく出た。初代を除いてあそこまで鬼を斬った者はおらぬ。

 そして鬼と化した織田の信長を討った後、信長と共に逝った森蘭丸、つまりは母なる大鬼を追って転生の儀を行った。躊躇なくな。」


「つまりは……。」


「その生涯を閉じた。従者と共に。」


 茶を飲もうかと茶碗を手に取ったが、飲み込む気になれず、僕は茶碗をまた静かに下ろした。



「選択というより覚悟ですね、……それ。

 大鬼を討てなかったからでしょうか?」


「討てば終わる。討たねば続く。避ければ鬼が跋扈する。

 大鬼を討てば転生する必要は、無い。」



 ニコナと、ウズウズとミスミちゃんの命を僕の手に持てというのか。そしてもう一方の手には多くの人々の命。そんな掛け金で、大鬼退治という博打を討てというのか。

何の保証もない、ハイリスクハイリターンな選択ではないか。


 その選択を僕に託す、いや強いるというのか。



「ひょうひょうはちゃめちゃジジイから授かったであろう? 「宝刀鬼殺し」は桃太郎にとっては自身をコントロールするハンドルのようなもの。

 そしてこのコノハナサクヤヒメ、つまり「宝鏡カグヤ」はブレーキ。お前を止める者だ。

 そしてわたしから桃太郎に授けるは「宝玉黍団子」。

 使役する魔獣を聖獣に格上げし、桃太郎の意思を加速させる。つまりお前にしてみればアクセルといったところだろうな。」


 そう言い終わった時、いつの間に用意されていたのか。SPの一人、ヴィクトルだったかが恭しく皿に盛られた団子を座卓の上、僕の前に差し出す。


「これをもって三種の宝器。「宝玉黍団子」は先程わたしが作り生み出した。心して食せ。

 とはいえ、食したところで今すぐに変化が起こるわけではないがな。その力を三人に授けて初めて意味があるものだ。授けるも授けぬも幌谷ビャクヤ、お前の選択。

 その時が来るまでに答えを出すが良い。」



 ハンドル、ブレーキ、そしてアクセル。

この「宝玉黍団子」を食べることで、僕の物語は急加速する。


 この鬼退治転生(レース)は何周目なんだろうか。

目をつぶると、レースクイーンの衣装に身を包んだウズウズが、うな垂れながら大きなチェックフラックを振る姿が見えた気がした。

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