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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第1幕 御伽噺は語りだし歯車は廻りだす
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南の島にハリケーン

「なぁ、にぃちゃん。あんた桃太郎だろう。」



 僕はそう声をかけてきた中学生女子をまじまじと見た。

一見してこの辺りに、その子の着ているような制服があった記憶は無い。言うまでも無いことだが、僕は昨年、この街に引っ越してきて、とりあえず一通りこの周辺の中学校の制服はチェックしている。ただし誤解の無いように言い訳をしておくが、僕が年中、中学生女子に発情しているわけでは無いことをここに明記しておこう。繰り返すが僕は年中、中学生女子に発情しているわけでは無い。



「違うけれど。

 これは何か新手の勧誘作業だろうか。」


「まぁいいや。とりあえずこれからよろしく。」


 僕の言葉を無視し、塀の上しゃがんでいたその中学生女子はその場ですくっと立ち上がった。そして見事な前転宙返りで地面に降り立ち、僕の先を歩き出す。スタスタと。


 僕はもう少しの間、塀の上でしゃがみ続けて頂ければ、その若い膝小僧から先を確認出来たかも知れないのに、と思いつつ、結局のところ彼女は何者なのかわからず、後に従って歩いた。

歩き方はややガサツだが、後ろ姿から見る華奢なシルエットは、どこか愛くるしさを感じる。



 僕は正直なところ桃太郎の物語が好きでは無い。国民的御伽噺であることは認める。国民的御伽噺であるがために知らない者はいないだろう。少なくともこの国においては。

なので桃太郎についての詳細な説明は省かしていただき、そして諸兄諸姉が知っている前提で話を進めよう。


 そんな知名度ナンバーワンである桃太郎の主人公、桃太郎は「桃から生まれた」と言うこと以外に何一つ特色が無い。にもかかわらず、にもかかわらずだ。あっと言う間に鬼を退治し、莫大な財産を手に入れると言う、この世の不条理さ。あぁ、わかっている。きっと容姿も端麗だろう。そんなキャラクターに思い入れなど湧くわけがないじゃないか。

ちなみに三種の獣の家来は、桃太郎の魅力や力によるものではなく、黍団子というアイテムにより買収したと僕は解釈している。


 それに比べたら一寸法師のなんと特徴的で、その特徴を生かしたストーリー展開か。

そもそも一寸法師のミニサイズに恋心が芽生える姫の異常性がたまらない。

一寸法師に生まれ変わることができるのならば、一生一寸のままで構わないと思うほどの特異性だ。



「ところで、君は誰なのかな?」


「軒島ニコナ、14才、たぶんA型。」


 「軒島ニコナ」と名乗る中学生女子はぶっきらぼうに自己紹介をする。おいおい、自己紹介をする時には相手の顔を見てするものだぜ?

まあ、それはそれで自己紹介から漏れているスリーサイズ、特にヒップを推定するには、後ろ姿のままであり続けてくれることは、大変都合が良いのだが。

僕の心の揺れを象徴するように、軒島ニコナのスカートの端がヒラヒラと揺れている。



「そう言えばさっき、桃太郎って言っていたけど、君は猿なのかな?」


 そう僕が言い終わるか言い終わらないうちに、彼女は一周と四分の一、つまり450度旋回し、それはそれは美しい回し蹴りを放って僕の鼻先にスニーカーの底を向け静止する。


「あたしは犬。あんな奴と間違えるなよな。」


 つまり犬猿の仲だと言いたいのだろうか。


 僕は若い膝小僧の続きを見るためには、このまま30cmほど態勢を低くし、眼前に立ちふさがるスニーカーの裏から、僕の視線を下方修正しなければならない。ただ、これ以上僕の人間性を諸兄諸姉に下方修正されるのは、いささか不本意であるので、ここはひとつ大人の対応で、この状況をクリアせねばならないだろう。

ちなみに先に断っておくが、軒島ニコナのスカートの下には黒いスパッツを着用しており、若い膝小僧の続きは形状のみの把握となってしまうことをご理解いただきたい。


「それはすまなかった……。



 とでも言うと思ったか!

 眼前には突き抜けるような真夏の青い空。

 輝くほどの白い砂浜、そしてエメラルドグリーンに煌く美しい海を見て、飛び込んでいかない男がどこにいる!」

 

 僕はそう言い放ち、重心を沈めると同時に真下から軒島ニコナの蹴り上げた足首を両手で把持すると、コマンドサンボよろしくそのままタックルへと移行する。

まずは生足首の感触ゲット!

よし、捉えた。僕の視線は若い膝小僧の先へと進み、彼女の形状スペックを瞬時に分析する。

本来の僕はスカートの下にスパッツを装備するなど認めないのだが、だがしかし、スパッツを装備しているが故の過信、その無防備さこそが仇となったようだな、軒島ニコナ!

最早、僕の視線から逃れることはできない!


「あまいぜ、にぃちゃん!」


 軒島ニコナは掴まれた足首を起点に飛び上がると、僕の頭上高く舞い上がり、空中踵落としとでも言おうか、飛び上がる際に振り上げた足を振り子、いや鉈のように振り下ろし、僕の後頭部を直撃した。

僕は一瞬のうちに南の島極上パラダイスからフェイドアウトし、タックルの勢いをさらに加速させられ、次元の彼方へと吹き飛ばされた。



「駅の方向、逆だった。んじゃ今日は帰るね、にぃちゃん。」


「美しい南の島とて、突然ハリケーンが襲ってくる日もある。

 気を付けて帰れよ。」



 僕は額から流れる血をそのままにし、何事もなかったかのように立ち上がり、服に着いた砂をはらった。後ろは振り返らない。僕は目をつむりながら若い膝小僧から先の映像を脳内再生した。

程よく締まり、筋肉と脂肪のバランスが取れた内腿の緩やかなライン。その先にある丘陵……。



今日のところは痛み分けだな。

とはいえ再会するつもりも再戦するつもりはないが。


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