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―HERETIC―  作者: イツカニト
2/5

~懺悔~

 ――母が嫌いだった。


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。そう思うと、嫌でも過去を振り返ってしまう。

 手にした松明の先で揺らぐ、清らかな炎の奥で、女神様が私の事を見ていらっしゃる様な気がする――。


 偉大なる女神セン様、私の名はクコと申します。卑しい娼婦の娘で、父親は何処の何者か知りません。

 母に似た赤毛と雀斑と、藤色の瞳が大嫌いです。生まれのせいで他人から疎まれ続けた人生が大嫌いです。私の居場所が見当たらないこの世界が大嫌いです。そんな人生を変える事が出来ない自分が大嫌いです。

 何もかも大嫌いですが、いつか女神様に導いて頂けるよう、女神様の教えに従い、日々を生きております。


 私の――まだ十六年ではありますが、私の人生は、女神様からご覧になって、どの様に思われるのでしょうか。

 きっと私は、母にとっては『荷物』だったのでしょう。私が居なければ、もっと仕事は上手くいったでしょうし、かといって捨てようにも、容姿がよく似ているので、そうもいかなかったのでしょう。

 私が何をしようと――そこに居ようと居まいと、関心を持たれた記憶がありません。そもそも、母が家に居た記憶があまりありませんし、時々帰って来たと思えば、すぐに次の客と出掛けていってしまった事しか覚えが有りません。


 私が背負わされたのは、『婬売の子』という荷物でした。何処に行っても婬売の子と蔑まれ、指差され――ただ息をしているだけで迷惑がられたので、その荷物の中身の『孤独』は重たくて、よくいう『希望』なんて持ってる余裕はありませんでした。

 

 母の仕事が仕事なので、最低限生きていくお金には困ったことはありませんでしたが、生きていくお金を使う事には苦労しました。何せ、婬売の子に物を売ってくれるお店なんて、ほとんど有りませんでしたから。

 売ってくれそうなお店が有る地域や、人通りが少ない時間帯は、婬売の娘を同じく婬売だと思う乱暴者が多かったので、私では近付けませんでしたし。

 必要な物が有るときは、比較的親切な、私の事を無視する程度のお店で、黙って商品を取り、黙ってお金を置いて、迷惑にならないよう素早く立ち去る。そして、真っ直ぐ急いで家に帰り、次の必要な物が出るまで、本でも読んで息を潜める。それが私の毎日でした。


 その毎日も、本日終わりを迎えました。教会軍の方々が家にやって来て、私を『魔人裁判』の重要参考人として連行したのです。


 魔人裁判は、人間の社会に紛れ込んだ、ヒトと似て非なる魔のもの『魔人』を見つけ出して、殺す儀式。

 魔人は人に紛れ、魔を感染させる。魔に染まった獣は魔物となり、異形の姿に変質し、人は道理を外れた能力を手に入れ、魔人となる。そして、魔が広がり過ぎると、その魔を統べる存在、邪悪な眼を持つ化け物『魔族』が現れ、支配されてしまう。

 だから私達人間は、女神様の教えを守り、街から魔を廃する為に、魔人裁判を行っている。

 とはいえ、私は本物の魔人を見たことが有りませんし、魔人が出たという話も聞いたことが有りません。

 私の知る限り、魔人裁判とは名ばかりで、他人といさかいを起こした人が密告されて、衆目に晒されるという少々恥ずかしい思いをした後、結局魔人ではないので許され、女神様に反省を誓って解放される、ただの公開反省会です。

 昔は魔人の容疑がかかれば即拷問の後、火炙りにしていたそうですが、今の領主様に変わってからは、血液や身体検査で魔人かどうかをしっかりと調べられる、教会の最新技術を導入して下さったそうで、そんな残虐な儀式から、今日の平和で滑稽な儀式へと形を変えたそうです。

 だから今回の私の連行も、私を母と同じ職業だと勘違いした乱暴者が、傍目に不愉快だと密告されて、私が本人確認をさせられるのかな、程度に思っていました。

 ――なので、教会軍の兵の人達がやけに武装している事にも気付かずに、魔人裁判はするべき良き儀式だと思っていました。

 先導されて大通りを進み、抜けた先の広場に設置された火刑台の上で、細い柱に縛り付けられて、膝まで薪を積まれた

 

 

  母 の 姿 を 眼 に す る ま で は ―― 。

 

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