【超短編】うちのメイド
我が家にもメイドがいたらいいなと思います。
「行ってらっしゃいませ、ご主人様」
メイドはいつも、おれが出かけるときに声をかけてくれる。
「ああ、行ってくるよ」
おれはそう言って、家を出た。
我が家には一ヶ月前からメイドがいる。メイドだから、メイド服を着ている。
メイドだから、エッチなことはさせてくれない。あたりまえだ。
名前は翔子といい、顔もタレントの中川翔子に似ていて、かわいいのだ。
今日は仕事帰りに、ケーキでも買っていってやろう。
☆★☆
やれやれ、やっと仕事が終わった。ケーキも買ったぞ。
疲れたが、翔子が迎えてくれると思うと、張り合いがあるというものだ。
おれは六畳一間の風呂なしおんぼろアパートに帰ってきた。
おれは一人暮らしのフリーターでビンボーなのだからしかたない。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
いつものように翔子が言葉をかけてくれた。
「ただいま、今日は疲れたよ。ほら、ケーキを買ってきてやったぞ」
「ありがとうございます、ご主人様」
玄関ドアの裏には、メイド服を着た中川翔子の拡大コピー写真が貼ってある。
すぐそばにはオーディオ装置があり、それを操作するとメイドの声が出る。
我が家のメイドはまだ五種類ほどの決まり文句しか話せない。
これから少しずつ、バリエーションを増やしていくつもりだ。
なんとなく悲哀感が漂います。