【黒の神官】
主人公と同じ、高校二年生の時に考えたものです。
約一年前。誤字脱字多いかもしれませんが、よろしくお願いします。
夢を見た…というには、とてもリアルだったような気がする。
分厚い本を読み終えたような、100巻ぐらい買って、一日で読んじゃったような
そんな達成感と共に、その物語への執着心や過度な感情移入。
大泣きしたり、喚いたり、叫んだり、無理したり
仲間に気を使ったり、仲間のために戦ったり、仲間のために死ぬ。
まるで現実のようで、非現実。
幸せな世界のような、辛い夢のような
そんな私の長い夢物語。
COLORS
夏の始まり、体調を崩し家で寝込んでいたある日のこと
私は夜が遅く、朝が早い生活を繰り返していたため、もちろん昼間に眠くなることが多く
寝ていなければ頭痛もするため、布団に入ってそっと目を閉じた。
眠るために聞いているのは民族音楽。
目を閉じているだけだけど、まるでゲームの世界にいるような、そんな気がする。
音楽を聞きながら思い浮かべるのだ。キラキラと星が瞬く黒い宇宙。
夕日が照り返す赤い砂漠。青々とした草木が生える緑の草原。
イチョウがひらひらと舞い踊る黄の並木。日が昇ろうとしている夜明けの紫の空。
そして、私の身体中を包み込む青い海。
私はそれらに手を伸ばしては、また届かないのだと気付きながらも
何度も何度も手を伸ばす。まるでそこに世界があるように。
…そんな世界はある日、突然私の目の前に現れた。
(…寒い)
母が冷房の設定温度を低くしたのだろうか。全身が凍えるように寒い。
景色はいつもの草花が生えている明るい街ではなく
活気がない全体が黒い街だ。…建物が全て黒。
だが、降り積もる雪が光り、暗くは見えない。
…だけども、いつも楽しみにしている私の妄想と夢の狭間の時間が
こんな暗い場所で終わるなんてまっぴらごめんだ。
(目を、覚まそう)
そう思って無理やり目を開けようとする。
…だが、無理だった。今、景色を見ているのだから目は開いている。
だが眠りについている体は目を閉じている。
どうやって開けるべきか。私はその方法を確実に知らない。
「寒いなぁ…」
あぁ、でもどうせ夢ならば、この世界を満喫してからでも遅くない。
目が覚めてもそこにあるのは現実だけ。
なら、今この時間をどう楽しもうか。
「…リュティ?」
私の背後から彼が声をかける。
私はその声に振り返り、彼を認識する。
【黒】を纏った【神官】。
「…ど、なたでしょうか」
思わずどもってしまう。
妄想と夢の狭間は自由自在で、その場所をウロウロすることができる。
もちろん、人が出てくる夢もあれば人が出てこない夢もある。
…だけど、こうして直接話しかけられたのは初めてだ。
それもしっかり、相手の顔を見ることができる。
「…あぁ、そうか。君は私のことを覚えていないのか」
「えっと…」
「とにかくおいで。その恰好じゃ寒すぎる」
彼に言われて初めて認識する私の容姿。
顔まではわからないけれど、黒い髪はそのままだ。
…服は見たことがない袖なしのワンピース。
後は装飾品どころかコートも靴も身につけていない。
だから雪の中でこんなに寒いのか。と勝手に理解する。
彼が私の手を引いて歩こうとする。
どこに連れて行かれるのだろうか。
「…あぁ、裸足、か」
彼は私があまり動かないのを見て首を傾げた後、私の足元を見て呟く。
「へ」
「このままじゃ凍傷してしまうから」
彼は軽々と私を抱き上げ連れて行く。
お姫様抱っこ、と言うにはあまりにもムードも何もないが
これもまた私の夢の中の願望なのかと思うと
ただただその時を満喫しようと思った。
✞・✟
彼に連れてこられた場所は一つの小さい教会だった。
教会の裏側にある少し小さな小屋に連れて行かれると
彼は私を椅子におろし、目の前で暖炉を焚いてくれた。
その炎の暖かさに奇妙な違和感を抱く。
「君は一体いつからあそこに?」
違和感の正体を考えるよりも早く、彼に声をかけられる。
「えっと…貴方が喋りかける少し前、です」
「そうか…ここに関して懐かしいと思うことは?」
私はそう言われて辺りをキョロキョロと見渡す。
黒一式の場所。暖炉も、机も椅子も床も壁も…
窓ガラスの向こうにある白い雪以外は全て黒に染まっている。
懐かしいかと問われればそれは違う。
ここは私の知らない場所。だから夢に出てきたのだ。
「私、ここは知らない、です」
「そうか…君の名前は?リュティであっているのか?」
「リュティ?」
私はその名前に再び首を傾げる。
どこかで聞いたことのあるような気がするその名前だけれど
心当たりがないし、聞き覚えもない。
「君の…名前だと思うけど」
「私の名前は、リュティじゃない、です」
「じゃあ、名前は?」
そう言われて私は名前を紡ごうとする。
だけれども、声が出なくなってしまう。
喉を通る声の音がなぜかビュウビュウと聞こえる。
…私は自分の名前が嫌いだ。私の名前は孤独の名前。
海でも陸でも空でもない。全てに属さない名前。
そんな名前を夢で呼ばれるなんて、耐えられない。
「リュティでいい、です」
「そうか…じゃあリュティ。私の中では久しぶりなのだが…。
とりあえず、初めまして」
彼は少しだけ口に弧を描く。
彼の髪も黒いし、彼の姿も黒いのに対し瞳の色が金色だ。
その綺麗な金色が私を捕える。
「私は【黒の神官】。この街の司祭をやっている。
先ほどここに来る前に見た小さな教会の主さ」
「…神官…」
「そう。赤の他人からはそう呼ばれている」
彼の言葉遣い、着ている服に描かれている十字から
この人が本当に神官なんだろうな。という印象は抱く。
だが、彼の言葉と容姿は私の知っている神官ではない。
…私の知っている中での神官たちは皆白を纏っていた。
だが彼は黒い服を身に纏っている。
そして、言葉遣いは丁寧語、尊敬語など、かしこまった喋り方でもない。
カトリック信者ではない私にとって、教会は無縁の場所だったから
果たして実際の神官や神父さんがどのような人なのかなどは知らない。
スマホのゲームで遊ぶRPGのキャラクターぐらいだ。
…後は軽い小説ぐらい。だが、彼が違うことはわかる。
「…じゃあ、名前はあるんですか?」
「もちろん。君に名前があるように私にも名前がある。
私を指差す名前ではない。私自身を現す名前だ」
「えっと…聞いても?」
「…ルーノ。そう、昔は呼ばれていた」
「ルーノ」
どこか懐かしい響きにふとクエスチョンマークを頭に浮かべる。
どうして懐かしいのだろうか。
「君にならそう呼ばれてもいい」
「どうして、私?」
「君のことをよく知っているからだよ。リュティ」
「私の…ことを」
その時私は先ほどの炎の違和感に気づいてしまった。
…私は実際にこの世界にいるのだと。
全身が凍えるような寒さから暖かい暖炉の温もりに包まれ
今、夢の中で意図せず声を出せる。
そして、何よりも彼が柔らかく笑い、微笑むその姿が
しっかりと目に焼き付けられたからだ。
「ここはずいぶん変わってしまったけれど、きっといつか懐かしい日々を思い出すよ。
その頃にはきっと春がやってくる」
「春が?」
「リュティ、君がやっと現れてくれた。
きっとそれはこの長い冬を終わらせる合図に間違いない」
一体私はこの世界で何者なのだろうか。
もしもさっきの考えが違っていたとして、ここが夢なのならば
私はある一国の王女なのかもしれないし、勇者なのかもしれない。
神様なのかもしれないし、普通の一般人かもしれない。
「…無理に思い出さなくてもいいんだ。
君がこの世界にいる。それだけで私には意味がある」
彼の言っていることは私の世界では犯罪めいた言葉だ。
彼が私を知っているなんて嘘かもしれない。
私を騙そうとしているのかもしれない。
それでも、その異様な黒い容姿が、黄金の瞳が、彼の名前が私の世界よりも懐かしく
とても近いものなのがわかる。
「えっと…ルーノ、さん」
「ルーノでいい」
「じゃあ、ルーノ。貴方はどうして私を助けてくれるんですか?」
「愚問だな。リュティだから、かな」
「リュティって?」
「あぁ…そうか。君は覚えていないのか」
首を傾げる。いったい彼は誰と私を間違えているのだろうか。
…恋人?奥さん?娘?いや、どれも当てはまらないだろう。
彼のことを知っているような気もする。だけど、その顔を見たことはない。
私の世界で?…それはもっとありえないだろう。
彼の顔が現実離れしているのではない。
だが、不思議と私の世界ではありえない人間なのはわかる。
彼が私を誰と間違えているのかは知らないけれども…。
「リュティ。君は…あぁ、違う。今の君じゃなくて…。
そう、前世みたいなものさ。君じゃない君。わかるだろう?」
「前世…」
そう言われてもハッキリしないものはしない。
「君は太古の昔、世界を救った英雄だった」
「英雄?女が?」
「あぁ、そうさ。少し待っててくれ」
彼は私から見て右の扉に入っていった。
私は暖炉の前から動かず、彼が帰ってくるのを待っている。
英雄…英語でヒーロー。日本語に変えると勇者にもなる。
私の世界にもかつて英雄と呼ばれた女性がいた。
…だけどそれはほんの僅かな人達であり、自分の前世が
英雄だったのかと言われれば間違いなくポカーン、だ。
ライトノベルにおいて、ファンタジー系の物語は読んでいるけれど
勇者様と呼ばれているのは男ばかりだし、女が主人公の小説は
大抵が恋愛ものに発展してしまって興味が薄れてしまう。
…実際は女の勇者もいたのかもしれないけれど、私は知らない。
「ほら、これ。…君にピッタリではないかもしれないけど…」
ルーノに差し出され、渡されたのはこれまた真っ黒いコート。
…そして、黒いブーツ。ここまで黒に拘る人を初めて見た。
いや…黒に拘る街を、初めて見たんだ。
「どうして、黒?」
「…そのうちにわかる。その前にそれを着て」
私は言われるが儘にコートを羽織り、ブーツを履く。
やはり、そのコートは私の身長には少し大きく、ブーツもピッタリではなかった。
「買いなおさなきゃいけないな…」
「っていうか、これ、女物…ですよね?」
「そうだね」
「そうだねって…いや、あの、一人暮しじゃないんですか?」
「一人暮しだけど」
「じゃあなんで女物…あっ…」
「いや、恋人に振られたとかじゃないから。
…君が帰ってくるのを予想して買っていたんだよ」
私の言葉を遮るように言うルーノ。何故バレた。
と言うか…私が帰ってくるのを、待って?
「君がいつでも帰ってきても大丈夫なように、買っていたんだけれど…。
サイズがぴったりじゃないなら意味がなかったな」
「いやいや、嬉しい、です」
この服は私にピッタリのサイズではない。
彼は【リュティ】の為に服を買った。もちろん、彼女のサイズに合わせている。
ピッタリじゃない私はもちろん彼の知っている【リュティ】とは別人。
…それぐらい、この人ならすぐに気づきそうなのに…。
いや、あえて言わない私も、なんとなく察しているのかもしれない。
「しばらくはそれで我慢しててくれ。
…で、連れて行きたい場所があるんだけど、ここに来る前に教会を見たのを覚えてる?」
「…あっ」
確かに、真黒な建物だったけれど、天辺に十字を掲げているのは
わかっていたから、あれが本当に教会だったのだと知る。
「見ました」
「そこに行こう。君の…リュティの話はそこから始まる」
ルーノが私の手を取ると、引っ張って外へと連れ出してくれる。
外は凍えるように冷たく、せっかく取った暖が消えて行くようだった。
亀更新となりますが、よろしくお願いします。
ほのぼのお付き合いいただけると幸いです。