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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

悪役令嬢&婚約破棄

聖女様が婚約破棄? いいでしょう、血の雨を降らせます!

作者: 赤ポスト
掲載日:2016/06/03

◆更新履歴(2016年 6月6日 4時18分)

 内容:タグ追加&一部内容変更(大筋に変化無。3千文字程増加)


タグを追加しておりますが、【残酷な描写】があります。

苦手な方はご注意下さい。

◇1



 皆さんは、好きな人の心臓を食べたいと思った事があるだろうか?

 


 好きになってしまったあげく、相手の一部が欲しくなり。

 なるべくなら相手の思いが詰まった部分がよくて。

 最初は相手がいつも持っているキーホルダーやハンカチで。

 でもそれでは全然物足りなくて、相手自身の手編みのマフラーが欲しくなって。

 いやいや、それでも足りなくて、相手自身の生成物、相手の髪の毛にいたり。

 いやいや、さらにそれでも足りなくて、相手の外面ではなくて、中身が欲しくて。

 それで最終的には心臓にたどりついたわけです。


 これが本当の愛です。

 真実の愛です。

 それ以外は紛い物の薄っぺらい感情です。

 こういう気持ちにならなければ、あなたの愛は本物ではないのです。

 

 偽者でいいんですか?あなたは。

 そんな紛い物の愛で満足なのですか?あなたは。

 あなたはそんな人なのですか?あなたは。



 え?

 おかしいって?

 頭おかしいって?

 こんな考え、ストーカーの進化版だって?



 でも仕方がない。

 惚れてしまったのだ。



 

 俺は乙女ゲームに嵌っていた。

 それで寝落ちするといつのまにかそのゲームの世界に入っており。

 登場キャラの一人、ジュリアム公爵になっていたのだ。


 乙女ゲームにでてくるだけあって無駄にイケメンだ。


 

 慣れない公爵生活をしていると聖女様に出会った。

 その名の通りとても優しい人で、たちまち彼女の虜になった。



 でも、一つ不思議だった。

 聖女様は好きなタイプとは正反対だったのだ。

 

 俺は純粋無垢な良い子好きなのではなく、どちらかというと悪い子が好きなのだ。

 いや、ちょっと過少申告した。

 どちらかというレベルではなく、悪い子にしか魅力を感じない。


 もし前者の良い子が好きなら素直に男性向けギャルゲーをプレイしている。

 しかし俺は後者で悪い女の子が好きだから乙女ゲームをやっていたのだ。


 特に乙女ゲームに出てくる悪役令嬢が好きで。

 彼女がヒロインの良い子ちゃんに悪戯をする度にトキメイた。



 だから俺は、何故聖女様に恋をしたか時々不思議に思っていた。

 でもそんな事を次第に忘れていった。

 

 よくよく考えると、人の好みなどすぐに変わると思うから。

 

 小学生の時は運動が出来る子が好きで。

 中学生の時は明るく楽しい子が好きで。

 高校生になると勉強が出来る子が好きになる。


 だから俺も、異世界に来て公爵になったので環境に適応し、好きな子のタイプが変わったのだと思った。


 



 で、色々あって婚約したのだが・・・



 いきなり聖女様に婚約破棄を言い渡された。


 ガーン!


 ガーン!


 ガーン!


 俺はショックのあまり精神が不安定になり。

 

 ――「聖女様の心臓が食べたい」――


 という異常心理になった。

 

 そうやって変な事(心臓食べたい)と書斎に篭って呟いているとメイド達に引かれた。

 

『ショックのあまり悪魔に取りつくかれた』

『精神をおかしくした』

『お館様はお疲れになっている』


 色々言われている事を耳にした。

 でも、そんな事を気にせず部屋に篭って三日目。


 俺は唐突に思い出した。


 そういえば、ゲームでは悪魔教の話があったと。

 

 で、王立図書館を探ると禁書の棚にあったのだ。

 悪魔召還の本が。


 本を読み、公爵の財力で材料を揃えて悪魔召還をいざ実行。

 そしたら変な女の子が出てきた。なんでやねん!


 柔らかそうな赤髪のふわふわさせながら、純粋無垢の顔で笑っている女の子。

 プカプカ宙に浮いている赤髪の少女。

 その名は「マルル」。


 なんだ?

 これが悪魔かと思ったけど。

 悪魔らしい。


 なぜなら、マルルがそういうので間違いない。


 『うぇああああ。ここどこ?どこなの?

  うわああああ(俺を見て)

  えっと、マルルだよ!

  えっとえっと、はじめまして。よろしくお願いします』


 と、激しく動揺されながら礼儀正しく?挨拶されたので。

 こちらも。


『こちらこそ、よろしくお願いします』


 と返しておいた。



 それから彼女をメイドとして雇った。

 マルルは隙を見つけるとプカプカ浮き出すので厳しく注意した。

 人前で宙に浮くのは禁止だと。

 だってヤバイよね、それは。

 

 妙な噂になって魔女狩にあったら困るし。

 そんな運動があるかどうか分からないけど、中世っぽいからありそうな気もする。


 俺の注意に、マルルは「はーい」とかわいく返事をした。 

 でも、時々無意識に宙に浮いている時があった。

 

 それを見つけて注意すると。


「わわわわー、のわのわのわあああああー、ごめんなさーい」


 と、平謝りしてすぐに地面に足をつける。

 素直な子らしい。かわいいな。



 暫くして、マルルを引き連れて聖女様を見に行った。

 別に婚約破棄された聖女様にマルルのかわいさを見せ付けて、俺には新しい女(小さいけど)がいるとアピールしにいくわけでないし。

 聖女様の心を射止めるために送った金品を回収しに行くわけでもない。


 マルルのある能力を発揮するためだ。



 教会の隅から俺は聖女様に目を留める。

 

 聖女様~。

 肩まで伸ばした黒髪が奇麗な女性。

 今日も教会で仕事に励んでいるようだ。


(やっぱりかわいいなー、特に横顔に気品がある)


 男子に比べると小さな手を動かし、熱心にノートに何か書き込むその姿。

 女性らしい華奢な姿と、真面目に授業を受ける硬い姿が交じり合い、守ってあげたくなるようなかわいさがある。

 時々狂ったように力強く、消しゴムで「ごしごし」と間違いを消すのもいい塩梅だ。


(彼女はこの世界で一番かわいい。とってもピュアだ!

 あんな良い子が婚約破棄するなんて信じられない!

 しかも未だに結婚資金を返金してもらっていないなんて)


 そう思って眺めていると妙に胸騒ぎがした。

 胸がドキドキして落ち着かない。

 心臓が存在をアピールしている。


(なんだろう?この気持ちは)

 

 俺が自分の気持ちに戸惑っていると。

 隣のマルルが。


「んん?はぁ!!!ふぁああああ!

 ビビットきちゃったー!電撃ビリビリ!

 シン、シン、恋しちゃったねー」


 マルルが俺の名前ジュリアム・シンを連呼しながら騒がしく震えだした。

 着信した時のスマホみたいに。まじビビった。


「パンパカパーン。

 シン、おめでとーございます。

 あなたは恋をしました。

 やったねー。マルルもうれしいよー。

 ねぇ、ねぇ、今、どんな気持ち?」


(全く、うるさい奴だ)


 マルルは小さな子供の様に騒がしく叫ぶ。


 俺は心中で返事をする。

 声を出さなくてもマルルとは会話できるのだ。


『マルル、少し黙れ。

 聖女様に陰から見てるとばれたらどうしてくれるんだ。

 TPOをわきまえろ。それに声に出すな。

 それに元婚約者なんだから恋してるに決まってるだろ』


『えー、やだよー。

 いじわるしないでよー。やだよー、やだよー!

 一杯しゃべりたいよー。おしゃべりしたい

 本当はシンも嬉しいけくせにー』


 マルルが心の中で叫びながら。

 肘で「ほらほら」っといって、俺の肩をつっついてくる。


『黙らないと、帰りにアイスを買ってやらないぞ』


『ええええええ!

 そんなのヤダヨー。不公平だよー。

 マルル、何も悪い事してないのに。

 いじわる!いじわる!シンのいじわる!』


 マルルが俺の視界防ぐように散々動き回る。

 夏の熱帯夜、耳元で飛ぶ蚊のようなうっとおしさがある。


『分かった。分かった。アイスは買う。

 だから少し静かにしていろ』


『やったー。それで、シンが恋をした子は・・・』


 マルルが俺の視線を追うようにして、聖女様に目を留める。

 どうやら俺の忠告は無視されたようだ。元気一杯だな。


『あの子だね。

 ちょっと地味な子かなー。

 シンには釣り合わないんじゃないかなー。

 性格的にそう思うな。人って相性の問題があるし。

 別にあの子が悪いっていってるわけじゃないよ。

 でも、マルルそう思うなー。そう思う』


 まるで俺の母の様な言い草。

 そういえば、現実世界の母は元気だろうか。


『マルル。聖女様を馬鹿にするな。

 それに君の意見はどうでもいい』

『えー。

 どうでもよくないよー。すっごく重要だよー。

 私はシンの事なんでも知ってるんだから。

 それにシンが恋しちゃった子だよー。

 あたし、気になるなー』


『恥ずかしいから、恋とか言わないでくれ』

『シンは思春期ちゃんなんだからー。

 もーう。プンプン』


『というか待て。なんで恋したって分かった?』

『私には分かるのの。契約特権だもーん!

 すごいでしょ!』


 おかしいな。

 元々聖女様の事は好きで婚約までしていたのに。

 今さら恋するなんて。


『それより、早く能力を頼む。

 そのためにマルルを連れてきたんだ』

『分かった。やっちゃうねー。

 いくよー。

 うううーーん、ポイ!うううーーん、ポイ』


 マルルは力をためるように屈みこんで。


 『―――鑑定!―――』


 両手で窓を作ったマルルが、指の間から聖女様を見ている。

 



 そして数秒後。




『じゃじゃーん。できたよー!』


 マルルは誇らしげに胸を張って、「えっへん」ポーズをする。

 

 俺はその姿を冷静に眺め。


『それでマルル。結果は』

『もーう。冷たい反応のシンには教えなーい。

 褒めてくれないシンには教えなーい。

 無愛想なシンには教えなーい』


(つくづく面倒な奴だ。

 だがここは俺が大人にならないとな。

 公爵であるこの俺が)


『勘違いしないでくれ、マルルには感謝してるんだ。

 呼び出しに応じてくれた悪魔だからな。

 それに俺は感情表現が苦手なだけなんだよ。

 君の事はいつも大切に思っている』

『知ってるよー! 

 シンはマルルの事尊敬してるって。

 シンは不器用なんだなー』


 マルルは元気に一回転し。


『それじゃー発表しまーす。

 じゃじゃーん』


――――――――――――――――――――――

 名前:ナターシャ(あだ名:聖女様)

 所属:教会

 属性:光

 悪徳ポイント:300

 ルックス:80点 性格:10点

 備考:民衆から好かれている。

     実は王様の愛人。公爵3人と3股中。

――――――――――――――――――――――



(なん・・・だと・・・)


 俺は宙に現れた画面のデータを見て衝撃を受けた。


(王様の愛人だと。んな馬鹿な。

 だって、俺と婚約したんだぞ。そんなわけあるかあああ!)


『おい、マルル。このデータは本物なのか?

 間違いないのか?嘘だろ。嘘だといってくれ』


『嘘だよ!』

『よかったー。それで本当のデータは?』


『本当のデータだよ』

『じゃあ、なんで嘘っていったんだよ』


『シンが嘘っていってほしいって言ったから』


(ぐぬぬぬ。

 融通が利かない素直悪魔マルルだ。

 マルルに翻弄されたとなると、「ぐぬぬぬ」と唇を感でしまう。

 ぐぬぬぬ)


『シン、それよりこの子、悪い子だねー。

 地味な顔して、悪徳ポイント300も貯めちゃってるよー。

 一体これまでどんな悪い事してきたんだろー。

 普通の人は10ポイントぐらいなのにねー。すっごく悪い子」


(そうなのか?聖女様といえば良い人の代表の様な人なのに)


『マルル。

 まず悪徳ポイントってなんだ?』

『悪徳ポイントは、その人が犯した悪行に対して加算されるポイントだよ』


『それじゃ、300ポイントってのはどのぐらい悪さなんだ?』

『すっごく悪いよ。

 だって普通の人じゃ、頑張ってもそんなに貯めれないよ。

 意外にポイント貯めるの大変なんだから。

 聖女様は凄いねー。悪い子の才能があるのかも』



 そうなのか。

 聖女様はとんでもなく悪い人だったのか。

 そこいらの悪役令嬢も真っ青だ。


 それより、まさかあんな良い人そうな顔をして、俺と婚約までして。

 裏では複数の男と付き合っていたなんて。


 許せない。

 復讐してやる。

 絶対に!


 弄ばされた男の恨みを恐ろしさを教えてやる。


『マルル。聖女様を殺れるか?』

『うん。できるよ。

 どの世界でも悪い子は鬼に食べられちゃうんだから。

 シンは約束覚えてるんでしょ。や・く・そ・く』


 そうだ。

 俺はこの謎の生命体。

 現在絶賛俺の家でメイド中、自称悪魔マルルと契約をしてとある能力を得たのだ。

 

 でも、その代償は大きかった。


『勿論だ。悪魔と交わした計画を忘れるわけないだろ。

 俺を誰だと思っている。そこらの一般人と同じにするな』

『さっすが公爵様は違うね。

 マルル、シンには期待してるよー』


『ふふふふふ。

 そうだな、俺には期待してもいいんじゃないか』

『そんな事自分でいうんだー』


『それよりマルル、契約の確認だ』

『はーい』


 元気よく手を上げて挨拶すると、マルルはポケットから紙を取り出す。


『マルルに悪徳が詰まった心臓を1カ月に1つプレゼントする。

 その代わりに能力を得る。それで間違いないな?』

『そうだよー。シンは記憶力がよくてよかったね』


 マルルは紙を見ながら「うんうん」と頷いている。


(悪魔は悪賢いものだと思っていたが、マルルは違うのか・・・

 まぁいい。それよりも今は状況確認だ)


『それでマルル。

 具体的な悪徳ポイントの内訳を知れないのか。

 本当に聖女様が悪い人なのか確認したいんだ』

『ちょっと待ってね。

 今からよーく見てみるからねー。

 隅々まで見ちゃう』


 マルルは再び指で窓を作り、聖女様に見る。

 そして。


『うううーーん、ポイ!うううーーん、ポイ』

『―――鑑定!―――』



――――――――――――――――――――――

名前:ナターシャ(聖女様)

罪状:王立図書館の本のかりぱく(20冊)。

    教会予算の私的流用(500万ゴールド)

    暗殺依頼(30人)

    不倫(12人)

    違法薬物使用(3年)

    違法薬物の売買(5年)

    違法武器取引(3年) 等々

――――――――――――――――――――――



 示されたデータを見て、俺は再度ガックリする。

 聖女様は地味目な見た目に反して、まるでギャングの様な人だった。

 とんだ悪人だ。


『聖女様は小技で得点を稼ぐスタイルみたいだよ。

 まぁ、大人しい顔してなんて子!』

『確かに、中々根性が座っている女の子なのかもしれないな。

 こんな子に恋をしてしまった自分が情けないよ』


『でもねー、いいんだよ。

 それがシンの才能なんだから。

 どうしようない女の子に恋をするのが、シンの一番の才能!

 すごいよー、パチパチパチ』


(マルル、もしかして煽ってるのか・・・)


 でも、それはなさそうだな。


 心から祝福してくれているようだし、マルルは天使の様な笑顔だ。

 見た目だけなら悪魔でなく天使だな。


 それに俺が聖女様に惚れた理由も分かったかもしれない。

 知らず知らずの内に、聖女様の中に隠された「悪女成分」を察知していたのだと思う。


『マルル、契約時の話では鑑定も俺の能力も有限なんだろ。

 それに、マルルに捧げる心臓は、俺が恋をしてる人の者でなければならない

 あってるか?』


『そのとーり。分かってるー。

 思いがこもっていない相手の心臓を食べてもダメなんだよー。

 全然美味しくないんだもん。作り手の思いが大事なの』


(一流料理人みたいなことを・・・

 美味しさの問題ではないと思うが・・・

 マルルは美食家なのか)


『やっぱりシンに呼ばれて良かったなー。

 あたしの能力はねー、シンと息ぴったり。ベストフレンド。

 普通の人は悪い女の子に中々恋をしないんだよ」


(息ぴったりか・・・

 確かに、そういう意味ではそうかもしれない。

 悪魔に言われても嬉しくは無いがな)


『ありがとう、マルル。

 褒め言葉として受け取っておくよ』

「シン、それじゃーなるべく早く心臓頂戴ね。

 あたし、お腹ぺっこぺこなんだから。ぐーすかぴー。

 後1週間だからねー。そうしないとシンの能力消えちゃうよ。

 なくなっちゃうよー』


 マルルは柔らかそうな赤髪をふわっと動かし、指に巻いている。


『落ち着け。勿論だ。

 1カ月に一つの契約は守る。

 今すぐ聖女様を殺してもいいが、俺はちゃんと彼女を確認する。

 マルルのデータに間違いがあるかもしれないからな』

『えー。マルルを信じてないのー?

 ひどーい。

 あたし、さびしいなー、さびしいよ。

 ねぇ、あたしを信じてよー。おねがーい』


 マルルが大きな瞳をうるうるさせて、両手を顔の前に出してこちらを見つめている。


(悪魔が何を言っている。

 かわいい見た目をしているが、油断するとどうなる事やら)


『マルルの事は信じてるさ。

 でも、俺は君の力だけに頼りたくないんだ。

 マルルと手を取り合って一緒に頑張りたいんだよ。

 頭の良いマルルなら、分かるね?』

『うん。分かっちゃ。

 でも、早く心臓くれないとー、シンのを食べちゃうかも。バクバクバク』


『ははは。冗談はよしてくれ。

 それよりここを離れる。さすがにずっとここから聖女様を見てると怪しまれる』

「そうだねー。それじゃー、調査を開始しないと」


『そうだな。

 後、分かってると思うが、マルルは大人しくしてくれよ。

 俺一人でで全て対処可能だ』

『うん。分かってるよー。

 あたしは、ずっと見てるだけなんだから。

 見・て・る・だ・けー』


 見てるだけアピールか。

 マルルは両手で望遠鏡のような仕草をしている。

 彼女はその手製の視力拡張器で至近距離、鼻の先から10cm程から俺を見ている。

 

 正直邪魔だ。


 2,3歩後ろに下がると、マルルは望遠鏡の焦点をあわせているのか、

 小さな手をクイクイっと動かして、何か調整しているらしい。 


 俺がさっと顔を動かして、マルルの望遠鏡から逃れると。

 彼女はプクーっと頬を膨らまして、「いじわる!」っと呟いた。


『マルルは悪魔だから。

 見られると魂でもとられるかと思った』

『そんなことしないよーあたしは。

 でも、あたしはすっごーい悪魔なんだから。

 うまやわなければいけないんだよ』


『言えてないぞ、マルル』


『う、うるさいー。馬鹿シン、馬鹿シン、馬鹿シン』


 ポカポカと俺の肩を叩いてくるマルル。


 やれやれ、困ったレディだ。

 こういう彼女をエスコートするのも公爵たる俺というものかな。




 こうして聖女観察は終わった。




◇2




 俺はマルルの情報を元に、聖女様の事を調べた。

 やみくもに調べても何も出てこなかっただろうし、そもそもこれまでは彼女の事を少しも疑っていなかった。


 捜査を開始すると、マルルのデータの一部が本当だと分かった。

 教会の金の動きを洗うと、明らかにおかしな点を見つけたのだ。

 金が消えている。


 それに、彼女を四六時中つけまわすと愛人との密会現場にも遭遇した。

 俺は苦々しい表情でその光景を見た。


 その際、俺と同じように建物の陰から聖女様を睨んでいた男を発見した。

 目が会うとさっと逃げていったが、俺はその人を追いかけ話を聞く。


 すると彼は、聖女様の不倫の被害者だった。

 妻にばらすうんぬんと言われて、彼女に対して金を払ったと。

 何度も請求されて困っていると。

 「あの女は許せない。だが、自分は何もできない。妻と子供がいる」と悔しさをにじませていた。

 俺はその男から話しを聞き、「大丈夫、悪い事をしていると、直に天罰が下りますよ」と慰めた。



 俺は聖女様の悪女っぷりを観察しながらも。

 ほのかに恋心を抱いていた。


 自分の中にあった「悪女好き」体質が久しぶりに復活したのかもしれない。

 

 だが、そんな聖女様に婚約破棄されたことを思い出すと、心は沈んだ。

 適わぬ恋に対して苦々しい思いを抱いていた。

 

 気付くと「ぐぬぬ」と唇を噛んでいた。

 噛みすぎて、口の中に血が流れる。


 そうして物思いに耽る。



 恋の苦味と、血の苦味は似ている。

 苦しい思で胸を焦がすのと、血の鉄の様な味を味わうのは似ている。


 俺は恋で苦しくなると血を飲むようにしている。

 恋で苦味を味わった分だけ血を飲んで。

 口の中を血で一杯にして、恋の痛みを中和するんだ。


 でも、自分の血じゃいけないんだ。

 それだと満足できないし、心が落ち着かない。


 恋をした相手の血を飲まなければいけない。

 そうじゃないと心が収まらないんだ。


 苦味を引きずっている分だけ恋が続く。

 だから、すっきりと失恋するためには相手の血が必要だ。

 

 聖女様の血が。





◇3





 調査から三日後。

 王城の一室。


 俺は聖女様を呼び出していた。

 婚約破棄の手続きの件で話があるといったのだ。


 この部屋は廊下の突き当たりになっており、窓も常に暗幕が降ろされている。

 外から見られる心配はないし、近くに誰か来れば足音で分かる。



 そんな大衆の死角空間に、今俺は一人の少女といる。

 そう、目の前には俺が恋した女の子、聖女様。

 見た目は清い聖女そのものだけど、中身はどす黒い女の子。


 聖女様は天使の様に微笑んだまま口を開く。


「婚約破棄の件、納得してくれましたか?」

「あぁ、勿論」

 

 俺は返事をしながらも、悪魔マルルから貰ったチート能力を発動する。



――「心理読解マインドリーディング 」――

  ※相手の心を読むことができる。



「聖女様の事は好きだけど、君が婚約破棄したいなら仕方が無いよ」

「ごめんなさい。私はやはり皆の聖女であり続けたいのです」

(そんなわけないけどね。あんたから十分金を絞りとったのよ。

 だから用無し。

 それに新しく良い金づるができたの。王様っていうね金づるがね)


 おやおや、顔は天使スマイルなのに、さっそく心の中で毒をはいたようだ。

 さすが悪徳ポイント三桁といったところか。

 その悪女っぷりに心が刺激される。


「それで話なんだけど・・・」


 俺はそこで間をためる。


「はい・・・何でしょうか?」

(早く言ってくれないかな。私ちょー忙しいんだから。

 今日は三人の公爵と会って色々しなくちゃいけないの。

 私ってモテモテなんですから。一人では満足できないの)


 聖女様はおさかんのようだ。

 見た目からは想像できない女の子だ。


「それで何だけど、聖女様。

 今からいう事をよく聞いて欲しいんだ」


「はい」

(早くしてよね。そうやって引き伸ばされるのは嫌いなの。

 アホな民衆の相手をしてる時の気分。

 ああいう会話って何故か記憶に残るのよね)


 これからの事を聖女様にはよく記憶してもらいたい。



「聖女様」

「はい」

(何?何?)


 俺は聖女様の瞳をみる。

 彼女は慈愛に溢れた雰囲気をかもし出している。


(もう、早くして。

 私がいくら魅力的だからって、そんなに見つめないでよ)


 俺と聖女様の視線が合い、一気に言葉を告げる。




「君みたいにとんでもなく性格が悪くて醜い子とは婚約破棄できてよかったよ。

 よくもまぁ、平気な顔してヘドロにまみれたような行動が出来たものだよ。

 君、客観的に自分を見る事できるのかな?」


「・・・」

(・・・・)


 ポカーンとする聖女様。

 口を開けたまま、表情が固まっている。

 彼女だけ時が止まっているようだ。


 俺は追撃する。

 隙を与えない。弱ったところを一気に叩くのが戦略の基本だ。

 決してこれは弱いものいじめではない。


「君がやってる事は全て知ってるんだ。

 何度も不倫をして貴族からお金を巻き上げているよね。

 それに教会の予算も私的流用してる。

 武器や麻薬まで密売してるとはね。

 よくも、まぁ、聖女様がそんな事ができたもん。あっぱれだよ」


 聖女様は、目をパチパチさせる。


「え・・・・その・・・なんて」

(え、どういう事。何々?

 よく分かんない。私分かんない。

 なんで私がジュリアム公爵に罵倒されてるの。

 それに不倫の事とか、教会予算の事とか、なんで知ってるの?

 なんで? 

 ばれないようにやったのに。

 これまでばれてこなかったのに。

 そう、ばれてこなかったんだから、このままとぼければいいわ)


 彼女は行儀よく苦笑いする。


「ははは。面白い冗談ですね。

 ジュリアム公爵、私何のことかよくわかりませんわ。

 何かのゲームでしょうか?私は知りませんが。

 貴族様の中でそのような遊びが流行っているのでしょうか?」

(そうよ。ここは適当に流して、情報を探らないと。

 よくよく考えると、いきなり罵倒されてすっごくムカついてきたけど。

 我慢我慢)


「ふふふ、ふはははははははは!!!!

 おとなしい顔してとぼけても無駄だよ。

 教会予算の流用については、お金の流れを調べると分かるんだから。

 それに麻薬は武器の密売ルートは調べつくしている。

 不倫の件も何人もの被害者とは話がついているので、君の事を証明できるよ」


 一部は嘘だ。調べれば出来るだろうがそんな時間はなかった。

 だが、教会予算の流用は確認済だし、不倫被害者も特定できた。

 僕が婚約破棄されたといって聖女様の事を聞くと、苦々しい話を聞かせてくれた。


 俺は治安維持関係者じゃない。

 だから捜査権も起訴権もない。厳密な証拠は求めない。

 

 でも、聖女様の心が読める。

 だからそれで判定する。


「ジュリアム公爵が何いってるか分かりませんわ。

 何かの間違いではないでしょうか?」

(やばい、やばい!

 どうしよう、どうしよう、どうしよう!

 全部ばれちゃってるよ。ヤバイ!どうしよう!

 私のやったこと全てばれちゃってる。

 終わり。ジ・エンド。

 私牢屋にに送られちゃうのかな。。

 そこで、怖いお姉さま方にボコられちゃうかも。

 それに不倫が王様にばれたらまずい。どうしよう。どうしょう。

 でも、そうだ。この事知ってるのはジュリアム公爵だけなんだから、彼をなんとかすれば)


 確定だな。この女。ビッチ。

 こいつはマルルが示したとおりの悪行を侵していたようだ。 

 これで確認作業は終わりだ。


 もうこの女に情けをかける必要は無い。


「聖女様。いや、ナターシャと言った方がいいのかな。

 君の事は本当に好きだったんだ。愛していたんだ。

 でも、これでお別れだね」


「え、どういう意味?」

(なんかいきなり告白された。

 え、なんでどうして? 

 まさか、これって脅迫告白。

 婚約破棄を取り消さないと犯罪ばらすぞって脅し。

 時々社交界で話に聞くあれ。そうなの?)


 聖女様は随分頭がお花畑なようだ。

 今だに社交界がどうこういっている。

 その精神は凄いな。


「聖女様。君は終わりだよ。

 自分が行った行動を悔いて懺悔してはどうかな?」


「よく分かりませんわ。

 ですが、ジュリアム公爵が私の事を好きなのでしょう?

 私はその思いに胸を打たれました。

 前回の婚約破棄は取り下げます。

 ジュリアム公爵、私達は上手くいくと思うのです」


(そうよ。よく分かんないけど。

 ジュリアム公爵が私の事好きなら、悪い事もずっと黙っていてくれるかもしれない。

 それしかないかも。

 私の魅力ならそれが出来るかもしれない。

 いいえ、そうじゃない、やらないと私がヤバイ。とってもまずい)


 つくづく勘違い女だな。

 心を読んでいるとだんだんイライラしてきた。

 だが、その刺激が俺の恋心を刺激し、高めもする。


 聖女様は俺に近づいてきて、さっと手をとる。

 指を絡ませてきて、瞳をうるうるさせて、上目遣いで俺を見てくる。

 唇を尖らして、精一杯魅力的な顔をしているようだ。


「ジュリアム公爵。

 あなたには神がついています。

 私には、先程の神の思し召しがあったのです。

 あなたと一緒に人生を歩めと。神がおっしゃっておりました。

 神の下、共に人生を歩みましょう」

(届け!私の女子力!!!!!)


 残念だな。君の女子力は低い。


 

 ここからは俺のターンだ!


 君への恋心を昇華する。

 苦しい恋心の疼きを収めるためには、聖女様の血と苦しみが必要なのだ。


 俺は服の中からナイフを取り出す。

 キラリと光輝く刃。


「君にプレゼントだ」


 聖女様は、ナイフを見て僅かに上体を引く。


「え。それは・・・いりませんかと」

(何するの?ちょ、何、危ないじゃん。

 そんなもの王城に持ってきちゃダメだよ)


「君にふさわしい物だよ。

 それにこれからの行為に必須のものなんだ」

「え、ジュリアム公爵どうしたのでしょうか?」

(そうよ、なによ。

 なんでナイフを私に向けてるのよ。

 ちょ、危ないって)


 聖女様が握っている俺の手。

 それを強引に上に持っていき、壁に押し付ける。


 有名な壁ドンポーズの出来上がり。


「何するのですか、い、痛い、やめてください」

(なななな、何?ちょっと怖いんだけど。

 ジュリアム君、以外に積極的でオレオレ系。

 でも、これ。壁ドンだけどこれじゃない。これじゃないよ)


 今だに乙女心の聖女様。

 そんな彼女の手の平に向けてナイフを深く突き刺す。

 

 ドバっと聖女様の血が吹き飛ぶ。


「きゃあああああああ。い、痛い、あああああああ」

(きゃあああああああああああ。痛い、痛い、痛い。

 なんか刺さったああああ)


 ナイフが彼女の手を貫通し、壁に刺さる。

 それが彼女を壁に固定する。


 聖女様の血と苦しみが俺の心を満たす。 




 涙を流し叫ぶ聖女様を背に、鞄から瓶を取り出す。


 それからとある器具を取り出し、彼女の口にはめ込む。

 それは口を開けたまま固定する医療用器具。

 その名も「アングルワイダー」。

 

 何故かこの世界にもあった。


「うううううううう」

(ちょ、何するの?何これ、しゃべれない。

 え、口が動かないんだけど。どうなってんの?)


「あまりもごもごしない方がいいよ。

 そうしていると涎が出てはしたないと思うからね。

 聖女様には似合わないんじゃないかな」


「ううううううううううう」

(何涼しい顔で助言してるのよ。

 私に何するんの。やめてよ。何よこれ)


「聖女様に教えてあげよう。

 これは、『アングルワイダー』と言うんだよ。

 歯医者や特殊な趣味の人達が使うんだ。

 見たことあるかもしれないけど。滅菌済だから安心してくれていいよ」


「ううううううううう」

(何、言ってのよ、ジュリアム君は。

 ていうか、なんなの。

 何、変態なの?へんなことしたいの?

 そうなの、歯医者さんごっこがしたいの?)


「このアングルワイダーは優れものでね。

 俺が手を離しても固定したままなんだ。

 それじゃ、ちょっと待っててね」


 俺は厚手の手袋をし鞄から出した瓶をシャカシャカ振る、

 すると、瓶の中では黒いものが「さっ、さっ」と這い回る音がする。

 どうやら、俺が少年心を取り戻して採取したゴキブリ君は元気一杯のようだ。

 

 慎重に瓶のふたを外し、ゴキブリを摘み上げる。

 ゴキブリはわさわさ動いているが、俺の手からは離れない。


 聖女様は、顔の前、数10cmにゴキブリを出されたためか、悲鳴を上げる。

 だがそれは、 アングルワイダーのためにぐぐもっている。


「うううううううう、うううううううう」

(きゃああああああああああああ。

 ちょ、ちょ、なんてもの取り出すのよー。

 きも、きもい。や、こっちにゴキブリ近づけないでよ。

 早く離してよ)


 彼女は足をバタバタ動かして逃げようとするが。

 ナイフで手を貫かれて固定されているため動けない。


「そんなに喜ばないでほしいな、聖女様。

 愛する君へのプレゼントはこれだけじゃないんだ。

 きっともっと君を喜ばせてあげるよ」


 俺はもう一つの瓶を鞄から取り出す。

 そして再びバーテンダーの様にシャカシャカ振る。

 すると今度は、瓶がドコドコ揺れる。


 どうやら、こちらのネズミさんも元気一杯のようだね。

 

 俺はネズミの首根っこをつかみ瓶から取り出す。

 ネズミはしっぽをしゅしゅっと動かしている。


「うううううううう、ううううううううううう」

(や、やめてよ。

 ね、ねずみ、ねずみ嫌いなのよ。

 やめてよ。絵に描いたネズミは好きだけど、リアルのは嫌なの。

 全然楽しくないよ)


 再びバタバタ足を動き出す彼女。

 彼女の右手はナイフで壁に固定されているが、彼女の左手はフリーだ。

 その左手で俺に牽制するが、所詮は女の非力な猫パンチ。

 

 ドス。

 ジュリアム公爵へのダメージは0。


「聖女様。そんなにはしゃがないで欲しいな。

 ボディランゲージで嬉しさを表現してくれのは俺にとっては良い事だけど。 

 そこまで喜んでくれると照れくさいよ」


「ううううう、うううううう」

(馬鹿。何言ってるのよ。

 離せっての。

 これのどこか嬉しがってるのよ。

 わわわわー、ゴキブリとネズミ近づけないでよ。

 うわぁ、ゴキブリが足をわさわさ動かしだした)


「聖女様、二匹に夢中になってるとこ悪いけど。

 アメリカのアニメ「トムとジェリー」って知ってるかな?

 猫とネズミが追いかけっこをする話なんだ。

 俺はあれが好きでね。聖女様も好きだとうれしいな」


 「うんうん」と頭を前後にふる彼女。


(え、何。アメリカって何。

 それにアニメって。トムがどうしたって?

 なんでもいいから。私もちょー好きだから、助けて。

 早くこの変な危惧はずして。お願いだから)


「今から君の体内で、トムとジェリーを再現するんだ。

 まぁ、君には何の事か分からないだろうけど。

 簡単に言うと、聖女様の体の中で追いかけっこするんだよ。

 ゴキブリとネズミがね」


「ううう?」

(え?今なんていった?

 どこでおいかけっこするって?)


「君の体内が丈夫な事を祈るよ。

 それでだけど、ゴキブリをまずは聖女様の口の中に離して、それをネズミが追っていくんだ。

 楽しそうだろう?

 聖女様の体内でトムとジェリーが駆け回るんだ。

 随分愉快な事になると思うよ。ふふふ、はははははああああ!」


「ううううううう。うううううううう」

(やめて、やめてよ、そんなこと。

 全然楽しくないからー。早く、これは外して。

 変な笑い方しないでよー。

 うわああああ、わぁ!

 なんか涎がたまってきた、きたない。

 でも、飲み込めない。

 うおお!顎からたれてるー、うわー、ばっちい)


「涎までたらして。そんなに待ちきれないんだね」


「うううううう、うううううう」

(違う、違う、ちょ。

 ゴキブリ、私の口に近づけないでよ。

 うわぁ!近くでみると足とかちょーゲジゲジしてるし、変なヒゲがビンビンしてる。

 ちょーきもいんだけど)


「じゃあ、いれるよ。

 ゴキブリのゴキー君も、動きたくてムズムズしてるみたいだから。

 ほら、足がピクピク動いているだろ。興奮してるみたいだ」


「ううううううう、ううううううう」

(お願い、お願い、ジュリアム公爵。私にひどい事しないでよ。

 その、ピクピクゴキブリ近づけないで。

 げっ!うわああ、今ゴキブリから変な液体でた)


「聖女様は知ってるかもしれないけど、ゴキブリはじめじめして暗いところが大好きな冒険者でね。 きっと聖女様の口の中に入ったら、体内の深くまで探検すると思うんだ。

 そこで卵でも生むかもね。

 そしたら聖女様は子持ちという事になるのかな。

 好きな人がたくさんいる聖女様には、大家族が似合うかもね」


「ううううううう、うううううううう」

(げええええ。うぐああああ。

 何話してくれてるのよ。想像しちゃったじゃない。

 いやー。

 私のお腹の中でゴキブリが孵化して、わんさかうねうね動いて、腹を突き破って出てくるかも。

 げっ、げっ、ヤバイ、むっちゃ気持ち悪い。吐き気がする)


「では聖女様。ゴキ君をもうそろそろスタートさせるよ。

 体内で楽しんでくれるといいけど」

「うううううううう」

(やめて、いいい、無理無理無理。

 絶対にそんな事できないから。

 人間そんな風にはできてないよー)


 俺はゴキブリを聖女様の舌の上にちょこんと乗せるが、指は離さない。

 ゴキ君は、足をバタバタ動かして彼女の舌の上でウォーキングマシン状態だ。

 一流アスリートも真っ青の、超高速足さばき。


 それを受けてか、聖女様の舌が小刻みに震える。


「ううううううううう」

(げええええええええ、気持ちわるー。

 うわあああ、小さくて硬い感触が舌にピクピクくる。

 しかも苦い)


「では、レディー」

「うううううう」

(待って、タンマ、タンマ。

 離しちゃだめ。絶対に離さないでよ)


「GO!」


 俺がゴキ君から指を離すと、さっとすばやく動き彼女の口内で動き回る。


「うううううう、うううううう」

(うげええええええ。

 きも、うわぁ、口の中を動き回ってる。げえ。

 うお、歯の上の方にきた。げっ。

 次は、ほっぺに。うぐわぁ。

 早く追い出さなきゃ。ぺっ、ぺっ)


 彼女は舌を動かして必死にゴキブリを追い出そうとしているが、あまり器用ではないようだ。

 外から見ても、彼女の頬がゴキブリの大きさに膨らむので、その動きがよく分かる。

 すばやく動き回っている。元気一杯だ。


 俺は続いて彼女の口にネズミを持ってくる。

 すると、彼女の口の中でゴキブリの動きがぴたっととまる。

 ネズミとゴキブリがにらみ合っているのだ。


 一触即発の状態。


「ううううううううう、ううううううう」

(もう、やめてーーーー。

 お願い、もうだめ。気持ち悪くて吐きそう。

 口の中で小さな刺激が一杯するんだもん。

 てっ、なにそのネズミ!

 ちょっと大きいんじゃない。

 のど詰まっちゃうよ。それは無理)


「大丈夫だよ、聖女様。

 俺は人の内臓の大きさを考慮してネズミをセレクトしてるから。

 詰まる事はないと約束しよう。

 きっと、このネズミのトムはゴキブリのジェリーを捕まえてくれるさ」

(無理無理、そんなに大きいの入らない)


「では、レディー」

「ううううううううう」

(だめだめ。無理無理。

 ほんと、それは無理だから。

 ネズミは無理だって)


「GO!」


 俺は続いてネズミを口の中に放す。

 その瞬間、ゴキブリが脱兎の如く彼女の奥、喉に向かって走り出す。

 それを追いかけるネズミ。

  

 

―さぁ、追いかけっこの始まりだ!―



「ううううううううううう」

(うごうご。息が、やばい。詰まる。

 息が出来ない。ネズミの毛が。のどがごわごわする。

 うごおごおご)


 聖女様が口から涎を流し、がくがくと震える。

 彼女の喉ぼとけが、ネズミの大きさに膨らみ、それが下に移動していく。


 ゴックン!


 どうやら食道は通過したようだ。

 体内では楽しい追いかけっこが進んでいるのか、彼女の口から時折変な音がする。

 

「ううううううううう」

(うが・・・・・あああ・・・・くが)


「うううううううううううう」

(むが・・・・・・ああ・・・・・・・・・・ううんぐあ)



 彼女の意識も混濁してきたようだ。

 もうそろそろ潮時だな。


 俺の体にかかった彼女の血と、耳に入ってきた悲鳴。

 それで十分心は満たされた。

 聖女様に抱いていた恋心は今ピークに達しようとしている。



 それに彼女もこれまでの悪行を悔いたであろう。

 せめてもの情けとして、 このままあの世へとおくってやらないとな。


 俺はもう一本のナイフを取り出し、大きく振りかぶる。


 口から泡を吹き、目が白目をむき、とんでもない表情になっている聖女様。

 その彼女を見ながら。



「さよなら、好きだった人」




 俺はナイフを振り下ろし、聖女様の胸を切り裂く。


 彼女の服ごと皮膚を切り裂き、ドバっと盛大に血が噴出す。 

 まるで噴水の様に。


 彼女の血が全身に俺の全身に降りかかる。


 もう一方の手を切り口の中ドカっと突っ込む。

 指を動かして、彼女の体内の様子をさぐる。


(想像していたけど、体内は暖かいな。

 それで、ええっと、これだな、これ。

 これが心臓だろう。ビクビク震えているから)


 ドクドクと脈打っている聖女様の心臓を手に感じる。

 生暖かくてイキが良い。


 それを左手で掴みながら、いっきに引き抜く。


 ドバっと再び血が舞う。


 俺の左手には聖女様の心臓がしっかりと握られていた。

 ピクピク動く心臓。

 管の様なところから、ピューっと時々血液が飛び出てくる。


 いつ見ても心臓は奇麗だな。

 リズムよく動くそれはまるで機械のようだ。




 俺は数秒心臓を観察してから。

 それまでとは違う方向、つまり聖女様がいない方向に手を突き出して叫ぶ。


「マルル、出て来い。もう大丈夫だ」


 すると、部屋の中の箪笥が開き。

 その中からマルルが、何故かでんぐり返ししてコテっと登場する。


「ほら、マルル。契約の捧げものだ。これでいいんだろ?」


 それまで黙っていたマルルが。

 パカっと顔を上げて笑顔になる。

 大きく口元を緩めてとても嬉しそうだ。


「わーい、わーい。

 やっと食べられるよー。

 随分待ったもんねー、お腹ぺっこぺこ。

 悪徳ポイントも一杯つまってそう」


「ほらよ」


 マルルに向かって心臓を投げると、それをパクっと口で受け止める彼女。

 まるでフリスビーを加える犬の様だ。 



 ガブガブガブ。



 ガブガブガブ。



 ガブガブガブ。



 マルルはケーキでも食べるように、美味しそうに心臓を食べている。

 俺も良い事ができて気分が良いが、少し心の中にもやもやとしている気持ちがあった。

 それが何かは分からないが、心が落ち着かない。


 食べていている最中に、マルルが俺に顔を向ける。

 俺の内面を観察するようにジリジリと見ている。


「どうした?マルル」

「シン、恋心が残ってるねー。

 それはいけないんだよー。

 苦味は全部取り除かないといけないの」


 プカプカと浮かんで、血まみれになった顔で近づいてくるマルル。

 赤い髪と血が妙にマッチしている。


「シン。ほら、口をあけて」

「こうか?」


 俺がマルルの指示に従うと、いきなりキスされる。

 

 ????


(なんだ?なんだ?何が起こったんだ?)


 口移して、何か苦味があるものを移されているようだ。

 それは馴染みのある味で、血だ!

 

 先程までマルルが食べていた心臓の血、聖女様の血を口移しで流されているのだ。


 鉄の味が口の中に、喉に、体内に広がっていく。


 だが、なぜだろう。

 その度に、心がすっきりとしていく。

 聖女様に抱いていた恋心がすっかりと霧散していくようだ。

 

 彼女の苦い血を飲む事で、恋の苦味が解けていく。


 マルルが口を離す。


「シン。どうだった?全部消えた?」


 いつのまにか赤目になっていたマルルの瞳。


 その言葉から、どうやら彼女は俺のために恋心を取り除いてくれたようだ。


「あぁ、すっきりだ。

 でも、こういうのはいきなりしないで欲しい」


「分かってるよー。

 でもシン、恥ずかしがりやだから、口で言ったらしなかったでしょ」

「うるさい。そんなこと分からない」


「シンがプリプリおこってもしらなーい。

 私、悪徳ポイント一杯食べて元気一杯だから」



 俺は元気よく飛び回るマルルから視線を外し。

 ついさっきまで聖女様だった物を見る。

 

 今では血まみれで、胸が切り裂かれているただの置物。

 人だった頃のエネルギーや、聖女様らしさは既に失われていた。


 (人間、死ぬと随分味気ないものになるんだな・・・

 それに、もう彼女には何も抱かない。

 血を飲んだ事で、完全に恋心を失ったようだ)


 死体を見て、俺は少し感傷的になる。




 するとマルルが、口を赤く染めたままこちらを見ている事に気づく。

 マルルはエネルギーを取り戻したのか、目は爛々と輝いている。


「マルル。後始末を頼む」


「まかせてちょーだい。

 お腹いっぱい。いっぱい。いっぱい。

 だから動くー、動きたーい。バグバグバグ」


 マルルが聖女様に飛びつき、そっと頭に触れる。

 すると聖女様の傷と服が元通りに戻っていく。

 まるでこれまで何も無かったかのように。

 この空き教室に来たときの聖女様の姿に戻っていく。


(事前に聞いていたけど、凄いな、マルルの魔法は。

 この魔法のお陰で面倒な事にならずに済むのは感謝だ)


「マルル、念のため確認だ。

 その魔法で元通りにすると、周りの人には本当にばれないんだろう?

 俺が殺した事が」

「そうだよー。 

 彼女は死んだけど、周りの人から見たら、前の彼女と同じ反応をするの。

 何を聞かれても前と同じ反応だから、誰も疑わない。

 民衆から慕われる聖女様のままなの。

 だから絶対に分からないんだー」


「要は、哲学的ゾンビみたいなものなんだろう。

 彼女自身は死んでいるけど、これまで通り反射だけはする。

 心はないけど、機械の様に動く。だから他には気づかない」

「そうだねー。そんな感じかなー。

 シンってやっぱり頭いいね」


「褒めるなよ。これぐらい誰でも知っている。

 でも、誰も疑わないわけじゃないだろ。

 俺とマルルには彼女が変わった事が分かるわけだから」

「そうだねー。

 二人だけの秘密が一つ増えたね。

 あたしとシンの」


 恥ずかしそうに両手で頭押さえて、ブルブル震えている彼女。


(自分で言って、自分で恥ずかしがるとは・・・)


「それよりマルル。

 そろそろお見送りをするか。

 もうそろそろ聖女様が起きるだろう」

「うん。ばいばいしよう」


 先程まで死んでいた聖女様が、まるで睡眠から起きたように起き上がる。

 彼女は起き上がり、目をこすりながら回りを確認し、俺の姿を捉える。 


 そんな彼女に俺は話しかける。


「やぁ、聖女様。調子はどうですか?」

「え、問題ありませんわ。

 それより、私はどうしてここにいるのでしょうか?」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


「ここに忘れ物を取りに来たんですよ。

 もう見つかったようですから、帰ったほうがいいのでは」

「そうでしたね」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


「俺はまだこの部屋に用があるから、先に帰ってもらって構いません」

「ありがとうございます。

 それでは失礼しますね、ジュリアム公爵」

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


「あぁ、さようなら」



 聖女様だった人は教室を出て行った。


 こうして俺は、婚約破棄してきた聖女様を殺し、心臓を奪い、赤髪の悪魔に捧げた。





 俺はマルルの口が汚れているのが気になった。

 ポケットからハンカチを出し、マルルの口元をごしごし拭いてやる。

 

「わわわわー。何?何?何するの、シン」

「ほら、動くなよ。口が汚れていたんだ。

 奇麗にしていないとダメだろ」


「いいもーん。マルル、悪魔だから気にしなーい。

 奇麗にする必要ないもーん」


 俯きながら地面を蹴るマルル。

 全く分かりやすい寂しがりやだ。


「俺が気にするんだよ。だからちゃんとしろ」

「・・・・・そうだね。今はシンがいるからちゃんとオメカシします」


 マルルは顔を上げて再びプカプカ浮き出した。


「それじゃ、帰るか。

 後、1カ月は大丈夫なんだろ」

「うん。そうみたい。お腹一杯だもん」


「後、宙に浮くな」

「ええー。お腹一杯になったら浮きたいの」


「それじゃ、今日の帰りのアイスは無しだ」

「えええええええ!

 ほしいよー。買ってよー。シンのいじわるー。

 馬鹿シン、馬鹿シン、馬鹿シン」


 ポカポカ肩を叩くマルル。

 

 俺はそんなマルルの相手をしながら部屋を出た。


「なぁ、マルル。マルルって歳はいくつなんだ?」

「女の子に聞いてはいけません」


「俺より年上なのか?」

「どうだろう?多分同じぐらいだと思うよ」


「そうか・・・」


 俺は暫く考えてから。



「それなら結婚するか?」

「・・・・・・」


 マルルは数秒沈黙してから。


「ええええええええ?なんで?」


 絶叫を上げる。


「このまま一緒にいるのならその方が良い。

 それにマルルとは気が合うと思うんだ」

「うーんとね。うーんとね」


 マルルは腕を組んで宙に浮かびながら考える。


「心臓5個くれたら考えてもいいよ」


「そうか。それならすぐだな。

 このゲームには悪い奴がたくさんいるんだ」

「ゲーム?なんの事か分からないけど、ちゃんと5個だよ。

 一個もおまけしないよ」


「ズルはしないよ」

「それなら楽しみにしてるね。

 次はどんな味がする心臓かなー。今から楽しみ」


「任せろ。すぐに捧げてやる」


 そう答えながらも思う。


 一番悪い奴は、悪徳のつまった心臓を求めるマルルかもしれないな。

 そんな彼女と一緒にいたいと思う俺も十分だめだけど。

 















 そうして一年後。

 ジュリアム公爵は無事にマルルに心臓を五個捧げ。


 自称悪魔メイドのマルルと結婚しました。




 








ラブコメです。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、悪魔だから法を犯す方ではない『罪』が家名なんですね。 一年かかって5個渡して結婚とはこれ如何に?一月一個契約で五ヶ月で達成できませんか?OK貰ってからの準備期間?それとも契約以外に…
[良い点] マルルちゃん可愛い 美味しかったんだよかったねー [一言] 誤字? 〉〉それに、マルルの捧げる心臓は相手に恋をしていなければならない  →それに、マルル"に"捧げる心臓は相手に恋をして…
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