7話 囮
自分の仕事や体調の関係から大幅に遅れてしまいました。申し訳ないです。
9月13日追記:見やすいように本文を修正しました。
ゴッ!ガァン!!ゴッゴッ!ドゴッ!!大きな音と振動が響き渡る。
「…それでこれからどうするんですか?」
「どうすると言われても、アレを倒すほかないだろうね」
「えっと…他に方法はないんですか?」
パラケルススの展開した魔法壁を大斧で破壊しようと何度も何度も叩く巨大な魔物を見ながらマリヤは彼に問う。
「他にあるとすればコイツが私たちに興味が尽きてどこかに去るのを待つことだろうね」
「それってどのくらいかかりますか?何となく嫌な予感はしますけど…」
「ああ、『銀斧振い』は目に入ったものは何であろうと叩き潰し破壊したがる。そして中々諦めないから短くて二日、長いと四日間だろう」
「二日でも長すぎですよ…あっ!そういえば!!」
マリヤはパラケルススと話していてあることを思い出す。
「転移石持っていましたよね!お店からこの神殿に来るときみたいにパッと転移して逃げればいいんですよ!!」
「ふ~む…その手があったか。確かにこの秘石を使えば転移で逃げることはできる」
彼女に言われてパラケルススは思い出したように言う。
「それじゃあ早く逃げましょうよ!」
「しかしね、魔法壁を維持しながらの転移のでは安全な場所に移動できるのは一人だけだよ。魔法壁の維持をこの『銀色の魔結晶』で魔力の大半を肩代わりさせているが、それにも限度はある。」
パラケルススは懐から手のひらに収まる位の小さな銀色の結晶を取り出してマリヤに見せながら言う。
「えぇ!何とかならないんですか!?」
「残念だが二人で安全な場所までの転移は無理だ。まぁ~君が諦めてくれれば、私は確実に助かるのだがね…クックク…」
「絶対そんなのわたしは嫌ですからね!?あ…あんな大きな斧で潰されて人生が終わるなんて絶対、絶対嫌ですよ!!」
マリヤは不吉なことをいうパラケルススに猛反対する。
「ククック…冗談だよ君。そこまで慌てることはないだろう?」
「お店から今までの言動で、冗談でもわたしはあまり信用できないのですが」
冗談と言いながら笑っているパラケルススに呆れながらマリヤは言う。
「信用などしなくていいとも。他者から私への信頼などとうの昔にゼロになっているからね」
「…あの~、そんな自信満々に言われても困りますよ」
「それはおいておいて。私に一つ素晴らしい作戦がある」
「え~?…本当ですか?」
信用ゼロのパラケルススが本当に素晴らしい作戦を思いついたのか疑いながらマリヤは彼に聞く。
「ああ、あるとも。だがそれには君の協力が必要だ。成功すれば薬草探しを再開できるし、それに私は『銀斧振い』の素材を回収できる」
「わかりました…今は他に方法も無いみたいですし、あまり信用できませんけどわたしも協力します。…それにしてもそんなにあの大きな怪物の素材が欲しいんですね?」
「ふむ、欲しいとも。あれは貴重な素材になるからね。それで素晴らしい作戦の内容なのだがね…」
「はい。その内容はなんなんですか?」
少しパラケルススに呆れていたが、この状況が何とかなるならと少し期待しながらマリヤは彼の話を聞く。
「な~に簡単なことさ、私が魔法であいつを焼き払う。だから魔法の詠唱が終わるまで君が囮になって引き付けるんだ」
「私が囮ですか!?そんなの無理ですって!絶対に死んじゃいますから!!」
パラケルススの素晴らしい作戦にマリヤは反対する。
「安心したまえ。死ななければ私が何とかしてあげよう。ではそこの瓦礫の陰に転移させるから、そこから大声をあげるなり石を投げるなりしてくれるだけで良い」
反対してくるマリヤを適当にあしらいながら彼は『時渡りの秘石』を取り出して彼女の転移を始める。
「ああー!!ちょっとまま…待って下さいよー!!」
パラケルススに待つように彼女は言うが、あっという間に魔法陣がマリヤの周囲に展開されて転移魔法が発動した。
(もー!ホントにあの人はめちゃくちゃな人だよ)
転移魔法で跳ばされた瓦礫の陰に隠れながらマリヤは内心で思う。
(で…これからどうしようか?)
彼女はそっと瓦礫の陰から自分が今までいた場所を見る。
マリヤが転移する前と同じように『銀斧振い』はパラケルススの展開している魔法壁を砕こうと手にした大斧を何度も何度も叩きつけている。
(あれ?もしかして魔法の壁を壊すのに夢中でわたしが消えたことに気付いていないのかな?)
そうやって見ていたら魔法壁の中にいるパラケルススと目が合う。彼もマリヤの視線に気付いたのか身振り手振りで早く囮になるように指示を彼女にしてきた。
(う~ん…何かいい方法…?あっ!そうだ!!)
少し考えてマリヤはパラケルススから渡されていた物を思い出す。
(確かここに…あったあった!)
護身用にとパラケルススから手渡されていた『深紅色の魔法玉』を取り出す。
(これをあの怪物に投げちゃえば、気を引き付けるどころか倒せちゃうかも!)
マリヤはそう考えてまたそっと瓦礫の陰から『銀斧振いの』様子を窺う。相変わらず巨大な魔物はひたすら魔法壁を壊そうとしている。
(よし!今なら)
彼女はそう思い瓦礫の陰から身を乗り出して『銀斧振い』の背中に目がけて魔法玉を投げる。
「えぇーーーーい!!」
マリヤが投げた魔法玉は『銀斧振い』の背中にぶつかりバキンと音を立てながら割れた。そして魔法玉の欠片が飛び散りながら魔法陣が展開し、その中心から炎が発生した。
(なんかすごい…)
そう彼女が思っている間に、発生した炎はあっという間に広がり始め『銀斧振い』を呑み込んでしまう。それでも魔法の炎はさらに広がり神殿地下の天井まで焦がし、マリヤが立っている場所まで炎は焼き払おうと近づいて来る。
「てっ…!?ええぇーー!こっちまで来てるーーーー!?」
慌ててマリヤは炎に巻き込まれないよに走り出す。
(どうしよう…!あの魔法の玉を投げるんじゃなくて、周りに転がっていた石にしておけばよかったよーー!!)
必死にマリヤは走り続ける、パラケルススを放置して。
最後までありがとうございました。
魔法の描写を文章で表現するのって大変ですね…。
読んでいて誤字や脱字、気になることがありましたらご指摘をお願いします。