世界が壊れる前日の俺
俺の日常が崩壊する前日。俺が何をしていたかを話そう。
昨日は平日なので、いつもの時間に起きて、いつもの時間に家を出て、いつもの時間に学校に行き。
放課後までボーとした後、……毎月のように遅刻指導を受けていた。
「……君は何故学校に来ているんですか?」
職員室に呼び出されて言われた第一声がこれだった。
「遅刻指導じゃねぇのかよ……」
確か遅刻指導で職員室に呼び出されたはずだ。それなのに何故哲学を話題に持ってくるのかが分からなかった。
「……遅刻指導は月に何回遅刻したら引っかかるか知っていますか?」
「十回じゃないっすか?」
「そうです。十回です。では君は今まで何回遅刻指導に引っかかりましたか?」
「先生は今まで買った消しゴムの数を覚えてるんですか?」
気持ちちょっと上から目線で言ってみた。でも、あまりにも上から目線すぎると怒られるので少し上から目線の調整が必要だ。
気持ちだけなので別に下からでも問題は無い。今は先生が椅子に座っていて俺が立っているから俺の方が(目線は)上だ。
「私が今までに買った消しゴムの数と君が遅刻指導に引っかかった回数が同じなのかは知りませんが、これで14回目です」
微妙な数だ。ちなみに俺が買った消しゴムの数は0である。今まで使ってきた消しゴムは親が買ってきて物を使っていたからな。自分で買いに行くのも面倒だし。
「それは多いのか少ないのか分かんないすね」
「私が今までに買った消しゴムの数ではありません」
違うんかーい。
「じゃあ少ないっすね」
そしてこの沈黙である。
「……君は今何年ですか?」
「高2っすね」
「そして今は何月ですか?」
「6月っすね」
「そうです、6月です。つまりですね。去年の8月以外毎月遅刻指導に引っかかっていることになります」
「へー。それは凄いっすね」
て言うか夏休み以外全部じゃねぇの?それ。
「……何故他人事みたいな口調で言うんですか?自分のことですよ」
実際他人事にしか聞こえなかった。仮に「明日君は死んでしまうだろう」と言われても同じ返答しかできない。まぁただ単に言われた言葉を信用してないだけだが。
「君は大学に行くつもりなのですか」
「……まぁそのつもりっすけど」
「この遅刻の量だったら大学行けるかどうか分かりませんよ?」
「大丈夫っすよ。名前書いたら受かる大学行くんで」
「そんな大学はありません」
「俺の名前の何が悪いんですか!?」
「……君の名前の問題ではありません。学力の問題です。そして、遅刻せずに真面目に学校にきてください。……遅刻指導はこれで終わりです」
そしてこのパターンだった。
去年の9月くらいからこれだ。
最初は怒ると怖い怒らなくても怖い生活指導部の先生(皆から怒るハゲと呼ばれている)が俺の遅刻指導をしていたが途中から担任に変わった。
余談だけど俺は怒らないハゲを見たことがない。ハゲは大概キレる。
話しを戻すが多分「あいつを指導するだけ無駄だ」と思われたのだろう。まぁこっちとしては楽でいいが。
「失礼しました」と言い俺は職員室を出て自教室に戻る。今は放課後で部活をやっている生徒くらいしか校舎には居ない。
俺は帰宅部なのでとっとと自教室にある鞄を持ち、家に帰ることにする。
自教室は部活で使われておらず誰も居なかった。
俺は自席に行き、自分の鞄を取り、教室を出て、階段を降り、昇降口に行き、以下略で自分の家の部屋に着いた。本当に何も無いのである。
食事なども済ませ後は寝るだけとなる。
俺はいつも寝る前に新聞を読む。そうしないと今日という一日を生きた気がしないからだ。
新聞に書かれていたことなど一週間もすれば忘れてしまう。3日で充分かもしれない。俺は明日になれば忘れるけど。それでも新聞を読めばその日、自分が生きたことを実感することができる。我ながら頭おかしいとは思う。
今日の記事で一番目を引いたのは自分の住んでいる市で殺人事件が起きたことだ。
6月16日木曜日。地元で殺人事件発生。記憶しよう。明日になれば忘れるけど。
新聞を床に置き、俺はベットの上に横になり目を瞑る。
どうせ。明日もまた、今日みたいな日がくるんだろうと思いながら。