ランスロット、ワイヴァーンとバトるの巻
戦闘描写は楽しいね!
「ありがとうございますっ! 」
先ほどランスロットが助けた少女が、頭を下げてペコペコとお辞儀をしている。
少女もこれまた可愛らしい風貌。
金髪の髪を短いポニーテールに纏め、前髪はアシンメトリーに左に流している。深い緑の瞳と人形のように整った顔、プックリとした唇に雪のように白い肌。
まさに傾国の美少女といったところだろうか。凛々しい顔立ちからクールキャラかとランスロットは想像した。
「いやいや、別にそこまでお礼言われるようなことは」
ランスロットは謙遜しているが、事実彼は人を助けた。それは誇るべき行為であり、感謝されるべきものだ。
ランスロットが世の中に出て初めての善なる行為。彼は少し清々しい気持ちになった。
「あのー、お二人の名前は? 」
少女が名前を尋ねてきた。少女は尋ねる際、若干前のめりになり上目遣いになる。
「ああ、俺はランスロット・アルトリウスでこっちの女の子は、俺のパートナーで一緒に国立アルビオ二ティー学院って学校に入学試験を受けに行くんだがな。俺らの親代わりの奴が、金くれなくてな。まずはモンスターでも狩って、資金集めってところかな」
あ、とランスロットは自分がマシンガンの如く言葉を発していたことに自覚した。謝ろうとしたが、少女は聞こえたらしく別に引かれていなかった。
「私は、イザベル・ドラフニコワって言います。実は私もお二人と同じ学校を受けるんですよ」
青天の空の下、三人は街まで歩くことにした。イザベルはどうやら街で家の人が待っているらしく、一緒には行けないと残念そうに話した。
他愛のない雑談。
時間が過ぎるのは早いというもので、あっという間に街へと到着する。
行き交う人の全てが笑顔に満ち溢れている。そして、イザベルと別れてランスロットとシャルの二人は、資金を調達するためにギルドへと向かった。
暫し歩くと看板を見つけた二人は、ギルドハウスへと足を入れた。
「いらっしゃいな! 」
ハウス内に響く受付嬢の陽気な声。
ランスロットが掲示板に目を通すと、D〜Aまでのモンスターの貼り紙があった。
「見ない顔だけど新しいイェーガーさん? 」
受付嬢は二人にイェーガーと言った。イェーガーというのは、ギルドに所属するモンスターを専門とする狩人のことである。
イェーガーにはランクがあり、下からE〜Aまで。あくまで、それはギルドハウス内を見渡して、ランスロットが読み取った情報に過ぎない。
二人は、カウンターまで歩く。
「いいや、俺たちはまだイェーガーではないです。資金集めがしたいんですよ」
受付嬢は考え込むと、何か閃いたらしくカウンターの奥へと消えてしまった。
数分後、一人の老人と一緒に受付嬢が出てくる。片目を眼帯で隠して真っ白な長いヒゲをたくわえていた。
「ふむ。君たちかね、イェーガー認定試験を受けたいというのは」
ランスロットとシャルの二人は、無意識に冷や汗を流した。老人から感じた風格が異常だったからだ。隻眼の眼光は、全てを貫いてしまうのではないかと思うほどに鋭く、全身から滲み出ている気は相対しただけで膝をついてしまうほど。
寸のところで二人は踏みとどまっている。
「はい。資金集めるために」
「では今から始めるとするかね。ついて来るといい」
老人がそう言うと受付嬢は、奥にある修練場への道を開けた。
道を進んで修練場に入ると、そこに一匹の小型のドラゴンが首に鎖を繋がれていた。
ドラゴンの口から出る唸り声と煙。前脚と翼は一体となっている。ドラゴンの括りとしては下位のワイヴァーンであるが、それでもドラゴンという種はモンスターの中で上位に位置ている。
「久方ぶりだねワイヴァーンを見るのは」
とシャルは呟いた。
ランスロットは初めて見る魔物に若干たじろいでいるが、身体は武者震いというやつで震えていた。
その姿を見て、老人と受付嬢の二人は多少驚いている。そして、老人が手を上げると鎖からワイヴァーンが解放された。
「さあ、お主の力を見させてもらうぞ」
ワイヴァーンは気高い咆哮を放つ。
部屋を穿つ轟音、吹き荒れる風が二人の間を通った。はためく服。
ランスロットはアロンダイトを抜いた。剣身は、まさに燃えようとしているように純粋な赤色。紅蓮。
アロンダイトは僅かに振動していた。
微振動、どういった構造で振動しているのかは分からないが、そのおかげで切れ味は通常の剣より遥かに高い。
シャルは、一歩後ろに下がってランスロットを見守っている。ランスロットの表情はあまり変わらず、ワイヴァーンを見据えていた。
構えた刹那、ランスロットが前傾姿勢を取り、つま先で地面を強く踏みしめて一気に加速させる。
途中で跳躍し、身体を横に倒して何回転も回す。遠心力で剣の威力は跳ね上がる。
そして、ランスロットはワイヴァーンの頭を目掛けて、稲妻の如く振り下ろした。
「ラインハルト剣術一式『天ノ円剣』」
それと同時に、この剣『アロンダイト』が魔剣と言われた理由が判明した。
部屋に響く風を斬る甲高い轟音。
切っ先がワイヴァーンへ到達する前に、その顔を切り裂いたのだ。
そう、アロンダイトの能力は斬撃を飛ばすこと。どのくらい飛ぶのかは分からないが、少なくとも斬れ味は直接斬るのと変わらないだろう。
しかし、腐ってもドラゴンの端くれであるワイヴァーンの皮膚は硬くアロンダイトの斬撃でも顔の半分を失うくらいだった。
顔を半分失っても、まだ存命のワイヴァーン。力一杯の攻撃を試みるが、全てランスロットに避けられてしまう。業を煮やしたワイヴァーンは、突進して来る。
脚の爪が地面を抉り、口を開いて喰らおうとしていた。
ランスロットに焦りの色は全く見えず、剣を逆手に持ち替え、ワイヴァーンの動きに合わせて、ランスロットも走っている。
そして、ワイヴァーンの顎がランスロットを捉えようとした時だった。
ランスロットはスクリュー回転のように飛びながら突っ込み、アロンダイトの斬撃を首元に食らわせた。
全てが終わって、ランスロットはもう一度ワイヴァーンの方を見る。
胴と首が切り離された死体。首の断面から溢れ出している血液が、水たまりを成していた。
「坊主……お主一体どこでその戦い方を身に付けた……」
老人と受付嬢は呆然と新たなイェーガーの誕生を目にし、真紅に染まった少年は同じく紅蓮の刃を携えて、その場に黄昏ていたのだった。