旅立ちにはトラブルがつきもの
「どういうわけだよ」
ランスロットは、頬杖をつきながら言った。シャルも目を丸くして驚いている。普通なら不細工顏になるのだが、その表情でさえも絵になるのではないかと疑うほどに綺麗だった。
「いやさ、ほらランスロットはもう十五歳じゃん? でシャルもまだ十五歳くらいだし……ね。レッツ青春! みたいな……? 」
ランスロットは呆れて物も言えず、シャルは対照的に太陽のような眩い笑みで喜んでいる。
そして終いには、入学届けなる物を取り出すヴィヴィアン。手際よすぎるだろ……とランスロットは顔を引き釣らせていた。
「キャラ変わってるぞヴィヴィアン」
「あら別にいいじゃないの。ああ、それと入学試験の願書もパパッと出したから」
ランスロットはもう諦めた。
「それじゃ行ってきます。俺たちが学校行ってる間に死なないでくださいよ」
ランスロットはそう言い捨てて、ヴィヴィアンの家を去った。
道中は無言。シャルは、常にランスロットの前をくるくると回りながら歩いている。
今通っている道は、ランスロットが四年前に駆け抜けた場所。
絶望に打ちひしがれながら走り、お先真っ暗で生きることの意味すら分からなかった。
だが希望も求めていた。
この真っ暗な未来を照らす光が、あるはずだと。結果的に駆け抜けたことは、正解であった。
それのおかげでここまでランスロットは強くなった。第二の母と呼べる人にも会えたのだから。
前方には、美少女が歩いている。
これでランスロットは十分だと思ったが、まだここから幸せが来るのかと思うと笑みを零さずにはいられない。
「シャルロットさん」
「シャルロットさんじゃなくてシャルって呼んで。これからずっと一緒の仲間なんだからっ……! 」
「あ、ああ。そうだねシャル」
二人の歩幅が揃う。
ランスロットが思い出したように、腰に差してある剣を見る。
出発前に渡された剣。
剣名は『アロンダイト』これも前世のランスロットが使っていた剣かと思いきや、これは
ヴィヴィアンの手自ら打ち鍛えた剣らしい。
聖剣なのか? とランスロットは尋ねたが、ヴィヴィアンの返答は 魔剣作っちゃったてへぺろ だった。
「ねぇランスロットってさ。戦争孤児なの? 」
シャルはランスロットの身の上の事を聞いた。彼は渋ったが、これからずっと一緒のパートナーなのだからと重い口を開いた。
「ああ、そうだ。約五年前に起きた戦争で俺は、目の前で両親を斬殺された。親父は即座に殺され、母さんは犯されてから殺された。地獄だった。今でも思い出すと泣きたくなる」
そう言うランスロットは、確かに目が潤んでいる。身体は震え、何も出来なかった無力さに憤りを覚えていた。
「戦争孤児になってからも最悪だった。身寄りもなく天涯孤独の身になった俺は、ありとあらゆる屈辱を味わったんだ」
とランスロットは語った。がしかし、この話をしたからには、この辛気臭い雰囲気になるのが当たり前。
内心、二人はやっちゃった感が拭えない。
「そ、そうなんだ……。わ、私も孤児なんだよね……! 」
シャルが焦って出た言葉。これも暗くなりそうな話題で、ランスロットはこのままではやばいと方向修正へと乗り出す。
「に、似た境遇なんだな」
「「今日は天気がいいですね‼︎ 」」
いきなりの話題。だがピッタリハモったため、笑いがこみ上げた。
二人は森を抜け、街道へと出る。
すると早速トラブルが。
「なあ、嬢ちゃん。随分と良いご身分じゃねぇか。少しでいいからよぉ。金くれや」
道にはランスロットとシャル、絡まれている少女と絡んでいる無法者5人しか居ない。
見ないフリをして通り過ぎることも出来るが、それはランスロットの信条に反する。シャルも前エクスカリバーの所持者だけあって、正義感はランスロットと同じくらい高い。
ゆえに二人は迷わず、少女を助けることを選んだ。
「やあやあ、野蛮人ども。俺たちそこ通りたいんで、どいてくれないか? 」
ランスロットは、笑顔で右手を親し気に振りながら言う。すると男たちは、ゲラゲラと汚く笑い二人に向き直る。
「お前さぁ! 何言ってるか分かってんのかァ? 」
はぁ……とランスロットはため息をついて、目つきを鋭くしドスの効いた低い声で言い放った。
「頭が悪いようだから、分かりやすく言ってやるよ。てめぇら、その子が困ってるだろ。邪魔なんだよ。弱いやつしか相手に出来ねぇのか? 」
その言葉に単細胞脳の男たちは、一瞬にして怒髪天。なまくらな刃物を引き抜くと、ランスロットに向かい走り出した。
シャルも身構えるが、ランスロットが手で制止を掛ける。
無手で構えるランスロット。
「なんだぁ、武器を使わなくても勝てますってか! 」
「その通りだ」
なまくらを振り下ろした男一人が宙を舞った。剣を持っている腕を掴み、相手の勢いを利用して投げ飛ばした。
男は素っ頓狂な声をあげ、気絶し、それを見届けるとランスロットは、前傾姿勢をとる。
神経を足に集中させ、瞬発力を使い大地を蹴った。
ヴィヴィアンの元で修行していただけあって、常人では捉えることなど出来ない速さ。
二人目の腕と顎をそれぞれの手で抑え、タックルをかます。
相手はダンプカーに飛ばされたように空中遊泳を楽しんだ。
残りは目の前の惨状が分からず、無表情。
それに対してランスロットは、僅かながら笑っていた。
三人目と四人目の顔をアイアンクローでがっちりとホールドを決め、膂力に任せ地面へとめり込ませた。
ランスロットが顔を上げ、五人目を片付けようと目をやる。しかし、残りの一人はすでに逃げている。
ランスロットとの距離は約二十メートル。
彼に言わせてみれば、そんな道程は屁でもない。
あっという間に詰めて、気絶させる。
これで終わりかと思いきや、ランスロットは五人を集めて順番に地面へめり込ませた。
手持ちの紙とペンでこう書いた。
私たちは悪い人間です
どうか弄ってください♡
ランスロットは頷くとリーダー格の股間に貼り付ける。
ニッコリと笑い、これでよし! と笑った。
それを見てシャルと少女はこの人を怒らせると、ろくでもないことになると悟った。