ランスロットの前世
戦闘描写は相変わらず難しい
「ラ、ランスロット君……君はまさか……」
物凄い剣幕でヴィヴィアンは、ランスロットに近づいた。彼の両肩を掴み、自分のデコをくっ付けて記憶を読み取る。
戦争の景色、両親が存命していた頃の映像。
更に遡ると前世の記憶も混ざるようになってきた。
ヴィヴィアンは、その記憶を見て絶句する。
見知った顔が写っていたのだ。
ガウェイン、ガラハット、ベディヴェール。そして、懐かしき友。
『シャルロット・ペンドラゴン』
男装した時の名は、アーサー・ペンドラゴン。
そうこれは、湖の騎士を異名に持つランスロットの記憶。
ヴィヴィアンのフルネームは 『ヴィヴィアン・ラインハルト』。彼女直々に教えた剣術がラインハルト剣術。
ヴィヴィアンは記憶の読み取りを終えると、ランスロットから離れて彼のことを真っ直ぐと見つめた。
しかし、いくら前ランスロットの転生者だからと言って、すぐに剣術が使えるわけがない。
現ランスロット自体の剣才が秀でていた。
ヴィヴィアンはすぐに確信する。
この子は、史上最強の剣聖になると。
そして、あの志も持っているため、決して道を間違えることもない。
ヴィヴィアンはあることを決めた。もう誰にも渡すつもりなんかなかったが、これを見てあの志を聞いた。ならあれを扱える技量を否が応でも身につけてもらうと。
「ランスロット君」
「はい! 」
ヴィヴィアンは突然動いた。彼女が放った牙突はランスロットの喉を捉える。
瞬間、ランスロットはしゃがみ込みむせ返り、涙を浮かべた。
「い、いきなりなん……ッですか! 」
怒りに身を任せて少年は、剣を叩き込む。しかし、一発も当たらずストレスが溜まってきていた。
激烈な剣戟。
ヴィヴィアンはただいなす。たまに柄頭でみぞおちを殴ったりしている。
「今の実力はその程度みたいね。ならこっちの底を見せて……あげる」
そう言った瞬間、その場の空気が凍りついた。もしその場のから一歩でも動いたら殺されるんじゃないかといいほどの殺気。
ランスロットの頬には大量の汗。ランスロットの視界に写るヴィヴィアンは、ただ化け物だった。
大蛇のように相手の動きを止める眼光。触れるもの全てを切り裂くのではないかと間違う木製の剣。
一歩進むヴィヴィアン。
死が近づいているような感覚。
美しき死神。
そしてヴィヴィアンは、ランスロットの目の前まで歩く。
「…………これが私の本気……そしてランスロット君が見た今の私は、現役の頃『戦場の死神』と呼ばれた時の私」
彼女は殺気を消し、いつもの雰囲気に戻る。
優しくランスロットを抱き締める。頭を撫でごめんなさいねと。
そして、離れて練習再開。
徹底的に基本を叩き込み、剣術は使わせない。基本を完全にすることで、応用する時にもっと輝く。
そして、ランスロットがヴィヴィアンと出会い、修行を始めてから四年の月日が経った。
「ルァァ‼︎ 」
晴天の空の下、森林の中に響く音は金属音。打ち合うのは、ヴィヴィアンとランスロット。
今年で十六歳になるランスロット。
肩甲骨まで伸びた黒髪を結ってある。170センチを越したと思われる身長。すっきりとした顔つきに、キツすぎないつり目。
普通の男性よりはかっこいいだろう。
強さの面においても飛躍的成長を見せた。
すでにラインハルト剣術はマスターしており剣術を使わずとも、そこそこの腕の立つ者を倒せるくらいに。
「ラインハルト剣術二式『炎牙ノ華』」
ランスロットは、力を貯めるために上半身を捻る。そして貯めた力を一気に開放し、牙突を放つ。しかし、ヴィヴィアンに避けられる。ランスロットはそれも想定内のようで流れ作業で全体を使いタックルを決める。
バランスが崩れたヴィヴィアンは、距離を取ろうとバックステップ。
「まだまだ! 」
深く足を踏み込み、地面を切り裂きながら切り上げた。
避けることができなかったヴィヴィアンは、もろに食らい身体が吹き飛ぶ。
ヴィヴィアンは立ち上がり、ランスロットの前まで歩いて頷きながら言う。
「うん、もういいわね。じゃ……今から行きましょうか! 」
ランスロットは理解できず、え、どこに? としか返すことができなくなっていた。