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剣聖の目覚め

今回は動きの描写があるヨ

「え? 」


 それがランスロットの第一声だった。どう脚色しても、ただの間抜けた生返事にしか聞こえない。

 誰であろうといきなり弟子になれ! と言われたらこういう返事になってしまうのは仕方ないことだ。

 ヴィヴィアンは、紅茶を啜り、茶菓子を子供のように齧りながら返事を待つ。

 たたみかけるようにヴィヴィアンは、口を開いた。


「ランスロット君。君の瞳の奥に宿るモノは何? 」


 ランスロットはその一言で、顔つきが変わる。理想は語るだけでは意味などない。実行するだけの力を手に入れ、行動することに意味がある。

 理想は尊いモノであり、周りの人にも伝染するモノだとよりいっそう良い。


「僕は、力が欲しい。もう、僕のような人を生み出したくない。戦争をこの世界からなくしてやるんだ……! 」


 気づけば少年の目には涙が浮かんでいる。彼は悔しさに泣いていた。自分の無力さに嘆いていた。

  だが瞳の奥に潜む決意の炎は決して消えることはない。

 ヴィヴィアンは、それを聞いてクスッと笑った。この少年なら彼女たちの尊い理想を継いでくれると。


「ランスロット君。じゃ、私の弟子になるのね?」


 ランスロットは力強く頷いた。

 ヴィヴィアンが立ち上がり、それに続きランスロットも椅子から立ち上がる。

 こっちこっちとヴィヴィアンは手招きし、ランスロットを玄関に連れてゆく。


「ほら、出て?」


 ヴィヴィアンは外に出るよう促す。しかし、外は水中である。渋るランスロット。


「ほら出た出たー! 」


 ヴィヴィアンが勢いよく、ランスロットの背中を押した。咄嗟にランスロットは、泳ぐ仕草を見せるが全く意味がない。

 なぜなら、水がなかったから。

 水が割れていたのだ。モーセの海割りのように。

 一直線の道の先は、地上へと上がる階段。

 水は意志を持っているかのようだ。二人が通った道を消すかのように、水がうねり埋めてゆく。


 そして、階段を上がると地上に出た。


「ヴィヴィアンさん。何するんですか? 」


 地上は前と少しも変わらない。綺麗な森が広がり、小鳥のさえずりも聞こえる。少年は気づいていなかったが、この環境は集中するのに最高のコンディションだった。


「ちょっと下がっててね」


 そう言いながらヴィヴィアンは剣に手を添える。ランスロットは指示に従い、師匠の言うままに二歩ほど後ろへと下がった。

 ランスロットは斜め後ろからヴィヴィアンの顔を見た。

 先ほどまでの優しい顔はそこになく、顔つきは凛々しくなり、眼光は驚くほどに鋭い。


 ヴィヴィアンは大きく息を吸い、小さく息を吐いた。

 気合いの声と共に剣を抜き放つ。剣身が光を反射し煌めく。その刹那、ランスロットの目では追えない速さで横に一閃。

 そして数秒遅れて数本の木が倒れ、ランスロットはその光景を呆然と見ていた。

 ヴィヴィアンの流麗な剣捌き。動き一つ一つに無駄がなく、かつ余分な力も使っていない。


 するとヴィヴィアンは、地面に剣で何やら円を描き出した。

 複雑な幾何学的紋様。ランスロットにはそれがなんだか全く検討もつかなかった。

 それを描き終わるとヴィヴィアンは、円の中心に剣先を突き立て、何かを流し込む。

 円は段々と青色の光を帯び始め、次の瞬間雷でも落ちたのかと間違うほどの大きな音と雷光が、一帯を包んだ。


 眩しさに目を閉じていたランスロットは、静かに瞼を上げる。

 切り倒したはずの木は消えていて、ランスロットの目の前に現れたのは、四角形の演舞場。かなり大きく、十人ほどが暴れても漏れないくらいの巨大さだった。

 だが、ランスロットの興味を引いたのは演舞場ではなく、ヴィヴィアンが使った得体の知れない魔法? のような物だった。

 ランスロットは目を太陽の輝きの如く目を光らせて、ヴィヴィアンを見つめる。


「ああ、今のはね。練魔術っていうのよ。物質の構成を組み替えて、再構築する術ね。でも原子をそのまま変える事はできないから、便利ではないんだけどね」


 と難しい言葉を並べるヴィヴィアンに対し、ランスロットは理解できずに乾いた笑いを浮かべていた。

 しかし、全く理解できなかったというわけではなく、要は同じ物質の形を変えることができるが別の物質へと変えることはできない、便利なようでそうでもない術で名前は、練魔術というのは理解していた。


「ほら、演舞場に上がって」


 ヴィヴィアンがランスロットに演舞場に上がるよう促す。素直にランスロットは従った。

 それと同時にヴィヴィアン自身も演舞場へと入る。

 二人は向かい合う形で立つ。


「今から何するんですか? 」


「今から素手での戦い方を教える」


 そう言われてランスロットの顔つきがほんの少しだけ凛々しくなる。と言ってもまだ子供だから凛々しいより可愛いの方が勝っている。

 その姿を見て内心ヴィヴィアンは、ガッツポーズをして喜んでいた。


「一回、殴る真似をしてみてくれる? 」


 ランスロットは、言われるがままに腕を振り上げ、空中を殴り、その後も連続で右ストレート左ストレートというリズムで殴り続ける。

 それをジッと見つめるヴィヴィアンは、腕を組み何かを考えていた。

 しかし、腕を組むとヴィヴィアンの豊満な胸が寄せて上げる形式で谷間が形成される。

 礼装を着崩し、多少なり胸元がはだけていた。


「もういいよ、やめて。見てたけど、殴り方がまだ素人ね」


 え、殴り方に素人とかあるの? と言いたげな目線をランスロットはヴィヴィアンに向けた。

 それに応えるように、ヴィヴィアンは殴るポーズをとる。大きく振りかぶるのではなく、腕を縦に畳み猫がパンチを繰り出すようなものだった。威力はそこまでないが、速さはあがり隙も少なくなる。

 ヴィヴィアンの突きは尋常な速さを持っていた。突くたびに空を切る音が、はっきりとランスロットの耳に届く。

 峻烈にそしてより苛烈に。

 狩衣の袖が風に舞う衣のように、不規則になびく。

 

「とまあ、こんな感じで隙を小さくかつ素早く打つことを意識して練習ね」


 ランスロットは言われた通りに練習を始める。


 そして練習を始めて三週間ほど経った頃。


 気合の入った声で練習を積み重ねているランスロット。以前と比べてかなりの成長を見せていた。

 時々蹴りも交ぜての演舞。

 体つきも少し良くなっている。

 ヴィヴィアンは椅子に座り、ランスロットを眺めて顔を赤らめたり、にやけたりしている。


「体術の鍛錬はもう良さそうね」


 ヴィヴィアンは椅子から立ち上がり、二振りの木で作られた剣を持ってきた。

 それを一本受け取るランスロット。

 適当にブンブン振ってみると、何故か妙にしっくりと手に馴染むように感じた。ヴィヴィアンは何もアドバイス等していないのに、形になっている。

 少年は一人黙々と剣を振って、感触を確かめていた。そして、身体が思い出したかのように動き、同時に口も開く。


「ラインハルト剣術一式『天ノ円剣スカイ・サークル・ソード


 ランスロットの身体が空を舞う。空中で横に捻り、遠心力を乗せた力で空を切り裂いた。

 その姿はまるで戦乙女のように凛々しく、荒々しかった。

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