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出会い

 私たちが住まう世界とは、違う世界に、一人の少年がいた。

 少年は、幼い頃に両親を戦争で亡くしていた。そして、どこにも行く当てなどなかった少年は、ただひたすらに、森を歩き続けていた。

 少年が彷徨っている森は、鬱蒼とした感じではなく、疎らに木が生えている。森の上からは、太陽の光が柱のように地面へと、降り注いでいた。

 見つめる先は虚空。何度も気を失っては、起き、腹が減れば木の実や雑草を食べる毎日。

 森の中を彷徨った、何日目かのある日。

 汗や泥の臭いが、全身薄汚れた少年の鼻を突く。

 少年は、嫌ではあったがどうしようもないと、諦めていた。すると、森の奥から何やら水の流れる音が聞こえてきた。

 少年は、水がある! と年齢に似つかわしいはしゃぎっぷりで、その音がする方へと走り出した。

 無我夢中で森の中を駆ける少年。今までの疲れなど走るうちに、感じなくなっていた。

 少年は、枝に進路を阻まれようとも、両腕をかざして走る。

 そのせいで服は更にボロボロに、肌も切れて血が出ていた。


 そして、急に視界が晴れる。


「湖だ……!」


 少年は湖を見つけた。澄み渡る空のように青く、底が見えるほどの透明度。

 湖の中を見やると、無数の魚が元気に泳いでいる。

 少年は、この綺麗さなら飲んでも大丈夫だろうと、両手で水を掬おうとした。

 これで喉の渇きを満たし、身体の汚れを洗えると。

 しかし、掬うことが出来ない。

 少年の手が水に触れる前に、水が意思を持っているかのように逃げてゆく。

 必死になってみるも意味などなかった。

 少年は、疲れ果ててしまった。

 今までの疲れがどっと出てきた。

 興奮状態はとうの昔に終わり、切り傷などの生傷の痛みも戻っている。

 痛みと喉の渇きが、同時に少年を襲う。目の前に水があるのに飲めない苦しさ、急に感じだした切り傷の痛み。その二つが合わさり、喉に切傷があるんじゃないかと、思うくらいの痛みが奔る。

 少年は苦悶の表情を浮かべる。声にならない声を発しながら。

 もう、僕はここで死ぬのか……と少年は思った。結局、自分が産まれた意味は何だったのだろうとふと、頭に浮かぶ。

 物心着いた時から幸せだったのは、たったの数日だけ。そこからは少年にとって地獄だった。

 家族は皆死に絶え、天涯孤独の身になり家を追われた。

 次は自分の番なんだと、少年は自覚していた。

 瞼を閉じ、永遠の眠りへと微睡んだ。



 しかし、彼は目覚めた。

 さっき居た場所ではなかったが。

 少年の目に飛び込んできたのは、水の中から差し込むユラユラと揺れる光。水中を縦横無尽に泳ぐ様々な種類の魚。

 本来ならそんな光景は見ることはできないのだが。家の窓からそんなファンタジー的景色が見えるかなと少年は疑問に思った。

 少年は上半身を起こし、身の回りを確認する。目に入った物は、だいたい初めて見る物ばかり。

 ティーカップやイスなどの日用品までも浮世離れした物。

 そして、台所には一人の女性が居た。

 長い髪をポニーテールにまとめ上げ、可愛らしいリボンで結っている。エプロン姿で鼻歌を陽気に歌い、時々リズム良く歌詞っぽいものを口ずさむ。

 人間かと少年は思ったが、耳を見ると人間ではないことが分かった。

 なぜなら、ツンっと尖っていたのだ。それは童話の中で出てくる妖精の類いにある物。

 女性は、少年が起きたことに気づいたのか振り返り少年が居るところまで歩く。


「気が付いた? 」


 女性は少年の前で前のめりになり言う。

 少年は挨拶を言おうと思ったのだが、あまりに女性が綺麗過ぎて見惚れてしまい声が出なかった。

 均整が取れた顔立ち。見つめるだけで引き込まれそうなスカイブルーの瞳。燃え盛る焔のように艶やかな赤髪。瑞々しい肌。

 一目で分かるこの女性は、美人だと。

 そして、前のめりになっているため彼女の豊満な双丘の谷間も見えている。

 エプロン姿なのもプラスされ、少年の頭をショートさせるには十分だった。

 少年は、顔を真っ赤に染め上げ、シーツを寄せてそれに隠れる。


 その挙動を不思議に思った女性は、自分の姿を見直し谷間が見えていることに気が付いた。


「ごめんごめん、はしたなかったね。着替えてくるよ」


 女性はそう言うと部屋の奥に消えていった。


 数分後少年の前に現れた女性は、さっきとは別の服を着ていた。

 狩衣のような物。袖は半透明で色は、淡い青色。胸もさっきみたいに見えない。

 動きやすさを追求した服。

 腰には剣が差してある。


 少年は、剣を見て血の気が引いたと同時にある光景を思い出す。目の前で起きた悲劇。

 両親が剣で首を刎ねられた景色。血飛沫が飛ぶ。身体が跳ね、徐々に動かなくなる。

 少年は急に叫びだす。

 震えが止まらず、涙は溢れ放題。


 女性は咄嗟に原因が剣であることを見抜き、剣を隠し少年に近づく。

 だが少年の目にはさっき見惚れた女性など写っていなく、剣を持ち狂気の笑みを浮かべる兵士だった。


「く、来るな……近づくな……こ、この人殺し‼︎ お前たちのせいで! 僕のお父さんとお母さんは死んだんだ‼︎ 」


 女性は無言で、その慟哭を聞きながら少年の正面に立つ。

 次の瞬間。

 少年は包まれた、優しさに。少年の鼻腔を刺激する柑橘系の匂いと女性特有の匂い。

 そして、人の温もりを数日振りに思い出し、正気に少年は戻った。


「大丈夫。ここは、安全だから。私でよかったらずっとこうしてあげるから……だから、そんなに思い詰めないで」


 その言葉を聞いて、今まで溜め込んできた憤り、悔しさ、悲しみ、絶望その全てが涙となりて溢れ出した。


 そして、少し時間が経って少年も泣きやんだ。

 少年の心の中に一つの決意が生まれた。

 戦争を止めたい。争いごとをなくしたい。

 緋色の瞳に宿る決意の炎。まだ小さく勢いもないが、決して揺らぐことのない尊い、いや尊ぶべきモノ。


「ねぇ、お姉さんは誰なの? 」


 不意に少年が女性に聞く。

 二人は向かい合わせで椅子に座り、紅茶を啜っている。


「私? 私はヴィヴィアン。ここの泉に住む妖精みたいなモノよ。まあ、妖精と言ってもエルフに近いかな。泉の近くで君が倒れてたからマイホームに連れてきたの」


 へぇ、そうなんだ。と少年は納得した。


「一つ聞きたいんだけど、君はこれからどうする? 行くとこないんでしょ? 」


「うん。もう行くとこない。親も、死んじゃった……」


 ヴィヴィアンはそれを聞き、少年の目の奥にあるソレを見つけた。

 彼女も何か決意したようだった。


「ねぇ、君の名前は? 」


「僕は、ランスロット。

 ランスロット・アルトリウス」


 ランスロットは、そう答えると彼女を見る。ヴィヴィアンは、一息つくと真剣な表情で言った。


「ランスロット・アルトリウス。私の弟子になりなさい……」

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