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あなたが描く魔法の世界  作者: かきな
竜殺しの神話
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三ページ目 魔術師の道具

 村を出てから。と言うか、この世界に来て初めての夜を迎えた。人工的な光がほとんどないこの世界の空は星の海と言う表現が似合うきれいなものだった。


 空一面を埋め尽くす星々。この密度の星空を見せられたら、星座を結ぼうなどと言う考えを起こす人なんていないだろう。この世界に来てよかったと思えてしまう。もちろん、厄介事はごめんだけどね。


 僕らは夜になったので、これ以上の異動は止めておこうと道の端で薪をくべて野宿の準備をしていた。


 毛布の代わりにローブを使う。下が地面なのが心配だったが、背の高い草がクッションの役割をしてくれて、意外にも快適だった。


 そんな感じで一息ついて干し肉をあぶって食べ終えた後、僕は空を見ていたのだ。


「綺麗だなぁ…」


「星が珍しいのか?」


 秋奈はこの世界の人だし見慣れているんだろう。だから、僕の反応はおかしいんだろう。でも、綺麗なものは誰しもが綺麗と思うはずだ。


「秋奈はそう思わないの?」


「確かにきれいではある。だが、あれが魔物に殺された者たちの光だと思うと、素直に綺麗とは受け取れないな」


「えぇっ!?」


 この星が全部!? それだったら僕の言葉は物凄く不謹慎じゃないか!


「なんだ知らなかったのか。…いや、早くに両親を亡くしていれば、知らないのも頷ける。すまなかった」


 いや、僕は早くに亡くなったなんて言ってないんだけど…。いいように解釈してくれたなら助かるから訂正しないでいいかな。


「いや、謝られても困るよ。僕が無知なのは親のせいではないからね」


「そ、そうか。すまない」


 …なるほど。その設定を使えば何かいろいろこの世界の事を聞けるかも。


 それはいい。僕はこの世界の事を全く知らないし、これからいろんな所に行かないといけなくなった時に知識は必要だからね。


「だったら、教えてほしい事があるんだけど」


「むっ、なんだ? 何でも聞いてくれ。これでも私は魔法学校では上位だったのだ」


「さすが、村一と言われるだけあるんだね」


 魔法って言葉が頭に着くってことは、魔法学校以外の学校もあるってことだよね。魔法が常識の世界でも魔術師になる人とそれ以外の人って区切りはあるんだ。こっちで言う科学者みたいなものかな?


「じゃあ、スリーサイ…」


「却下だ」


 言いきる前に僕の言葉はぶった切られた。


「じょ、冗談じゃないか。そ、そんな怒らないでよ」


「冗談ならいいのだ。しかし、冗談に命を掛けるなんて、君は勇敢だな」


 い、命がかかってたんだ…。危ない危ない。


「だったら魔術師の戦い方について聞いてもいいかな? これからドラゴン戦だし、そこを聞いておかないと…僕が巻き込まれそうだし」


 鍋の二の舞は嫌だ。


「わ、私とてそこまでドジではない。戦闘になれば、しっかりとやるさ。…たぶんな」


 最後の言葉で不安が一層増したけど、大丈夫だと信じよう。


「それでだな。戦い方と言うより、先に魔術師の道具の話をしておく」


「道具?」


「うむ。魔術師が使う道具だ」


 そう言って鞄を漁りだす。少しして目的のものを見つけたらしく、秋奈は鞄から手を取り出してきたのは魔道書だった。ただ、僕がもらったものとは外装の紋様を違っていて、全く別のものだった。


「これが魔道書だ」


 パラパラと中身をめくって見せてくれる。なにやら文字が書かれているが、全く分からない。見た事もない文字だった。


「中身は私がこれまでに使った魔法の記録になっている。しかし、この本の中の文字は読み解く事ができん」


「えっ。それじゃあ意味がないんじゃないの?」


 しかし、秋奈は首を横に振る。


「これは魔道書から魔力を通して持ち主の意識に直接流れ込んでくるのだ」


 おお、魔力だって。かっこいいな。


「本を持っていない時には忘れていたような魔法であっても、この魔道書に記録さえされていれば忘れる事はない。むしろ、自然に浮かんでくるのだ」


「うわっ。凄いねそれ」


「これは魔術師として必須だ」


「秋奈なんかはそれがないと魔法をどんどん忘れていきそうだよね」


「ば、馬鹿にするな。私は確かにドジなのかもしれない。しかし、学力的には普通のものより上なのだ。忘れたりなどはしない」


 そう言って魔道書を閉じる。魔道書って読むものじゃなかったのかぁ…。


「しかし、これにも欠点はあるのだ」


 なんだろう。頭が痛くなるのかな? 情報量が尋常じゃないだろうし、処理しきれなくなったりしたり…。


「ある特殊な魔法は記録されないのだ」


「それはどんな魔法なの?」


「その者個人が自力で作り上げた固有魔法や、古い文献などに記録されている古代魔法、その集団に代々受け継がれてきた伝統魔法。あとはその血族だけが使える血統魔法なんかがあるな」


 なんかロマンがあるね。自分しか使えない魔法なんて、とってもかっこいいじゃないか!


「でも、そんなに大事なものなら忘れないから、あまり欠点にはならないね」


「いや、そうでもないぞ」


 秋奈は嬉しそうに説明を続ける。僕が引っかかった事に喜んでいるみたい。


「魔法には詠唱と言うものがある。それは強大な魔法ほど長いのだ。それがそのような特殊な魔法になると覚えきれないものもある」


「ああ、なるほど。いくら強くてもとっさに使えなかったら意味ないもんね」


 思い出しつつ詠唱をしていたら時間がかかるだろう。


「うむ。その点、魔道書に記録されていれば詠唱は難なく完了する。そこで発動に大きく差ができてしまうのだ」


 魔道書については説明がわったのか、手に持っていたそれを地面に置いてまた他のものを鞄から取り出す。


 それは布袋だった。口をひもで縛っているだけの簡素なもの。


「それはなんなの?」


「これは魔石と言うものだ」


 袋の中にはキラキラと光る宝石がたくさん入っていた。どの石も透明感があり、いかにも高そうなものだと思った。


「これ高いの?」


「いや、全くと言っていいほど価値はない」


 驚いて宝石へ向けていた視線を秋奈へと変える。


 この綺麗な宝石が無料? いくらなんでもありえないよ。


「これはそこら辺にある石と大差ないものなのだ。違いと言えば、私が魔力を込めたか否かだけだ」


「は?」


 魔石ってそういうものなのか。てっきり鉱石の種類の一つかと思ったよ。


「私の予備の魔力と言ったところか。魔法を使いすぎると魔力は切れる。それを補充するためのものだと思えばいい」


「へえ」


 マガジンみたいなものなのかな? リロードと考えたら分かりやすい気がする。


「あれ? でも、込めるのは自分の魔力だから意味ないんじゃないの?」


「魔力は毎日回復していくものであるから、問題はないぞ」


 ああ、納得。疲労も回復していくものだし、この世界では同じようなものなんだろう。


「あとはこの指輪くらいのものか」


「指輪? 結婚とかそういうやつ?」


「婚約の指輪とは別のものだが…魔術師同士ではこの指輪をつかうかもしれん」


 右手の薬指にはめている。たしか、精神の安定を高める意味があるんだっけ? ネットサーフィンの時に見た気がする。


「ちなみに、この宝石は本物だぞ?」


「ほんとっ!」


 こっちのには価値があって魔石に価値がないなんてなんかおかしいね。


「この宝石には魔力の伝導率を上げる役目がある。純度の高いものほどその効果があるのだ」


「宝石って削るだけじゃないの?」


「この宝石の場合はちがう。もともと液体の状態で採掘されるのだ。それに魔力を込めて形を作り、指輪として作り上げるのだ」


 液体を採掘…。変な言い回しだけど、宝石だからあっているのかな? どんな感じで埋まっているんだろう…。見てみたい気もする。


「これだけだな」


「杖とかはないの?」


 魔術師の代名詞は、僕の中で杖と箒なんだけど、どっちも出てきてない。


「指輪が流通してからは使われていない。あれも魔力の伝導率を上げるためのものだからな」


 RPGで雑魚相手に魔法使いが杖を振りまわしていたけど、今考えたらおかしな感じなのかもね。


「で、魔術師はどんな風に戦うの?」


「魔法を撃って、相手の攻撃を防いで、再度魔法を撃つ」


「……」


「……」


「それだけっ!?」


「うむ。それだけだ」


 秋奈の言葉を待ってみたけど、これで終わりのようだった。


「ここまで、引っ張っておいてそれはあんまりじゃない?」


「しかし、他にいいようがないのだ。仕方あるまい」


 くべた薪がぱちっと火の粉を飛ばす。そろそろ寝るべきなのかもしれない。


 横を見ると秋奈が『ふあぁ』と小さく欠伸をしていた。


「もう寝た方がいいね」


「うむ。夜も更けてきた。寝るとしようか」


 僕らは焚き火を挟む形で横になる。今日の疲労感を考えたらすぐに夢の世界に行ってしまいそうだ。気温としては春なのかな? それくらい暖かい。


「おやすみ~」


「おやすみ」


 それは魔法の言葉の様に僕の意識を分断した。真っ暗な闇に僕はどこか懐かしい感じを覚えた。





 朝になると自然に意識が戻ってくる。なんか、起きようと意識した時間が近づくと脳から信号が出て、何かが分泌されて、起きようとするらしいというものを聞いた事がある。


 そして、寝起きの頭は働いてくれない。その寝ぼけた頭で必死に考えている事がある。


「(目の前のこれはなんなのだろうか…)」


 視界に入っているものは、二つの山。うん。この表現が一番しっくりくる。そう、二つの山だ。


 …いや、分かってきたぞ。つまり、これは秋奈だ。それは分かった。分かったけど…。


「(何故、僕の正面に居るのだろうか…)」


 昨日寝た時は焚き火の向こう側に居た。それは憶えている。


「ん、んん~」


 秋奈が目を覚ます。当然、正面に居る僕に気が付く。


 寝ぼけた目→徐々に開いてくる目→大きく開ききった目 こんな感じで秋奈の表情は変わっていった。


「ほわぁああああ!」


「おぶぅ!」


 真っ赤になって叫んだ秋奈は、とっさに僕を突き飛ばして、起き上る。僕は近くにあった石に背中をぶつけた。


「す、すまない。と、と言うか何故君は私の横で寝ているのだっ!」


 近くにあったローブを身体に巻くようにして身体を隠す。別に下に服は着ているのだから隠さなくていいと思うけど、やっぱり警戒の現れなんだろうね。


「ま、まあ、正しい反応だと思うけど落ち着いてみてね」


「お、落ち着けるものかっ! この状況をどう説明するつもりなのだ!」


 あわあわと口を震わす。


「そのローブ」


「むっ?」


 身体に巻き付けたローブを指差す。秋奈は警戒を解いていないのか、ローブをちらりと見てすぐに僕に視線を戻す。


「それ、僕のだから」


「……」


 今度はしっかりとローブを見る。ローブと言っても僕のものと秋奈のものでは材質が違っている。パッと見て分かるほどの違いなので、秋奈もすぐに気が付く。


「…あ~。その、なんだ。……私は寝相が悪いのだった」


「どんな寝相だよ!」


 秋奈がローブを離し、僕に返してくる。秋奈の服に煤のような汚れがないので、焚き火をぐるっと回ってこっちに来たのだろうと予測できる。


「す、すまない。本当に悪いと思っている」


 必死に謝る明菜の姿を見ているとくすりと笑ってします。


「な、なんだ。し、失礼な奴だな君は」


「ごめん、ごめん。なんかね、あまりにもかわいすぎて」


 ちょっ、僕はなんてことを口走っているんだっ!? 例え本当の事でも、ダイレクトすぎたー!


「な、ななななn」


 こ、壊れている。秋奈が正常に思考できなくなってる!


「お、落ち着こうよ、秋奈。ほら、息を吸ってー、吐いてー」


「きゅう」


 目を回し倒れる秋奈。たぶんそんな事を言われ慣れていないのだろう。でもね。


「僕だって言いなれてないよ」


 バタッ


 薪の周りに二つの肢体。これがドラゴン討伐をすると言っているのだから、滑稽だろう。


「…がんばろう」


 帰るためじゃなく、今この瞬間を守るために。僕はそう思った。



ご閲覧ありがとうございました 次回もご贔屓にお願いします


今回はこの世界の中で使う道具についての説明となっておりましたので、シナリオ的には全く進んでいません。


あと、私がノリで考えた設定なので矛盾塔が出る可能性も…

その時は、ご指摘お願いします

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