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あなたが描く魔法の世界  作者: かきな
竜殺しの神話
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一ページ目 出発の村

 仰ぎ見る空には薄く長い雲が漂っている。その流れていく雲を眺めていると、穢れた心も洗い流されて清らかになりそうだ。…僕の心は全く穢れていないけどね。そうだよ。僕は生れたままのきれいな心を持っているのさ。…いや、いろいろ知って穢れてきたかも…。むしろ、さっきの穴に落ちた時にローブに土がついちゃったから、それを洗い流してほしい。

 

 それはいいにしても…


「村長、大変だ!」


 僕と彼女は二人して、村の中にあったひときわ大きい建物の中に駆けこんでいった。村の入口からここまでの距離を全力疾走で走ってきたのに、彼女の息は全く乱れていない。なんて体力なんだ。


 ちなみに、さっきはまっていた穴からは穴の中から僕が持ち上げるという、最初に予定していたとおりの方法を足場の高さが変わっちゃったけどそのまま実行して、彼女の手を自由にした。その後は彼女は自力で這い出していった。そしたらすぐに走って行っちゃうもんだから、慌てて追いかけて来ちゃったよ。


 だから僕は彼女と一緒に村の中に入っていったから、門番の人にも何も聞かれなかった。ラッキーだったね。だって、聞かれてもどう答えればいいか分かんないし。


「ドラゴンが…。ドラゴンが山から降りてきたぞ!」


「なんじゃとっ!」


 その建物の中には頭のそれをそっちに持っていかれたのではないかと疑うくらいの立派なひげを蓄えた老人が杖を持って座っていた。その老人が村長であるらしい。建物の中は意外と質素で、この村がそれほど栄えていない事が分かる。田舎なんだろうな。


「ドラゴンは長年山に籠っていたはずなのに、いったいどうして出てきたんじゃろうか…」


 村長の声は震えている。それほど、ドラゴンというものが強大であるのだろう。そりゃそうか。だってドラゴンだもんね。飛行機渡間違うくらいの大きさだったし、普通の人間の相手ではないと思うね。


「このままでは村に来るのも時間の問題か…。そうなるともうここはおしまいじゃ…」


 項垂れる村長の前に立つ彼女は何かを決心したかのように一歩踏み出す。


「私が…行きます」


 その凛とした声が建物に響き、村長が顔を上げる。


「な、何じゃと!」


 僕も驚いている。隣にいるドジな女の子がいきなりドラゴンの退治に行くなんて言い出すんだもん。当然じゃないか。


「た、たしかに、うちの村ではお前が一番の魔術師ではある。じゃが…」


「うえええ! 村一番の魔術師!?」


 驚きの声をあげてしまう。そりゃそうでしょう。目の前の子は見た目は僕と同い年だよ? そんな子が一番って言うのもビックリだし…


「驚くのも無理はないだろう。だが、私はこの村で一番強いのだ。それは嘘ではない」


 そんな事よりも一番びっくりなのは魔法がこの世界では一般化されているってことだよ! ドラゴンがいて、魔法があって…。どこのRPGだよって話ですよ!


 まてよ? じゃあこの世界でなら僕も魔法が使えるようになるんじゃないのか? よし、やってみよう。


「ふんうううう」


「何をしているのだ?」


 彼女が怪訝そうな目で見てくる中、僕は手に力を込めてみた。しかし、何かが起きる気配もなく、生まれたのは僕を包む虚しさだけだった。後悔…。


「とにかく行ってくる。村に来る前にドラゴンを食い止めねばなるまい」


 そう言って彼女は村長の家から出ていった。


 取り残された僕は村長の方を見る。


「あの子ってドラゴンに勝てるほど強いの?」


「いや、流石にドラゴンには勝てんじゃろう。秋奈ちゃんは強いが、この村で考えたらの話じゃ」


 えっ? 勝てないの? それやばいんじゃないのかな。


「じゃあ、何で止めないのさ?」


「国家魔術師を呼ぶとしても、丸二日はかかるのじゃ。そしたらその間にドラゴンがこの村に来てしまう可能性だってあるのじゃ。だから、仕方なく…」


 村長が言いたいのは彼女には時間稼ぎをしてもらおうという事だろう。例え勝てなかったとしても、その国家魔術師が来てくれたら、それでドラゴンの被害はなくなるわけだ。


 そう、一人の女の子を犠牲にすることで村の全員を守る事ができる。それはとても合理的で村長としての判断としては正解と言ってもいい選択である。それは僕が知っている物語でもよくある状況だった。架空の物語として読んでいたその場面。それがもし現実になってしまったら…。僕はその政界であろう選択肢を、やっぱり良しとはできなかった。


「それが正しいという事は分かるけど、納得できるものではないよね」


「……」


 村長は反論しない。僕の棘のある言葉をしっかりと受け止める。


「村長って立場も分かるけど、あなた自身としてはどうなんですか?」


 その言葉に村長も困り顔を浮かべる。一人の人間として、その選択が倫理的にどうなのかの答えはもう出ているはずだ。それでも、村長という立場の拘束力はきつい。預かっているのは村人全員の命なのだから、天秤の重い方を取るしかないのだ。


「まあ、僕はこの村の人間じゃないですから、何やってもあなたの責任にはなりませんよね?」


 村長はハッとして僕の顔を見つめる。おじいさんに見つめられるなんて全く嬉しくないから、早くやめてほしいんだけどそんなこと言える状況でもないよね。一応、シリアスムードが出てるもん。


「な、ならば、頼む。あの娘を…あの娘について行って助けてやってほしい」


 村長は懇願するように僕に頼みこむ。その姿は村長ではなく、娘を思う父親の様だった。いや、そんな歳ではないんだけれども…。


「わかりました! この僕にお任せ下さい」


 こうして、僕はこの世界に来て最初にドラゴン退治というものに手を出してしまった。


「それよりもあんたは誰なんじゃ?」


「い、今はそんなこと些細なことじゃないですかぁ?」


 上擦った声で村長に反論。それもそうじゃな、と納得してくれたので助かった。


「(あぶねえ)」




 何故僕がこんな面倒なことに手を出してしまったのか。理由なんてものは考えるまでもないだろう。あの穴にはまっていた彼女を助けるためだ。同じ穴にはまった以外何の関わりはないけど…。それでも助けたいと思ってしまうのは相手の顔がよかったからなのかな? いや、僕がそんな現金な男だとは思いたくないけど…。理由はどうあれ、今から死にに行きます、と言っている人を放っておくことなんてできないでしょ?


 まぁ、それだけが理由じゃないけど…。


「こういう異世界に迷い込んでしまったみたいな感じの物語では、長生きしているドラゴンというキャラは大抵、攻略の重要な何かを持っているものだからね」


 僕の独り言は周りの喧騒に掻き消されて誰の耳にも届かない。僕は今、村長から渡されたお小遣いを使って酒場で食事をしている。お小遣いは村長が旅の支度の足しにしろと渡してくれたものだ。けど、それよりも腹が減っては戦はできないじゃない? だからこうして今酒場にいるんだ。


 この酒場は昼なのにほどほどに活気があるみたい。みんな仕事の合間のお昼休みなのかな? 


「それにしても、魔法の世界か…。僕は魔法の使い方を知らないから何とも言えないけど、なんだか面白い世界に来てるなぁ」


 呑気なこと考えているけど、元の世界での僕はどんな扱いになっているんだろうか? もしかしたら、意識だけがこっちの世界に来ていてずっと寝ているとかかな? それとも失踪扱い? どちらにしても、高校の出席日数がやばくなるな。家族への心配はいらない。誰もいないから。二年前までは母さんが居たけど、病気で亡くなったし…。


「うおっ。僕とした事が…。危うく鬱になるところだった」


 危ない危ない。こんな一人ぼっちの異世界で鬱になんてなったら大変危ない状況になってしまう。気をしっかり持とう。


「むっ。君はさっきの穴の人じゃないか」


 気を紛らわせようとテーブルの上のおいしそうなにおいの漂う温かいものを口に運んでほころんでいる所にさっきの彼女が来た。


「いや、それはこっちのセリフだと思うな。穴の君は君の方だよ」


「それもそうか。…同席してもいいか?」


 と言って僕の対面の席を差す。別に断る理由はない。むしろお願いします。


「どうぞ、どうぞ」


「うむ、ありがとう」


 席に着いた彼女の目の前に酒場の主人が料理を運ぶ。


「ほいよ、秋奈ちゃん。…おっ、なんだ見た事ねえ顔の奴と一緒なんだな」


 主人は僕の方を見て言っている。僕は下手くそな愛想笑いでやり過ごす。武骨なおじさんキャラは少し苦手なんだ。いい人なんだろうけど、面と向かって立たれるとなかなかきついものがある。


「彼は私の恩人だな。さっき助けられたよ」


 彼女の言葉に主人は噴き出す。


「はっはっは。秋奈ちゃんは何人恩人を作るんだい? もう村人じゃ、恩人を新たに造れないんじゃねーか」


 と言い残して、笑いながら戻っていった。なるほど。彼女は今日だけでなくいつもあんな感じなのか。


「…やっぱりそうなんだね」


「うっ。ま、まあ、人より多い事は認めよう」


 咳払いをして、彼女も目の前の料理に手を付け始める。食べ方はきれいできちんとした作法を知っている人の食べ方だった。


「うむ。そう言えば、自己紹介をしていなかったな。私は榊秋奈だ。魔法は攻撃魔法が一番得意だな。治癒魔法の方はからっきしだ」


 むむ、やっぱり魔法にも種類があるんだね。適当に力を込めればいいってものじゃないのだろう。


「僕の名前は森枝洋樹」


 あれ? そう言えば、ここってエクリジア王国っていかにもな感じの名前の王国なのに、国民の名前は日本人みたいな名前なんだね。あの地図によると、この世界の地形は日本と同じだったし、名前が日本人っぽい事はおかしい事ではないのかな?


「よろしく、洋樹。私の事は秋奈でいいぞ」


「了解、秋奈」


 女の子を下の名前で呼ぶのなんて何年ぶりだろうか。そんな経験は初めてかもしれない。あっ、そう思ったらなんだか涙が出てきた。


「何を泣いておるのだ?」


「いや、何でもないよ。こっちの話だから」


 こっちの世界に来て良かったと思えるなんて…。しかし、元の世界に戻りたいとは思う。だってそこが僕の生まれた世界だから。帰りたいと思うのは必然だ。


 そのために、今はドラゴンを倒してみるしかない。


「少し聞きたい事があったのだ」


「なにかな?」


 秋奈の質問を聞きながらも、手を動かす。温かいうちに食わないと損だからね。


「君はどこから来たのだ? こんな田舎に用がある者など、そうはいないぞ」


 やっぱり田舎だったんだ。通りで村長のところに走っていく間の道に人がたくさんいた記憶がなかったんだね。


 しかし、この質問どう答えるべきなのか…。馬鹿正直に答えてもなぁ。


 う~ん。


「…狙いは私か?」


「へっ?」


 あ、やべ。いきなりだったか間の抜けた声が出ちゃった。しかも、秋奈は真剣な顔してるよ。参ったな。相手が真剣に質問しているのに僕がこんな返答の仕方をしたら不快に思うにきまっている。うわぁ、やってしまった。


 と、自己嫌悪に入っていたのだが、すぐに秋奈は表情を緩めた。


「いや、違うのならいいのだ。忘れてくれ」


「?」


 何の事だかわからないけど、不快にはさせていない様子。良かった。これから、ドラゴン退治に一緒に行くのに気まずくなったらいやだもんね。…って。


「あっ、言い忘れてた。僕も一緒にドラゴン退治について行くことになったから。よろしくね」


「ほう、そうなのか。そうかそうか…。ん?」


 動いていたフォークが止まる。一旦、フォークとナイフを置く。口を拭い、仕切り直すような形で僕の方に向き直る。


「本当なのか!」


 酒場に響く大きな声。周囲にいた人の目がいっせいに集まる。


「こ、声がでかいよ、秋奈」


「っと、すまん」


 こほんと咳払いをする秋奈。一瞬、秋奈の声によって静まり返った酒場だったが、やがてこちらへの注目も薄れていて、その騒々しさを取り戻していく。


「しかし、ドラゴンだぞ。いいのか?」


 真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。その目からはこの質問の意図が分からない。足手まといになるからと言っているのか、それとも僕の身を心配してくれているのか…。


「それはどういう意味かな?」


「ドラゴンは強い。私でも勝てるかどうか分からない相手なのだぞ? そんなものに挑みに行こうと言うのだ。危険なのだぞ」


 やっぱりあの村長の言った通りなのか。そんなに強い相手に全く躊躇いもなく挑みに行こうと思うなんて…。


「そんな相手になんで秋奈は挑もうとするの?」


「それはこの村には私しかいないからだ。当然だろ」


 彼女は迷うことなく切り返す。


「力ある者の義務。としてしまうと堅苦しいが、私は自分の持つ力を皆のために役立てるのが一番だと思っている。例え…」


「命を落としても?」


 そんな感じなんだろう。どうしてそんな風に思えるのか。僕には分からない。自己犠牲を考えるような状況になる世界にはいなかった僕だから、なんとも言えないんだけど…。


「その命で救われる者が居るのなら、それはとても良い事だろう?」


 そういう世界なんだろう、ここは。覚悟していないと、僕も危ない。


「なら僕が君の命を救うためにドラゴン退治のお伴をすることも意味のあることだよね」


「そ、それはだな…」


 僕は力のある者ではないけれど、力のない者だとは思われたくはない。


「反論はなしだよ」


 それに帰るためにも行かないと。僕がかってにそう思っているだけだけど、行動しないよりはましだと思う。


「…仕方あるまい。ならば、先に村の門のところで待っていろ。私もすぐに用意していく」


 諦めて僕の動向を認めてくれた様子の秋奈。どこか少し機嫌がいいように見えるのは気のせいだろうか?


 僕は目の前にある残りわずかな食事を片付けてから立ちあがる。


「了解。そうと決まれば、僕も準備しないとね」


 手ぶらで出るわけにもいかない。僕が持っている者と言えば、知らない女の子が置いて行ったこのローブと地図と水袋だけだし…。どこかで揃えないといけないね。旅に必要なものって何だろうか。

まずは食料と水かな? それよりも寝具が必要だ! 一日で着くわけでもないだろうし、夜冷えてしまって風邪を引いたら大変だし。何より睡眠は娯楽だ! 気持ちよく寝たい。

いや待て。一日で着かないってことは道中暇になるかもしれない。だったらトランプは必須だろう。となると、食料品店の次は玩具屋か。


「なんかわくわくしてきた」


 酒場の出口の前で、両手を天に突き上げる。


「大丈夫なんだろうか?」


 後ろから聞こえてきた心配そうな声を全力で無視して、村の中を歩きだした…。


 ドラゴンとの戦いに備えるため。そして何より、まだ見ぬ新しい柄のトランプのため。




 酒場を出て村の中の道を歩いていると、急に身体が動かなくなった。


 目の前に玩具屋があるにも関わらずだ。


「金縛りとか、マジ勘弁」


「おひさ」


 動かない体の後ろで聞き覚えのある声がした。


「あれ、草原の女の子?」


「当たり」


 僕に現在地を教えてくれたり、ローブとかを置いて行ってくれた子だ。


「さっきはどうもありがとう。おかげで何となく状況が把握できたよ」


「それは良かった」


 淡々とした話し方はあの時と変わらない。けど、やっぱり顔が見えない。この子が居る時にいつもタイミング良く身体が動かないんだよね…。ああ、歯がゆい。


「渡し忘れた物」


 そう言って僕の視界の中に、後ろから伸びてきた手が入ってきた。その手にはなにやら本が握られている。


 本の表紙には装飾が施されており、その奇怪な紋様は魔術を彷彿とさせるものだった。六芒星やらなんやらが描かれている。素人にもそれが何かわかりやすい魔道書だった。


「これを僕に?」


「そう」


 と言われても、僕は魔法が使えない。さっき試したもん。村長のところで。


「無用の長物だと思うよ?」


 貰ったら秋奈にあげようか。僕が持っていても意味はないし。


「違う。これは貴方専用」


「へっ? だって僕は魔法使えないよ?」


「これはあなたが描いた魔法。使い方は時がくれば分かる」


 魔道書は僕の手に収まる。しっかりと握らされて、女の子の手が視界から消える。


「君は何者なの?」


「…天原律。またの名を…」


 身体を縛っていたものがなくなった感覚と共に身体が動くようになる。


 後ろを振り返ると、また霧の様に消えつつある天原律の後ろ姿が見えた。


「調律者」


 天原の姿は完全に消え、声の残響だけが彼女がここにいたことを証明していた。


 彼女が居たはずの空間を見つめ、手に持つ魔道書の感覚を再度確かめた。




 

 僕は門の前で座っていた。


 天原律が消えた後、僕はもやもやした気持ちの中、やっぱり気になっていた玩具屋に入っていった。いろいろ説明を聞いていたんだけれど、どうやらトランプらしいものはこの世界にはないらしい。その代わりとしてあるのが花札だった。これは僕の世界のものとほぼ同一のもの。流石地形が日本列島にそっくりなだけはあるなぁ。


「というか、花札じゃあ道中歩きながらできないじゃん!」


 トランプもどうかと思うけど、辛うじていける気がする。あ~、これ無駄になっちゃったか。でも、記念にはなるかも。


 携帯食料は干し肉と乾パンしかなかった。魔法が発達しているから、もっと違う何かがこっちの世界ではあるかもしれないと期待していたけど…。


「こういう保存食は科学の方が有利なのかな」


 魔力の籠った食べ物があったとして、それを食べたいと思わないから当然の事なのかもしれないね。


「待たせたな」


 声が聞こえて振り返る。そこには魔術師らしいローブに包まれた秋奈の姿があった。


 しかし、このやり取りにどこか恋人みたいなものを感じるね。…あっ、僕生まれてから彼女なんてできた事なかったわ。ははは。


「…大丈夫か?」


「あ、うん。大丈夫だよ。家族とかに挨拶とかしてたの?」


 何気なく聞いたその言葉は地雷だった。


「いや、私の両親は五年前に死んでしまったからな。今は、一人暮らしだ」


「あ、うう、そうなんだ。…その…ごめん」


 またやってしまった。これで道中気まずい雰囲気で行くはめになってしまった。あれなんだろうな。絶対、隣を歩いてくれないんだろうな。ちょっとずらして歩くんだろうな。それで話しかけづらくなって、事務的な事だけしか言葉を交わさなくなるんだろうな。


「いや、いいのだ。私は気にしてはいない。むしろ、今回は一人だからこそいろいろ手間が省けて良かったよ」


「つ、強いんだね、秋奈は」


 女の子ってもっとか弱いイメージだったよ。いや、僕のイメージが古いだけかな?


「もう、五年もたつのだ。いつまでもウジウジしているわけにもいくまい。君の方こそ、一人で旅をしてきたみたいだが、家族はいいのか?」


 旅…。そうか。そういう風にしておけばいろんな所を回っても不審がられないわけか。


「僕も一人だよ。みんないなくなっちゃった」


 あまり考えない事にしている。考えると辛くなっちゃうからね。


「そ、そうなのか。君も人の事言えないな。とてもそんな風には見えないぞ」


「はは、そうだね」


 僕の危惧していた殺伐とした空気は存在しなかった。二人ともが同じ境遇で、二人ともが互いに同情の念をあまり抱いていないからだろう。同じ境遇だからこそ、普通に接してもらうのが一番ありがたいことだと理解している。


「(でも、僕は秋奈みたいに吹っ切れてはいないんだよね)」


 それは経過した時間の違いのせいか、それともそこが僕と秋奈の強さの違いなのか。たぶん後者だと思う。


「うむ、では行こうか」


 変な考えを捨てるために僕は秋奈の声に大きな声で返す。


「おー!」


 天に突き出す拳を撫でる静かな風。追い風を背中に受けて村を後にする。


「あ、荷物持とうか?」


 女の子に重いものを持たせるわけにもいかないし、ここはひとつ。男の役割を果たしてみよう。


「いや、問題ない」


 しかし、僕は役者になる前に倒れてしまった。


「大丈夫ならいいけど…。疲れたら言ってね。主戦力がドラゴン前で倒れたらシャレにならないからね」


「心配せずともそんなへまはしないさ」


 土の道を踏みしめて、僕らはドラゴンが向かっていた方に進んでいく。


「ちなみにドラゴンってどんな奴?」


「たしか、並の魔法が通らない対魔法のうろこを持ち、大地をも溶かす火を吹くとか言われているな」


「うへえ」


 ちょっと後悔が先立ってきた。…大丈夫かなぁ。


「(神だよりしかないな…)」


 あ、駄目だ。僕無信教だった。


 こうして、僕の帰還への第一歩は不安の残るものになってしまった。


本編一話目となります


だいたい一話これぐらいの文字数でやっていきたいと思います


閲覧ありがとうございました。引き続き、ご贔屓にお願いします

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