-始まり-
「キャンプへ行こう!」
そう銀さんから電話があったのは、夜中の二時過ぎだった。
夏休みでたまたまゲームをやっていたから起きていたが、普段ならすでに夢の世界にいる時間だ。
「急にどうしたんですか?」
俺は銀さんに問いかけた。
「いやぁ、夏といえばキャンプだろ?」
「そうでもないですね。いつ行くって言うんですか?」
「何寝ぼけているんだ? 今日の朝八時に君の家に行くからな」
「八時!? あと六時間もないじゃないですか! そんな急に……」
俺が言い終わる前に、ガチャッ、という音が聞こえた。銀さんが電話を切ったんだ。
無茶だ。急にも程がある。
彼はいつもそうなんだ。何かと急に変なことをする。数日前なんか『釣りに行こう』と言って、海に行き、船が間に合わず、ゴムボートで沖まで流され、危うくサメに襲われそうになったほどだ。
しかし、俺がヴィーナスと付き合えたのは、ヴィーナスの言付けを頼まれてくれた銀さんのお陰でもあるので、なんとなく逆らえない。
「まぁ、付き合ってやるか」
口ではそういいながらも、実は楽しみでもあった。
キャンプは季節を問わず、男のロマンである。多くの男は、一度はサバイバル生活に憧れる。
俺なんかは小学生の頃から憧れていた。小学生の頃行われた、宿泊訓練のイベントの一つである、オリエンテーリング(地図とコンパスを利用し、山野に設定されたコースを通り、チェックポイントを通過しながらゴールを目指すイベント)で、サバイバル魂を発揮し、ゲリラ信念を貫き、森を駆け抜け、道なき道を走り、結果的に、俺と同じ班の友人四人を迷子にしてしまったほどの憧れ様である。
それほどサバイバル生活を愛しているのだ。
とにかく、キャンプに備えて、仕度をすることにしよう。俺は、キャンプ用の大きなリュックを見つけると、必用になりそうな物を詰め込んだ。
どうやら、今日は眠れそうもないようだ。
俺のサバイバル生活は、危険な臭いを漂わせながら始まるのだった。




