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見えているもの

人は、見えているものしか見ようとしない。

そして、見えたものだけで、全てを判断する。


️希くんは優しいね

️希くんはいい子だね

希くんは手がかからないでしょ

そんな言葉を、小さな頃から散々貰ってきた。

その度に笑って、照れたような仕草を見せて。

そしたら皆簡単に騙せる。

見せているものしか見ないから、騙される。


「うぅ」

僕の下で、苦しそうに、でも気持ち良さそうに息を吐く男。

数日前に告白されて、付き合ってと言われたから頷いた。

そして今日、空き教室に連れ込まれ、彼が望むままに、抱いている。

またこんな感じか、と思う。

早過ぎないかな。ソウイウ、欲を出すの。

「すきっ」

僕を見て、嬉しそうに上がる声。

ねぇ、それって本当に、僕のことが好きって、言えるのかな。


昔から、笑顔を作るのが得意だった。

きっかけは、テレビで見た俳優さんの物真似。

綺麗な笑顔だなぁと思って、よおく見て。

鏡の前で、目尻の力を抜いて、頬から口角を上げる。

そしたらまるで愛しいものを見ています、みたいな顔になったから。

なんだ、笑顔って作れたんだ。そう、思ったことをよく覚えている。

それから、その笑顔が、僕の武器だった。


「ありがとう(のぞむ)くん」

「……こちらこそ」

にこ、と笑うと、嬉しそうにされる。

それからキスをされて、じゃあまたねって去って行く彼。避妊具とか、潤滑剤とか、そういうものを全部用意していた彼は、帰りもゴミ一つ残すことなく回収して行って。僕が提供したものは、本当に僕の体、だけだった。

キスされた唇を拭って、暫く、そこに残る。

気持ちが無くても、刺激が有ればできる行為に、意味なんてあるのかなと思いながら。


それから三日が経って、後輩の女の子に告白された。

「ごめんね、今付き合ってる人が居る」

そう言うと、知ってますって言われて、頭にハテナが浮かんだ。

知っていて、告白する意味ってなんだろう。

ところで君は、僕の何処に惹かれたんだろう。

「二番目でも良いので、付き合ってもらえませんか」

彼女は、至って真面目で、必死で。

顔を真っ赤にして、両手を胸の前でぎゅっと握りしめていて。

そんなに真剣なのに、どうして二番目で良いんだろうと、やっぱり疑問だった。

「……ごめんね、僕、お付き合いは一人までかな」

小学生の頃を思い出す。

好きって言われる度にニコニコ頷いていたら、私が彼女だよ!って言い出す子が大量に現れて、ちょっとした騒ぎになったあの時。

当時は付き合うとかって概念が無かったけれど、頷くのは一回にしなきゃなと、子供ながらに学んだのだ。

けれど目の前の彼女は、それでも尚、何かを言おうとしていて。

「本当にごめんね、授業始まるからもう行くね」

申し訳ない顔を作って、僕はその場から立ち去る。

幸せがそこに無いって、分かっているのに。

なんで、わざわざ選ぶんだろう。

悲しい人だな、と、ただただそう思った。


次の週、登校すると何故か、学校全体がざわざわとしていて。

「停学だって」「血が出てたらしいよ」「まじ?」

教室まで向かう途中で、拾えた言葉はそんな感じだった。

自分の席に着いてスマホを見ると、彼からメッセージが来ていて。

希くんに振られたって子に襲われました。お互い危険だからもう別れよう、とても幸せだった、今までありがとう。

要約すると、そんな内容が、スクロールしてもし切れない程の文章で届いていた。

『分かった。ごめんね、お大事に』

僕はそう返信して息を吐く。

僕の居ない所で、またトラブルが起きて。

僕のお付き合いが、また終わった。


ざわざわとしていた学校内も、授業が始まれば自然と落ち着いて。

けれど、僕の周りには人が居なかった。

皆遠巻きに、僕のことを見ている。

僕は停学の件に直接関わっていないけれど、僕を取り合っての事件に、皆どう触れて良いか分からないみたいで。それは、僕も同じだった。

今までも、嫉妬からのいざこざは頻発していたけれど、ここまでの大事になったことは無かったから。

大事になっていなかったのは多分、僕が別れると、その次に告白してきた人と、すぐにお付き合いを始めるからだと思う。

暗黙の了解みたいな、順番待ちルール。

入学したての一年には分からなかったんだろうね〜自分にもチャンスがあるかもってこと。そんな、噂声が聞こえて。

チャンスってなんだよ、と思わずにはいられなかった。

人と付き合うのに、チャンスって、なんだよ。

「なぁ」

何を見るでもなく、ただスマホの画面を見ていたら、声が聞こえて。

見上げると、クラスメイトの、確か金井くん。

高校二年生になって二ヶ月が経つけれど、今年初めて同じクラスになった彼とは、まだ絡んだことがなかった。

「……何?」

「今フリー?」

視線が、突き刺さる。

金井くんからと、周りからの視線。

なんとなく逸らせなくて、金井くんの目を見たまま言う。

「……パートナーって意味なら、そうだけど」

やたら通る、僕の声。

周りの緊張感が高まるのを感じる。

「じゃあ俺と付き合って」

なんでもないように言って退けた金井くん。

周りからは、ひぃ、と微かな悲鳴が聞こえた。

ざわざわ、と騒がしくなる教室。

「……いいよ」

僕が了承すると、嘘でしょ、って言葉が、どこかから聞こえた。


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