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逃亡悪役令嬢はスキル【鑑定】で強面剣士を支えたい ーただし見た目はリスザルだー  作者: 空飛ぶひよこ


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お猿の神様

「ゼド! ロシィ! 来てくれたのか⁉」

 ナディがぱあっと顔を輝かせるが、ゼドは一瞥もせずに新たに襲い来るクモ型の魔物に向き直る。

「ロシィ。俺が必ず、お前を守る。だから……」

「うっきぃ!(お任せくださいまし!)」

 先ほどの草原と違って、この場にはウィリアムがいない為、スキル【フェロモン】によって魔物の狙いを自分以外に向けさせることはできない。

 だがしかし、ロクセラーナの中に恐怖心はなかった。

(ゼド様が守ってくださると言っているのですもの! 私はただ、それを信じるだけですわ!)

 刷毛と共に跳躍し、目の前の魔物に弱点のペンキの色を塗っていく。

 当然ながら魔物の攻撃の手は邪魔なロクセラーナに向けられたが、すかさずゼドが魔石を外した剣で弾いて攻撃を防いでくれる。

「ナディ! ルシアン! ロシィが塗ったペンキの色を見ろ! 赤のペンキは火属性、青のペンキは水属性。緑のペンキは風属性、茶色のペンキは土属性が弱点の印だ! それに合わせて魔法を使え」

「っわ、わかった!」

「……何で弱点がわかるのかとか、この状況で聞くのも野暮ですね。信じますよ!」

 すかさずナディとルシアンが、弱点に合わせた魔法で攻撃をしたことで、地上の魔物はかなりの数を減らすことができた。

(問題は、上空の魔物ですわ!)

 いくら身軽なお猿とはいえ、遥か上空にいる魔物はペンキを塗れない。

 草原では魔法を一種類しか使えない冒険者を指で指し示し、ゼドを通じて指示を出すことで事なきを得たが、ナディとルシアンは二属性。ゼドに至っては、魔石を入れ替えれば全属性が使える為、同じ策は使えない。

(ゼド様の武器は大剣ですから、遠距離攻撃は不向きですし……ええい、仕方ありませんわ! ゼド様のお傍を離れるのは心底嫌ですけど!)

「ロシィ?」

 ロクセラーナは、ゼドが弱点の魔石を嵌めなおした大剣で攻撃している虎型の魔物の足もとをすり抜けるように走り、ぴょんとナディの肩の上に乗った。

「っ⁉ ロシィ⁉」

「うきっ!」

 ロクセラーナはむっつりとした顔で、上空の鳥型の魔物を指さし、赤色のペンキを見せる。一瞬目を見開いたナディだったが、すぐに満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう! あの魔物は火属性が弱点なんだな!」

 すぐさまナディが火属性の魔法を放ったのを横目に、今度はルシアンの背中に飛び移る。

「うきっ!」

「……なるほど、あのフェアリードラゴンは土属性が弱点なんですね」

 土属性の魔法を矢に付与し、ルシアンがドラゴンを射る。

「ロシィ! あの魔物の弱点はなんだ!」

「うきっ!(水属性!)」

「ルシアン、お前の出番だ! なんか水で攻撃をしてくれ!」

「ああ、今度はファイアーバットが来ましたね……通常ならば水属性が弱点なはずですが」

「うききっ!(風属性ですわ!)」

「ナディ! 風の攻撃を!」

 ぴょんぴょんとナディとルシアンの肩の上を移動して、攻撃の指示をだしていく。

 しかし、良くて二級冒険者程度の実力と言われたナディとルシアンでは、弱点属性の攻撃といえども、ゼドやウィリアムのように一撃で魔物を倒すことはできない。そんな状況では、当然ロクセラーナを守りながら攻撃するのは難しく。

「っロシィ! 危ない!」

「⁉」

 ナディとルシアンが他の魔物にかかりきりになっている間に、大鷲のような魔物がまっすぐにロクセラーナを狙って降下してきた。

(……今こそ、このアイテムの出番ですわ!)

 ペンキの器に刷毛を突っ込み、アイテムボックスを漁るロクセラーナが取り出すのは、子どもの手のひらサイズの水風船。水風船は、主に水属性持ちの子どもが中に水を入れて膨らませることで魔法の訓練をする、グラディオンでは珍しくもないアイテムだが、中に入っているのはただの水ではない。

「うき、うききききっ!(秘儀・ネバネバ弾!)」

「ッグカー!」

 投げた水風船は鷲型の魔物にぶつかって割れ、ぬめぬめネバネバの中身が鳥の羽にまとわりつく。

 翼が絡んでうまく飛べなくなった鷲型の魔物は、喉がつぶれたような鳴き声を上げて落下した。


名称:ネバネバ弾

概要:ロクセラーナが開発した超保湿液を、自身の水魔法によって市販の水風船につめたもの。

効果:クラン根の保湿性が、加熱して加えられたベチの葉の相乗効果によって限界まで高められた超保湿液が中に入っており、水風船が割れることで任意の対象に中身を当てることができる。非常に粘性がある液体の為、対象の動きを封じる効果が期待できる。


(おーほっほっほ! 【鑑定】スキルレベル3の検証実験中にできた謎アイテムでも、知恵と工夫次第ではこんな風に役立てることができますのよ!)

 鑑定で見えるようになった任意の数値が、増減の結果残りさえすれば何かしらのアイテムはできるのではないかと、使える素材を片っ端から使って実験して生まれたアイテムが【超保湿液】。

 成功の光はあったものの、他の効果が一切なく、ただただ保湿だけに特化したアイテムが一体何の役に立つのかと最初は頭を抱えたものだが、ふと思いついて幼い頃水魔法の操作訓練に使ったことがある水風船をゼドに強請り、中に詰めてみた。

 そうしたらまたピカッとして、成功アイテムとして出来上がったのがこの【ネバネバ弾】というわけである。

 皮膚吸収型の毒を入れた【どくどく弾】というのも検討したのだが、毒と超保湿液を詰める際に風船が溶けてしまったので、残念ながらこちらは実用には至らなかった。

(今回は投げやすい風船を採用しましたけど、次は別の容器で試してみたいところですわね。液体状のものならば、水属性持ちは詠唱なしでもある程度操作できますから、詰める分には問題ないですし。色々戦闘に応用ができそうですわ。それにしても、こんなアイテムまで作れてしまうなんて、私もしかしたら天才でなくって?)

 勝利に酔いしれるロクセラーナは気づかない。一羽魔物を落とすのこそ成功しても、後続の魔物はいくらでもいることを。

 気づいた時には、再びネバネバ弾を取り出す隙もないくらいに、鷹型の魔物のくちばしが、すぐ傍まで迫っていた。

「っうきいいいいいいい!!!!」

「ロシィィィィ!」

(ああ……どうせ死ぬなら、ゼド様のお傍が良かった……)

 迫りくる鋭利な嘴に、ロクセラーナが死を覚悟した瞬間、目の前の鷹が消滅する。

「……俺が必ず、お前を守るって言っただろう?」

 地上の魔物を中心に打ち倒しながらも、ずっとロクセラーナの周囲を警戒していたゼドの攻撃によって。

(――うぎゃあああああああ、ゼド様がっごい゛い゛い゛い゛ぃぃぃ!! 素敵過ぎるうううううううう!!!!!)

 思わず戦闘中なのも忘れて鼻血を噴いて失神しそうになるロクセラーナだが、ナディから「ロシィ、あの魔物の弱点は!」と聞かれたことで、慌てて意識を取り戻した。

 戦闘中の萌死には、大変危険な行為なので良い子も悪い子も真似をしてはいけない。

(必ず生き残って、安全な場所でゼド様の格好良さを堪能致しますわ!)

 ロクセラーナは決意を新たに、目の前の魔物を睨みつけた。




「……あーあ。せっかくポルカに治してもらった腕なのによ」

 魔物に噛まれて血まみれの腕を抱えながら、エンリケは嘆息する。必死に走って、貧民街に現れた魔物を撒くことができたが、こんな怪我を負っている時点でこれからの未来は絶望的だ。

「せっかく運が向いて来たってのによ……ポルカのとこに行ったら、また治してくれっかな。ははっ、さすがにあいつもそこまではお人よしじゃねぇか」

 実験と証して、冒険者が使う傷薬と遜色ない薬で以前の怪我を治してもらったが、いくらポルカがお人よしだからと言って、そんな慈善事業を続けざまに行ってくれると考えるのは希望的観測が過ぎる。効果を証明する為に、最初は無料でサンプルをやっても、二回目以降は有料になるのは商売でのお約束。

 だからこそエンリケは、疲労困憊の体を引きずってまで、ポルカのもとへ行こうとは思わなかった。

「そもそもポルカが生きてるとも限らねぇしな……助けてくれた偽勇者の嬢ちゃん、死んでねえといいな」

 ドブネズミや害虫と同等に扱われる貧民街の人間の為に、命を賭けて戦っていた酔狂な少女と、それを傍で補助していたキツネ目の青年の姿を思い出し、思わず苦笑いが漏れる。

 忌み嫌われた汚い貧乏人の自分たちを、守ろうとしてくれる者がいたことが信じられなかった。

 エンリケは崩壊した家屋を背に、その場に崩れ落ちた。

「……もし生まれ変わることができたら、もう少し全うな人間になれっかな」

 貧民街で生まれて、貧民街で育った。生きる為には犯罪に手を染めるしかなく、後ろ暗い仕事でその日その日の食糧を得て、この年まで生きてきた。

 人間は利己的な生き物で、善意の裏には必ず見返りへの期待がある。

 そう思っていたのに……まさかこんな死の瀬戸際で、自分の価値観をひっくり返すような人間に出会うだなんて。

「はははっ、生まれた時からロクデナシなんだから、生まれ変わってもロクデナシか!」

 背につけた家屋の陰から、かさりと音がした。恐らく貧民街に侵入した魔物の一体だろう。一度逃げおおせたからと言って、そんな幸運が何度も続くはずがない。

 エンリケが覚悟を決めて目をつぶった、その時だった。

「――うっきい!」

 現れた金色の小猿に、エンリケはぽかんと口を開く。

「……お前は、【黒剣】の⁉」

 スタンピード前に【黒剣】と共にフェスティを発ったはずの水リスザルが、何故こんな場所にいるのか。

 エンリケが固まっている間に、小猿は背負った小さな亜空間収納バッグから小瓶のようなものを取り出し、中の軟膏をエンリケの傷跡に塗りつけた。

「っ傷が塞がった⁉ これはポルカの薬と同じ……っ?」

「うっききー」

 エンリケの傷が塞がったのを見るなり、身を翻して去っていった金色の小猿の背中を、エンリケはただ唖然と見つめることしかできなかった。

「……水リスザルが、幸運をもたらすって本当なのかよ」

 生き残れたところで、貧民街を生きる自分の境遇は変わらない。むしろ街そのものが滅茶苦茶になっている分、今までよりも環境は悲惨になるかもしれない。

(それでも俺はもう二度と、水リスザルを誘拐しようとは思わねぇんだろうな)

 もし神というものが存在するならば、金色の小猿の姿をしているのかもしれない。

 そんな柄にもないことを思いながら、エンリケはフケだらけの頭を掻いた。 


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