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調薬試行錯誤

(さて、他の材料はと)


名称:乾燥サルビ草

概要:トラヴィス大陸中部の山岳地帯に分布する灰緑色の葉を持つ草を、保存のために乾燥させたもの。

効果:軽度の炎症を抑える消炎作用を持ち、水に溶いて飲むことで腫れや赤みを和らげる効果がある。効果は穏やかで、即効性には欠ける。


名称:ルヴィア花の粉末

概要:トラヴィス大陸の南部に咲くルヴィア花の花弁を乾燥させ、粉末にしたもの。

効果:直接的な薬効はないが、強い芳香成分により気分を落ち着ける効果がある。薬草のにおいを和らげるために混ぜられることがある。


名称:クラン根

概要:トラヴィス大陸の湿地帯に自生する太い根を持つ植物。地下に広く根を張る。

効果: 粘性のある液を含み、煮出すことでとろみのある抽出液が得られる。保湿効果があり、薬草の加工をしやすくする補助材としても使われる。


名称:ナル根

概要:トラヴィス大陸全域の川辺や田畑周辺に生える多年草の根。見た目は地味で、苦味が強い。

効果: 煮出すことで胃腸の働きを穏やかに整える。特に食あたり・軽い下痢・胃もたれに効果があり、貧民街では食後のお茶代わりに用いられることも。空腹時に摂ると吐き気を催すことがある。


名称:シクシ葉

概要:トラヴィス大陸全域の日陰の湿地に生える小さな植物。乾燥させると葉が丸まる特徴がある。

効果:軽度の鎮痛作用を持ち、頭痛・月の障りなどに用いられる。お湯で抽出し、飲用することで効果を発揮する。強すぎると眠気を誘うため、摂取量には注意が必要。


名称:ボラムの樹皮

概要: トラヴィス大陸西部の低山帯に生えるボラム樹の外皮を乾燥させたもの。

効果: 喉の痛み・咳止めに効果があるとされ、煮出した汁をそのまま飲むか、飴状に加工して使われる。甘みはないが、軽い収れん作用があるため、舌にしびれを感じることがある。


名称:グズリ苔

概要: トラヴィス大陸全域の廃屋や井戸のまわりに繁殖しやすい灰緑色の地衣類。貧民街では“貧者の布薬”とも呼ばれる。

効果: 肌に貼り付けると軽度のかゆみやただれを和らげる作用があり、湿疹や虫刺されに使われる。煮ると臭気が強いため、乾燥したまま粉状にして使うのが一般的。


(デーブルが、ここを薬草園にしたがっていたことを考えると、生育環境からして、シクシ葉や、グズリ苔が怪しいですわね)

「あ、お猿師匠は、シクシ葉とグズリ苔推しっすか。オレも前、試したっすよ。てか、この辺のものは、全部一通り混ぜたことあるっす」

「…………」

「これ、良かったら参考にしてください。オレの実験記録っす!」

「うき⁉」

 どさりと差し出されたのは、分厚い羊皮紙の束。中にはヘロヘロの汚い字で、試したらしきレシピがまとめられている。

(こ、こんなにたくさん実験していたんですの⁉)

「サルビ草や、ルヴィア花やボラムはいいお値段がするんで、あんま実験できてないっすけど、それ以外はオレでも採集できるっすから。色々頑張ってはみたんす」

(お、思った以上に、頑張ってらしたのね……ゼド様の弟分を名乗るだけはありますわ)

 ぱらぱらと見ただけでも、ロクセラーナが思いつく工夫は一通り既に実験済みのようだ。

(ポルカの記録が正確だとは限りませんが……とりあえずあまり実験できていないという材料から試してみましょう)

 その前に一度、ゼドが用意してくれた製薬ギルドレシピのCランク傷薬と毒消し軟膏を小皿に取り出して観察してみることにする。

(臭いを嗅いだかぎり、ルヴィア花のような芳香はありませんわね。ただヒル草とケアル草と合わせたり、加熱したら臭いが変わる可能性もありますもの。まだ候補から除外はできませんわ)

 指にとった感触は、ある程度の粘性はあるが、それだけではとろみが加えられているかどうかは判断できない。

(生のまま使っているのかも、加熱されているのかも、薬を見ただけでは判断できませんわね)

 ひとまず丁寧にヒル草とケアル草を擦り、小分けにして乾燥サルビ草や、ルヴィア花の粉末、ボラムの樹皮などを混ぜて、鑑定する。

(駄目ですわね。よけいなものを混ぜたせいで、効果が下がってると出ますわ。全て)

 試しに水を加えて加熱しても、ますます効果が下がるだけで意味はないようだった。

(加熱したものは、見た目からしても粘度からしてもギルドの薬とは全然違いますわ。でしたらやはり、ただすり潰しただけのものを合わせた可能性が高いですわね)

 ならば、既にポルカが実験済だとしても、他の材料で一人試してみるべきだろう。ロクセラーナは一人頷き、あらたな材料に手を伸ばした。




「戻ったぞ。ポルカ。ロシィは……」

「あ、ゼド兄さん。お帰りなさい。師匠は、今はちょっと」

「⁉ な、何かあったのか」

「いえ……その、何というか……すっごく落ち込んでて。ゼド兄さんに顔を合わせにくいみたいで」

「は?」

 そう言って、差し出したポルカの手のひらの中には、金色の毛ダルマ饅頭もとい、頭を抱えて丸まるロクセラーナの姿が。

(ぜ、全部失敗してしまいましたわ……ゼド様が払ってくださる材料費を、全部無駄にしてしまいました。ゼド様に合わせる顔がございません)

 【鑑定】という特別なスキルを持ちながらの、この体たらく。穴があったら入りたいが、そんな都合の良い穴などないので、仕方なしに自分のふわふわの腹毛に顔を埋める。

(ゼド様のお役に立てない私なぞ、ただかわいいだけのお猿……かわいいだけの女は、せいぜいが愛人どまりだと相場が決まっておりますのに。嫌ですわ。私のゼド様の正妻候補としての立場が……このままでは、あのジャガイモ娘にすら勝てませんもの)

 プルプルと手の中で震える金毛饅頭を慰めるように、ポルカが慌ててフォローを入れる。

「でも、すごいんすよ! お猿師匠。作った奴が、効果があるのか、一目見ただけでわかるみたいで。検証実験なしで、どんどん次の実験が進められてたんす。さすがっすよねー。本当、有能なお猿っす」

「……うき?」

 饅頭から、ぴこんと尻尾が生えてきたのを見て、ゼドは小さく口もとを緩めた。

「そうか。やっぱり、ロシィはすごいな」

(……あ、ああ、ゼド様。どうか私を甘やかさないでくださいませ。それだけで満足していたら、とても貴方の正妻など務まるはずが……)

「それで、ロシィは一人で探索して疲れて帰ってきた俺に、可愛い顔を見せて、癒してはくれないのか? やっぱり、俺よりもポルカの傍にいる方が……」

「うきいいいいいいいぃぃぃぃ!!!(そんなわけございませんわあぁぁぁぁ!!!!)」

 慌てて金饅頭状態を解いて、飛びつくロクセラーナを、ゼドは優しく受け止めてくれた。

「ただいま。ロシィ。……失敗したくらいで、そう落ち込むな。ギルド秘蔵のレシピだぞ。そう簡単に解明できなくて、当然だろう」

「うっきー……(ですが……)」

「一通り検証して駄目だったなら、材料が足りなかった可能性もあるしな。良かったら、ポルカ。明日ロシィを連れて、他の種類の薬草を買いに行ってはくれないか。その分の代金も、俺が出すから」

「え……でも、それって危なくないっすか。師匠、めっちゃ貴重な魔物なんでしょ。誘拐されるかもしれないっすよ」

「フード付きのマントの中に隠せば、問題ないだろう。ロシィは警戒心が強いからな」

(あぁ……ゼド様。結果を出せなかった私の為に、打開策を提案してくださったうえに、こんなにも私を信用してくださっているなんて)


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