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小物悪役撃退イベント

今日からは、毎日一話22時に更新していきます。

(わあ、まるで物語から飛び出したような小物悪役キャラクターですわ! 鑑定ステータスを見る限り、改心の余地もなくヒーローから断罪されるタイプの。少し見た限りでは、美点が一つも見当たりませんし)

 デーブルの絵に描いたような三下っぷりに、ロクセラーナが小さなお猿の手を合わせて感心している間も、会話は続く。

「師匠の葬式すらまともに出なかった奴が、よく言うよ! デーブル、お前は確かに師匠の孫かもしんないけどな。師匠は血縁関係なしに、弟子であるオレにこの店を残してくれたんだ。権利書だってあるんだから、お前にどうこう言われる筋合いはない!」

「どうせ偽証した権利書だろ。字を書けないばばぁを騙すのなんて、簡単だったろうしな」

「なにおぅ……ちゃんと立会人だっている!」

「貧民街のゴミどもが、束になって証言したところでなー」

 どうやらデーブルは、ポルカの師匠だった人の孫で、店の権利を主張しているらしい。ロクセラーナは、平民向けの法律はあまり詳しくはない。だが、グラディオンはわからないが、ヴァルトハイムでは身分が絶対であり、地位を持たない人間の主張はどれほど正しくても握りつぶされることが往々にあった。

 グラディオンの平民と貧民の格差がどれだけのものか不明だが、ポルカのように後ろ盾がない人間からすればなかなか厳しい状況ではないだろうか。

 ロクセラーナがハラハラとことの顛末を見守っていると、黙って気配を殺していたゼドが一歩前に進み出た。

「――あいにくだが。その立会人の一人は、俺だ。一級冒険者という地位は、グラディオンでは十分に信用に値すると思っていたんだがな」

「ひっ! 【黒剣】!」

「さらに、もう一人の立会人は商業ギルドの職員で、譲渡契約の記録はギルド内で保管されている。グラディオンにおいて、これ以上に正式な譲渡契約もないだろう」

(――ぎゃーーー! ゼド様が正論でぶっ叩いた瞬間、デーブルの顔色が見事なグラデーションに……これが! これこそが小物悪役撃退イベント! 最高すぎますわーーっ!) 

流石に一級冒険者のゼド相手では旗色が悪いと思ったのだろう。デーブルの顔は、青いを通り越して真っ白だ。……単純にゼドの顔の怖さに、怯えているのかもしれないが。

 きゃっきゃっとロクセラーナが飛び跳ねてはしゃいでいると、不意にデーブルの視線がロクセラーナへと向けられた。途端に、ぞくうぅーと全身に悪寒が走り、慌ててロクセラーナはゼドの後ろに隠れた。

(な、何か、今すごく気持ち悪い目で見られましたわ。頭から尻尾の先まで嘗め回すような。いくら私が愛らしいからって、お猿をあんな目で見るだなんて、あの男は小物悪役なうえに変態ですわ)

「……ふん。【黒剣】の顔を立てて、今日の所は引いておいてやるがな」

 がくがくと足を震わせながらデーブルは三下丸出しの台詞を吐いて鼻を鳴らすと、あからさまにゼドを視界に入れないようにしながらポルカを嘲笑った。

「どうせ放っておいても、こんな店すぐに潰れる。ろくな薬も作れねぇんだからな。そん時は俺が二束三文で買い取って、ボロ屋を潰して薬草園にしてやるよ。ありがたいことに、うちの薬は今売れに売れていてな。薬草園を広げるための土地は、少しでもあるに越したことはねぇんだ」

「……うちにだって、ちゃんと客はいる」

「まともな代金も払えねー、貧乏人どもがな。ハッ」

 嫌な笑いを残して去って行くデーブルの背中を睨みつけながら、ポルカはぎゅっと拳を握りしめた。

「……前は、うちの店なんか全然興味がなかった癖に、自分の薬屋が繁盛するようになった途端、やたら絡んでくるようになって」

「……あんな奴の店が、繁盛しているのか? 確か生前のお前の師匠に聞いた限り、調薬の腕はそれほどでもないという話だったんだがな」

「そう、そうだったんすよ! それなのに、ある日突然、製薬ギルドがレシピを独占している薬を、作れるようになったとかで……!」

「レシピを買い取らずにか?」

「どうやら自力で調薬に成功したらしいんす! ギルドに収めるレシピ料がいらない分、他の店より安く提供できるってことで、滅茶苦茶儲かってるらしくて。それ以降何故か、興味がなかったはずのうちの店にやたら絡んでくるようになったんす」

「薬草園を作るとか言っていたな。こんな日当たりの悪い場所で、薬草が育つものなのか?」

「こういう日当たりが悪いとこ向きの薬草も、そこそこあるんすよ」

 ため息交じりのポルカの言葉に、ゼドは怪訝そうに眉間に皺を寄せた。

「じゃあ、何でお前は育てないんだ。もしかしたら、その中に、ギルドのレシピに必要な薬草が含まれているかもしれないじゃないか」

「管理すんのが大変なんすよー、そういう奴。苗も高いし。見た目もその辺の雑草と区別がつきにくい感じで。元金がないのに、バクチはできないっす。それで薬がよくなる保証もないっすし」

「だからって、手に入る材料だけで試行錯誤するのも、いい加減限界だろう。俺が投資してやってもいいぞ」

「ありがたい……ありがたい話っすけど……」

 ゼドの申し出に、ポルカは泣きそうな顔で項垂れた。

「返す見込みもないのに、ゼド兄さんに世話になりっぱなしになるわけにはいかないっす。ただでさえゼド兄さんは、オレを心配してここに長く滞在してくれてるのに」

「お前を心配しているわけじゃない。単に、ここのダンジョンを気に入っただけだ」

「そんなこと言っちゃって……ゼド兄さんが人を食い殺すみたいな凶悪な顔して、めちゃくちゃ優しいことなんてとっくに知ってるから、誤魔化さなくていいっすよ」

「俺が人を食うわけないだろ」

「食ったような顔って言ってるだけで、食ったと思ってるわけじゃないっす」

 苦虫を噛んだように凶悪な顔を一層歪めるゼドに対し、一切怯える様子もなくポルカは肩をすくめる。

 その気やすいやり取りを微笑ましく思いながらも、ロクセラーナは新たに湧いて出た新事実にショックを受けていた。

(ここの薬屋が繁盛しない限り、ゼド様が旅立てないということは……これからもずっと、あのおバカジャガイモ娘と陰険キツネ男につき纏われるってことですの⁉)

 事情があるのもわかる。根が悪い人間だとも思わない。

 だがしかし、これ以上ストレスでハゲを広げるのは、ロクセラーナもごめんこうむりたい。

(ゼド様がこの街を出れば、あの二人も追ってこない……わけはないとは思いますけど、ゼド様と二人で愛の逃避行ができると思いましたのに!)

 ロクセラーナは頭を抱えて、絶望する。

かといって、優しいゼドの気持ちを否定するつもりはない。ロクセラーナだって、ポルカの境遇には同情している。自分にできることがあるならば、何かしてあげたいと思うくらいに。

「(私にできること……そうですわ。私には【鑑定】スキルがあるのですもの)――うきっ!」

「……ロシィ?」

「わっ、どうしたんですか。お猿師匠」

 ポルカが自分を師匠と呼ぶのは冗談だとはわかっている。わかっているが。

(その冗談、本当にしてさしあげますわ!)

「うっきぃぃぃー!!!!」

 ポルカが使っていたすりこぎを高らかに掲げて、雄たけびをあげる。

(私が、【鑑定】スキルを使って、ギルドのレシピを調薬してみせます! ゼド様との愛の逃避行のために!)

「……ロシィ。ポルカのことで憤ってくれるのは嬉しいが、デーブルに殴り込みに行くのはやめておけ」

「きー⁉(って、違いますわー⁉)」


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