コロコロバラバラサイコパす
俺は古場 帥佐 35歳
大人になって思う
子供の頃は無邪気だったなぁ
同一個体で見た目や思想、価値観がここまで変わることは
最大のミステリーである
手や足の先が遠い違和感は未だに慣れることが無い
小学校高学年の頃に親にねだり小型犬を飼ってもらった
「ねぇ僕ペットを飼ってみたい。」
「情操教育に良いみたいだからね。ちょうど良い時期かも。」
両親の長い長い議論の結果、2か月程もペットショップを回り
生後半年のトイプードルを購入して我が家にお迎えする事になった
愛情を持って育てられていたようで人に対して
吠えず、人懐っこく、子供がいる家庭でも飼いやすいとのこと
「わぁ。かわいいなぁ、コロちゃん。コロちゃん。」
次の日、僕は犬を殺した
というのも両親の親戚筋が亡くなったようで
夜10時頃に両親が急遽家を空ける事になる
小学年を一人で家に置いていく事は躊躇われたようだが
すでに僕は寝入りかけの状態であったし
両親は朝には帰って来るので鍵をかけて出掛けるらしい
ワンちゃんも居て寂しくないだろうとの判断
夜中に僕は目を覚まし
トイレに行こうとした
そのベッドから降りた1歩目
ゴリッ
そこに犬の頭があった
「キャイン!!!」
踏んづけたことでさらによろめき尻餅をつく
そこが犬の胴体の上であった
「あ~あ」
犬はくーんくーんと苦しそうにしている
しばらく5分程は眺めていたが状況は変わらず
楽にしてあげたいと思った
トイレに行こうと起きたはずなのに
今は行きたいと思わない
「不思議なこともあるもんだなぁ」
…
両親が家に帰ってくる頃
僕は犬を解体して中を覗き込んでいた
母親は僕を引っ叩き
その後に抱きしめてくれた
僕は必死に釈明した
「違うよ。事故だよ。僕の足のとこに犬がいて踏んじゃったんだ。苦しそうにしてたから助けてあげたんだ。」
その日、学校から帰ってから僕は
「ねぇ僕ペットを飼ってみたい。」
と両親にお願いしたが断られた
1頭目のトイプードルの値札を僕は見ていたので
ウチは経済的に裕福でない中流階級の家庭なのだなと考えていた
俺の心の移ろいは俺のものだから分かるが
このエピソードも大人になり俯瞰で見れば
親の気持ちも分かってくる
なぜ犬を飼おうと思ったのか
なぜ母は僕を叩いた後に抱きしめたのか
なぜその後ペットを飼ってくれなかったのか
まぁ中流階級なのはそうなのだろうが…
中学になると学業のレベルも上がり好奇心が満たされていく
理科の生物の授業を通して両生類のファンになった
ココイカエルは地球上最強の毒を持つことから
ファイアサラマンダーは名前に反し可愛い顔と毒持ちであることから
中2の生物範囲で習いしっかり中2病を発症した
これら両生類は幼少期は水棲、成長すると陸上に上がり呼吸法が変わる
進化の歴史を一代で我々に見せてくれるあれは神秘であろう
両親にペットとしての購入を打診したが断られた
妥協して毒持ちで無くても良いと言ったが断られた
因数分解には様々な妄想を膨らませた
長方形の中に縦、横2本の直線を引き
4つの長方形の区画に分ける解説
生き物の解体の説明に見え
あの日の夜中のトイプードルと重なった
x^2ー20x+99
=(xー11)(xー9)
元は大きい数を含む複雑な式が有るだけ
ただ一定の知識で変形するだけで
シンプルな形にできる
自身の経験上でも腑に落ちるところがあった
しかし
この次に習った二次方程式
(xー11)(xー9)=0
x=9、11
これは理解に苦しめられた
数学的にではなく哲学的な話だ
xに好きな数字を入れると×になることに納得がいかない
=が成り立たないから何だと言うのだ
そういう決めつけがよくない世界に向かって
LGBTQの権利を求めるなどの各種取り組みがあるのではないのか?
xに言葉を入れても良いじゃないか
数学の先生も決まった数じゃなくてただの箱だから
何を入れても良いと言っていたのに
xに“お”を入れてxー11→おーい と呼びかけても良いだろ
右のxには別の文字“みそ”を入れて縦読みしてxー9→のーみそ と読んでも良いではないか
うーん、ガキだなぁ。この頃の俺を思い出すと恥ずかしくなる
正解は個人個人が持っていれば良いのだ
考えが違う事など当たり前で主張に意味はない
忖度なく意見が一致する瞬間があるからこそ
人は心を通い合わせられるのだ
何も押し付けず自ら選び歩んでいけばよい
そういう点で言えば
高校の頃に母を殺してしまったことは良くなかったなぁ
成績は常に良かったのだが
俺の教育方針でよく父に怒鳴っていた母
俺が普通じゃないから…
あの子は家から出しちゃダメだから…
その根底にあるのは愛だったのだが
俺はそれが憎しみであると錯覚していた
遺体となった母を移動させるために抱きかかえた時に
その愛情が俺に流れ込んで来たんだ
小学生の頃に抱きしめてくれた母
あの時にも感じていた愛情に
俺が気付かなかっただけなのだ…
父と共謀して母の遺体は処理した
それから俺は接している人間の感情を感じ取れるようになった
そこに気づかせてくれた点については
母を殺して得られた
母からの最期のプレゼントだったと思う
声からもその人物の感情が読み取れる
警察官のなりすまし詐欺の電話があった時
やり取りの中で俺は大爆笑してしまった
もし俺の能力を皆が持っていたら
積極的に人の心の中を覗きに行くだろうか?
俺は興味があり様々な人の気持ちを覗いた
俺に対して嫌悪感や好意を抱く者や無関心な者
進行形で元恋人をストーカーし続けている者
借金取りから夜逃げして名前を変えている者
押し入れに死体を隠している者
好きなことを考え、好きな事をすれば良い
俺もそうしている
そして現在2045年
俺は地下シェルターの中で多くのペットとともに暮らしている
すでにFIRE(経済的にゆとりがありもう働かなくて良い状態)している
高校を卒業してから10年程は証券会社で働いた
取引先の相手や、通話でのやり取りを通じて
相手の会社の情報が流れ込んでくるのだ
天然のインサイダー取引と言えよう
新技術の発表の前にその会社の株を買い
多額負債を公開する前にその会社の株を売り
たちまちスタートレーダー(業績1位)となる
20台後半にはヘッドトレーダー(管理部)となり
会社を随分と儲けさせたと思う
様々なパーティーにも参加して
欲しかった人脈を得たことで俺は退職した
地下シェルターの中では俺個人のやりたい事というよりは
ペットの好きなように・やりたいようにさせている
それが俺の幸福につながっているから不思議だ
ペットと言っても人である
特に外の世界では生き辛い人間
殺人衝動が抑えられないサイコパス達
彼ら・彼女らがのびのびとやりたいことをできる環境を整えている
他人から何かを奪うことは原則禁止しているが
「おーい。脳みそ白くなってんじゃん。」
「はーい。すぐ片付けるわ。」
死んだモノに関してはすでに生命ではない
好きに扱って良いだろう
代わりに彼ら・彼女らは
毎晩ベッドで抱かせてもらっている
自らが動くことなく
彼らの体験を追体験しつつ絶頂に至れる
私は理想の生活を楽しめている
…
暗い部屋
俺のベッドの傍
吠えずに居たあの犬は
どんな気持ちであったのか
両親がいなくなったタイミング…
人恋しくて俺のそばにいたかったのか
俺の喉元を食いちぎるつもりであったか
この世界からは消えて四半世紀を経過したが
原子・分子の成分は世界中のどこかにおそらくは残っているはずだ
それこそ核エネルギーとして消滅しない限り
そんな事を思いながら
水素爆弾により荒廃した地球で俺達は幸せに暮らせている