第八話:ドーナツと試練
キャサリンとポチは、遺跡の中央に進んだ。
黒い影たちはじわじわと距離を詰めるが、まだ攻撃はしてこない。
その姿はまるで、キャサリンの決意を試すかのようだった。
「……ポチ」
キャサリンは小さく呼びかける。
ポチはその声に応えるように、低く喉を鳴らした。
「私、ちゃんと向き合う。
だから、力を貸して」
ポチはゆっくりと歩み寄り、キャサリンの隣に並ぶ。
その瞬間、遺跡の空間がわずかに歪んだ。
「始まるぞ……!」
アレックスの呟きと同時に、黒い影たちが動き出した。
数体が一斉にキャサリンへと飛びかかる。
「ポチ!」
キャサリンの声に応えるように、ポチが前へ飛び出す。
白い巨体が黒い影を弾き飛ばした。
「すごい……」
だが、それだけでは終わらない。
次の瞬間、さらに多くの影が湧き上がり、ポチを包囲する。
「キャサリン、これは試練だ。
君がポチを信じるんだ!」
「信じる……?」
キャサリンは目を閉じ、心の中でポチを強く呼んだ。
(ポチ……お願い。
私と、ちゃんと繋がって……!)
その瞬間、キャサリンの体から淡い光が溢れる。
光はポチへと流れ込み、ポチの白い体が一瞬輝いた。
ポチは大きく吠えると、一気に黒い影の群れへ飛び込んだ。
牙が閃き、影が次々と霧散していく。
「うそ……さっきより……!」
(ポチの動きがさっきより速くなっている。
それに、何となくだが、ポチがキャリンの意思に応えているような気がする......)
キャサリンは驚き、そして力強く頷く。
「ポチ!
行こう!」
ポチは吠え、残る影たちへと突進した。
キャサリンはその後ろ姿を見つめ、震える手をぎゅっと握る。
(私が……ポチを、信じるんだ......!)
最後の影が砕けると、遺跡の空間が静寂に包まれた。
壁の紋様が淡く光り、そして消えていく。
「終わった......?」
キャサリンが恐る恐る振り返ると、アレックスが頷いた。
「キャサリン、やったな」
ポチがキャサリンの足元に座り、静かに尻尾を揺らす。
キャサリンは微笑み、ポチの頭を撫でた。
「ありがとう、ポチ。
私、もう絶対離れないから」
「これで、試練は無事に終わったというわけか」
キャサリンは、ポチと一緒に力強く頷いた。
「うん!」
夜の遺跡の中、三人は再び歩き出した。
確かな縁を手にしながら。