第六話:ドーナツと追跡者
ユニシティの街を離れ、アレックスたちは郊外の森の中を進んでいた。
目指すは、キャサリンとポチの力を制御するための遺跡。
「……本当に、こんなところに遺跡があるんでしょうか」
キャサリンの声は不安げだ。
ポチも警戒するように鼻を鳴らし、周囲の匂いを嗅いでいた。
「確かな情報だ」
アレックスが前を歩きながら答える。
だが、その表情は険しい。
(気配を感じる……。
イクリシアじゃない、この感じは……)
そして、その予感は、すぐに現実となった。
「久しいな、アレックス・エリダヌス」
森の奥から、黒い異形の影が姿を現す。
人型をしているが、肌は灰色に爛れ、目は異様な赤い光を放つ。
(ハウ、こいつらは……)
(ああ、間違いねぇ。
俺と同じ、異星からの来訪者……俺たちの敵だ)
キャサリンは初めて見る異形の黒い生命体に、思わず息を呑む。
「ようやく見つけたぞ。
アレックス、ハウ……!」
アレックスは銀の鎧を展開する。
「……やはり、お前らも動いてたか」
その黒い生命体は口元を吊り上げる。
「寄生体ハウ、お前は戻るべき場所を捨てた……だが、我々が手に入れる。
お前も、宿主ごと喰らってな!」
「ふざけるな!」
アレックスは即座に銀の拳を構える。
「キャサリン、下がれ!」
「う、うん!」
黒い生命体が腕を伸ばす。
その手から伸びる黒く鋭い触手が、アレックス目掛けて飛びかかる。
「ハウ、いくぞ!」
(ああ、ぶっ潰せ!)
アレックスの銀の拳が、黒い触手を一撃で粉砕する。
衝撃波が走り、その身体が地面を滑る。
「ほう……やるな。
だが!」
再び黒く鋭い触手が無数に地面を這い、襲いかかる。
「まとめて吹き飛ばす!」
アレックスは銀の鎧を拳に集中させて巨大化させた。
そして、無数の触手に対しその拳を振り下ろした。
「ぐっ……!」
大地が砕け、黒い触手ごと地面に叩きつける。
そして、その黒い生命体は動かなくなった。
「お前たちとの交渉は既に決裂している!」
息を整えるアレックスの横で、キャサリンが震える声を漏らす。
「今の、なに……。
さっきの人たちとも違う……」
「あれはヴァラクシア……異星の生命体だ。
私を狙っている」
アレックスはキャサリンに向き直る。
「ヴァラクシアの狙いは私だ。
また襲ってくるようなことがあれば、その時は君だけでも逃げてくれ。
おそらく君を追ってくることはないだろう」
キャサリンは震える声を押し殺し、それでも真っ直ぐアレックスを見た。
「私は逃げません。
アレックスさんと一緒に行くって決めましたから」
アレックスは微笑み、ドーナツをひと口かじった。
「悪い、そうだったな。
……行こう。
遺跡は、もうすぐだ」
夜の森の中を、再び歩き出した。
その背後に、粘つくようなヴァラクシアの残り香だけが漂っていた。