第五話:ドーナツと決意
夜の公園。
イクリシアの襲撃が去った後も、キャサリンは呆然とその場に座り込んでいた。
白い狼、ポチが静かに寄り添う。
(先ほどまでキャサリンと距離を保っていたポチが寄り添っている。
まさかポチは、自分が狙われていることを知っていて、わざと距離をとろうとしていたのか)
「……ポチ、ごめんね。
私、何も知らなかった」
キャサリンの声は震えていた。
アレックスはしばらく黙って見守った後、そっと隣に腰を下ろす。
「キャサリン、今なら話せるか?
あいつらの言ってたこと、全部聞いていただろう」
キャサリンは小さく頷いた。
「うん……ガーディアンとか、回収するとか……。
でも……私、本当に何も知らなかったの。
ポチは、ただ……いつの間にか、隣にいてくれて。
友達だと思ってた」
アレックスは優しく頷いた。
「それでいいさ。
お前にとっては、そうだったんだろう。
だが、奴らの言った通りなら……お前の友達は、放っておけば狙われ続ける」
キャサリンは唇を噛みしめる。
「どうしたらいいの……?
どうすれば、ポチを守れるの?」
アレックスはポケットから折れたローブの紋章を取り出した。
「答えはいくつかあるが......まずは、その力を制御できるようになることだ」
「制御……?」
「ああ。
ガーディアンは、響命者の力でこの世界に存在できている。
その力が不安定なままだと、暴走の危険がある。
だから、お前がその力をものにすればいい。
そうすれば、暴走の危険も減るし、ある程度だが自衛の手段も手に入る」
(とは言え、まだ不安は残るが......。
それでも、今よりはずっとマシだろう)
キャサリンは不安げにアレックスを見つめる。
「そんな……私に、できるの……?」
「できるさ。
……というより、やるしかない」
アレックスは立ち上がった。
「SDのレイヴンってヤツから聞いたんだが、ユニシティ近郊に、ガーディアンにまつわる古い遺跡が存在する。
そこで、力の制御方法に関するヒントがあるらしい」
「……遺跡?」
「ああ。
そこなら、お前にもポチにも何か掴めるはずだ」
キャサリンはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「……行きたい。
私、ポチと一緒にいたい。
……それに、アレックスさんにも迷惑をかけたくないから」
アレックスは小さく笑い、キャサリンの頭を撫でた。
「じゃあ、決まりだな。
まずはそこを目指す」
「うん、私、もう逃げない」
ポチはキャサリンを見上げ、静かにその決意を認めるように鳴いた。
「よし、なら……出発前に腹ごしらえだな」
アレックスはドーナツを取り出し、キャサリンに半分渡した。
「行くぞ、キャサリン。
まずは遺跡だ」
二人と一匹は、夜の街を後にした。
次の目的地、ガーディアンの力を知るための旅路へと。