第四話:ドーナツと最初の刺客
夕暮れの公園。
アレックスはキャサリンと並び、ポチの様子を伺っていた。
「少しは落ち着いたか?」
キャサリンは小さく首を振る。
「ううん……ポチ、ずっとああしてる」
白い狼は、少し離れたベンチの影に身を潜め、じっとこちらを見ている。
(どうにも、ただの動物には見えねぇな……)
アレックスがそう思った瞬間――。
ヒュッ!
「伏せろ!」
アレックスは咄嗟にキャサリンを抱き寄せ、地面に転がった。
次の瞬間、黒い杭が二人のいた場所を貫き、地面に突き刺さる。
「な、何!?」
キャサリンの悲鳴。
アレックスは即座に身構えた。
「出てこい!」
木々の陰から、黒いローブの男が二人現れる。
「只者ではないな......」
男たちは手にした杖から黒い光を迸らせる。
「イクリシアの為、ガーディアンを......回収する」
キャサリンが青ざめる。
「何......!?
何なのこの人たちは......」
男たちが一斉に魔術を放つ。
無数の黒い杭が、アレックスとキャサリンを囲むように降り注いだ。
「チッ……!」
アレックスは瞬時に銀の鎧を展開し、キャサリンを抱えるように立つ。
「こ、これは......!?」
キャサリンはアレックスの銀の鎧を見て驚いていた。
「私にも色々と事情があってな......。
あまり気にしないでくれ」
銀の腕が唸りを上げる。
アレックスは杭を弾き飛ばしながら、敵へと駆けた。
「な、何だコイツは!?
まさか魔術師か!?」
「ネゴシエーターだ!」
アレックスの拳が一閃。
液体金属の拳は、男の防御ごと叩き潰した。
「ぐっ……!?」
「もう一人!」
もう一人が動く間もなく、アレックスは距離を詰める。
「これで!」
銀の拳が、男を地面ごと叩き伏せた。
地鳴りのような衝撃音が公園に響く。
「がっ……は……」
魔術師たちは完全に沈黙した。
アレックスは肩で息をしながら、キャサリンを振り返る。
「……大丈夫か?」
「う、うん……。
ポチは……!?」
キャサリンは呆然としたまま、ポチに駆け寄った。
白い狼は、アレックスをじっと見つめている。
(やっぱり、ただの獣じゃねぇ……)
アレックスは敵の残骸を見下ろす。
そして、ローブについていた紋章に目を向けた。
「この紋章、イクリシア・モノポリアのものだ」
キャサリンが恐る恐る尋ねる。
「アレックスさん……。
これから、どうなるんでしょう……?」
アレックスは空を見上げ、ドーナツをひと口かじった。
「安心してくれ。
一度受けた仕事は最後まで請け負う。
それが、私のプロとしての流儀だからな」
そして、小さな戦いの幕が、上がった。