第二話:ドーナツと友達
キャサリンに連れられて、アレックスは市街地から少し離れた公園へ向かった。
「ここで、よく一緒に遊んでたんです」
キャサリンが呟き、辺りを見渡す。
誰もいない。
けれど、確かに何かの気配だけが漂っている。
「……で、その友達ってのは、どこに?」
「呼べば、来ると思います」
キャサリンはポケットからドーナツの包みを取り出した。
「ほら、ポチ。
ドーナツあるよ」
その声に、草むらの奥から何かが姿を現した。
それは、大きくて白い狼のような獣だった。
「狼......!?」
(確かに、言葉は通じない相手か......)
アレックスは思わず声を漏らす。
獣はキャサリンの横に近寄るが、ドーナツには目もくれない。
「あれ……おかしいな。
ポチ、これ好きだったのに」
キャサリンは困惑しながらも、ポチの頭を撫でようと手を伸ばした。
だが、ポチはそれを拒むように身を引いた。
「……これが、喧嘩中ってやつか」
アレックスは腕を組んだまま、ポチを見つめる。
「最近、急にこうなったんです。
前は、私にすごく懐いてたのに……」
キャサリンの声には、寂しさが滲んでいた。
「ポチが……私を避けるの。
理由も分からないままで……」
「思い当たることは何も無いのか?」
「うん……全然思い当たることがなくて……」
(……ただの動物って感じでもないな。
妙な気配をまとっている気がする)
アレックスは慎重に距離を詰める。
しかし、ポチは警戒を強めた。
「警戒しているのか......?」
「ポチ、大丈夫だよ。
この人は敵じゃないから」
キャサリンの声に、ポチはピクリと耳を動かしただけだった。
アレックスはキャサリンに目を向ける。
「キャサリン……この子、いつから一緒にいた?」
「引っ越してきてすぐだから、3、4年前くらいかな……」
「そんなに長く……?」
アレックスはわずかに目を細める。
ただの野生動物が、それほどの年月、少女のそばに寄り添い続けるものだろうか。
(どうにも引っかかるな……。
妙な縁を感じる)
だが、今は無理に聞き出すべき時じゃないと判断する。
「ま、とりあえず……仲直りしたいんだろ?」
「はい……!」
「なら、しばらく俺も様子を見る。
ポチと……ちゃんと話せる方法を考えるさ」
キャサリンはほっとしたように微笑んだ。
「ありがとうございます……!」
アレックスは小さく息をつきながら、白い獣、ポチを見つめる。
(こいつの正体……早めに調べたほうがいいな)
そう心の中で呟きながら、アレックスはドーナツをひとくちかじった。