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プロローグ:ドーナツと交渉人

 陽の傾き始めたユニシティの路地裏。

アレックス・エリダヌスは、息を切らしながら壁にもたれていた。


「……くそ、限界か……」


銀の鎧に包まれた体からは、すでに力が抜けかけている。

 液体金属の装甲は鈍く曇り、ところどころから溶け落ちていった。

 人質解放の依頼の最中、敵の罠に嵌った。

 予想外の戦闘にエネルギーを大きく消耗し、命からがらこの場に逃げ込んだのだ。


「ハウ……エネルギーは、もう残ってないのか……」

(もう無理だ、アレックス。

早くエネルギーを補給しないと維持しておくのも限界だ......)


 いつもの軽口さえ出ないハウの声。

 目の前には、助け出した人質の男がうずくまっている。

 あと少し……あとは護送を完了するだけ......。


「……ねえ、大丈夫?」


 不意に声が響いた。

 振り返ると、制服姿の少女が立っていた。

 年の頃は十四、五歳。

 大きな瞳で、アレックスを心配そうに見つめている。

 見知らぬ少女。

 その手には、ドーナツの袋。

 そして、アレックスの視線は自然と、袋に釘付けになっていた。


「ドーナツ欲しいの......?」


 少女が少しだけ困ったように笑った。


「よかったらあげる……。

本当はポチのために買ったんだけど、食べなかったから......」


 差し出された甘い香りに、アレックスの身体が本能的に反応した。


(アレックス、食え!

今すぐ食え!!)


 迷う暇もなく、アレックスはドーナツを受け取り、かぶりつく。


「……っ、はぁぁぁぁ……生き返る......」


 全身にエネルギーが満ちる感覚。

 ハウの声にも、力が戻ってきた。


(エネルギー補充完了!

これでもう少しは戦える)


 アレックスはようやく少女に向き直った。


「本当に助かったよ……恩にきる。

私の名前はアレックス・エリダヌス。

ネゴシエーターだ。

もし困ったことがあったら、いつでも頼ってくれ」


 そう言って、自分の名刺を差し出した。

 少女は少し照れたように笑い、名刺を受け取った。


「よかった。

とてもお腹が空いていたのね。

見たことないくらい美味しそうに食べていたもの」

「はは......お恥ずかしい......」


 アレックスは苦笑しつつも、残りのドーナツも大事そうに受け取った。


「ごほっ、ごほっ......」


 人質が咳き込んだ瞬間、アレックスは我に返る。


「しまった、こうしてはいられない。

本当に助かった、ありがとう」


 アレックスは深く礼をして、人質を抱え、その場を後にする。 

 取り残された少女は、名刺をじっと見つめた。


「ネゴシエーター......交渉人、か。

......もしかしたら、ポチのことも相談できるかも」


 その呟きは、これから始まる物語の予感を含んで、静かに夕闇に溶けていった。


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