蘭宝石の瞳
彼女は教壇に腰掛けて、どこから持ってきたのか分からない青色のビー玉を手のひらで転がしている。
僕もなんとなく彼女の横に腰掛けて、彼女の手のひらを見つめてみる。
彼女はいつの間にか手のひらでビー玉を転がすのをやめて、教室の白色蛍光灯に透かして眺めていた。
しばらくして、彼女は形の良い唇を小さく開く。
「ビー玉って元は不良品だったんだって。正規品はなんて言うか、知ってる?」
僕はそんなことは全く知らなかったから、素直に分からない、と答えた。
すると彼女は何がおかしかったのか、くすくすと笑い始めた。
「エー玉っていうんだって。」
エー玉?ああ、A玉。
彼女はたまにこういうダジャレを言う。
僕は基本的にそれらをスルーすることが多い。
そして今回も例に漏れず、僕は興味をなくして教壇から立ち上がる。
その瞬間、後ろから腕を引かれたようで、僕は少しよろけた。
彼女は普段、自分のダジャレにスルーを決め込む僕を引き留めるようなことはしないから、僕の袖に何かが引っ掛かっているのだろうと思い振り返る。
すると、僕の予想に反して、僕の袖は何にも引っ掛かっていなくて、その代わりに彼女が僕の袖を強く掴んでいた。
そして、彼女はもともと大きな目をさらに開いて、涙を流していた。
驚いて僕が訳を問う前に、彼女の口が小さく動いた。
「これでさいご、だったの。」
何が、僕はそう問おうとしたけれど、その前にカランと音がして青すぎるビー玉が転がっていった。
そこで僕は彼女の瞳がB玉だったことに気がついたけれど、探してももうどこにも彼女はいなかった。