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邂逅

気がついた時には、住み慣れた部屋を飛び出していた。いてもたってもいられなかったのだ。自転車にまたがり、ペダルに足をつけた時、外の空気に触れ頭が冷えたのか、ある重大なことに気がついた。

 行き先がわからない。

 いったい奴らはどこで暴動を起こしているのか。そんなことも調べずに、飛び出してきてしまった。落ち着け、冷静になるんだ。そう自分に言い聞かせる。スマートフォンを取り出し、ネットニュースに目を通す。目を通してみるが、内容は頭に入ってこない。ふと、先ほど確認したものと同じニュースの「全国各地で〜」というフレーズが目に入る。そうか。全国各地で起きているなら。適当に走ってもどこかで見つかるかもしれないな。そんな馬鹿げた考えが浮かぶ。だめだ、全く冷静ではいられない。鼓動がはっきりと聞こえる。あと三日で止まるとは到底思えない、激しい鼓動だ。

 そんな鼓動に身を任せ、勢いよくペダルを漕ぎ出した。


 

 あれから三時間ほどたったか。いまだ奴らには遭遇していない。やはり無謀だったのか。だとしたら、ここまでかけた三時間はなんだったのか。あと三日しかないんだぞ、僕の命は。仮にその二十四分の一を無駄にしたのならば、あぁ、なんと愚かなことをしたのか!

 すっかり見慣れないものとなった景色の中を、ただひたすら突き進む。絶望の中にいても、不思議と疲れは感じない。喉の渇きも、空腹も感じない。

 これからどうしようか。一心不乱に進んできたのだ、もう帰り道はわからない。用意も何もしてこなかったため、金銭もポケットの中の幾らかの硬貨のみだ。携帯のバッテリーはとうに尽きてしまった。なぜ充電してこなかったのか!腹が立って仕方がない。


 しばらく進むと、あることに気がついた。街中にいるにも関わらず、人が誰一人として見られない。車もここ二十分ほど走っているのを見ていない。たまに止まっている車はどれも無人で、何やら哀愁のようなものを放っていた。平日の十五時過ぎとはいえ、これはおかしい。小学校なら夏休みでもおかしくないはず。無人であるはずがない。

 自転車を止め、周囲を見渡す。やはり、異様なほど人の気配がない。街は静まり返り、不気味な空気を発している。

 ここで、さらに異様なことに気がついた。電気がどこも点灯していないのである。信号機すら、黒一色に染まっている。停電でもしているのか。ここ最近続く地震のせいだろうか。それとも、もしかしたら…

 淡い期待が脳裏をよぎる。静まり返っていた鼓動が、再び音を立て始める。

 その時。


「ドッコオオオオォォォォン」


 凄まじい轟音が、どこからか響き渡る。間違いない。ついに、ついに奴らが、すぐ近くに、近くにいるのか。緊張が走る。と同時に、鼓動の音もより一層大きく聞こえる。だがそんな中でも、僕の脳は意外にも冷静であった。

 武器が、ない。

 自分の手のひらを見つめる。パーカーの裾より先に見えるその手は、間違いなく人間のものだ。僕はまだ変形していない。爆発の方法も、わからない。まだ奴らとは戦えない。


「ドッコオオオオオオオオオオオオォォォン」


 先ほどよりも近い。上がっていた体温が、一瞬にして冷める。しまった。今かちあっても、為すすべがない。相手は爆発を操れるであろう奴らだ。それを僕は、戦う術もなく、戦場に飛び込んでしまったのか。どうしよう。どこからか、パチ、パチという、何かが燃える音が聞こえる。そうだ、警察、警察だ。警察を呼ぼう。そう思いスマートフォンを取り出す。が、電源はつかない。そうだ、バッテリーがないんだった。ちくしょう!

 だめだ、気が動転している。逃げよう、今はそれしかない。そう思い、自転車の向きを反転させる。いやまて、それでいいのか。僕は奴らを止めに来たはずだ。どうせ三日で消える命が、まだそんなに惜しいのか。その考えに、ペダルにかけようとした足が止まる。心音はかつてないほど大きく、僕の脳をより一層掻き乱す。どうしたらいい。

 その時だった。


「ズバアアアアアン」


 すぐ隣で、耳をつんざく轟音と共にオレンジ色の閃光が走った。天と地が逆転する感覚。思考が一瞬止まり、頭が真っ白になる。死んだ?死んだのか?僕は。爆散までの三日を待たずして。まるで時間が止まったかのように、脳内をさまざまな考えが巡った。後悔。怒り。悲しみ。恐怖。

 直後、体が壁に打ちつけられる。痛い。右手に激痛が走った。痛みに悶えつつ、恐る恐る右手を見る。

 「無い」

 思わず声が出た。先ほどまでスマートフォンを握っていた右手が、無い。耐え難い痛みに横たわったまま悶絶する僕の足元に、ちぎれた右手が虚しく転がっていた。


 どのくらいの時間が経っただろうか。いや、まだ一分やそこらか。痛みを堪えながら、僕は立ち上がった。傷口から赤い血液が滴り落ちる。まだ、死んじゃいない。服をちぎり、傷口を縛る。まだ助かるかもしれない。逃げよう。ヨロヨロと歩き出す。だがそんな生への希望も、すぐに打ち砕かれた。

 逃げようとする僕の眼前に、明らかに人の形を成していない、黒っぽい影が立ち塞がった。


七月二十一日 爆散まであと三日

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