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氾濫 ④

 男の変形が終わり、そこにあった姿は、


 紛れもなく、機関車だった。

 、、、本当に、機関車、としか言いようがない。首から先は円筒形になっており、表面は金属のように黒光している。頭の部分には煙突のような器官があり、顎は張り出していて、その下には明らかに車輪のようなものがついている。正面の部分には、金色で何やら数字のようなものが書かれていた。

 胴体は人間のままなので、機関車人間、といった見た目だ。


「ゴ、、、、、ア、、、、、」


 

 機関車男が何か言葉を発そうとしているようだった。

 男は動こうとしない。

 僕は手榴弾を右手に出し、構えた。

 どう出る。

 


「ポオオオオォォォォ」


 男が急に汽笛のような音を発した。

 同時に、煙突の部分から黒煙が噴き出る。

 瞬く間に、空が大量の悪魔で埋め尽くされた。

 あっけに取られる僕をよそに、男は地面に手をつけ、体を震わせ始めた。


「しゅっぽっしゅっぽっしゅっぽッシュッシュッポッポッシュッポッシュッポ」


 異音がだんだん加速する。

 間を空けず、空の悪魔が一斉に僕に飛び掛かる。

 僕は手榴弾を落としながらかわした。

 手榴弾は爆ぜ、悪魔は爆発に突っ込む。

 だが、明らかに先ほどより倒れた悪魔の数が少ない。煙の中から大量の悪魔が飛び出してきた。耐久力が先ほどより上がっている?

 

 悪魔を素手で殴り飛ばす。耐久力が上がったといっても、素体が大したことないのでまだ余裕だ。

 あの男はまだ動いていない。姿は見えないが、音はその場に留まっている。警戒はするが、今は悪魔に専念していい。

 そう思い、男のいた方を見る。

 

 男は目の前にいた。

 

 なっ

 

バコオオオン


 衝撃と共に、僕の体は宙を舞った。

 速すぎる。

 音は確かにさっきの位置から鳴っていた。

 こいつは音より速く動いたというのか?

 自ら発した音が僕に到達するよりも速く、僕に接近してきたのか。


「シュッシュッポッポッシュッポッポッポッポッポオオオオオオオオオオオォォォォ」


 奇声、、、いや、声なのかもわからないが、とにかく奇妙な音を発しながら、男が追撃を仕掛けてきた。

 やっぱり速い。この体になって動体視力もだいぶ上がったはずだが、それでも全く目にとらえられない。音が遅れて聞こえてくるほどの速度。男の踏み込んだ後に残されたクレーターのような窪みが、そのエネルギーを物語っている。

 宙を舞う僕の体に、男は容赦なく連打を加えた。


ズドドドドドドド


 打撃に続く打撃。衝撃に続く衝撃。

 ありったけの拳を喰らわせた後、男は僕の体を思いっきり蹴り落とした。

 僕の体は、信じられないほどの力で地面に叩きつけられた。

 

ぐうっはぁ


 黒い血が口から吹き出した。

 これでも痛みは感じない。だが苦しい。

 意識が飛びそうになる。

 だめだ、今は意識を保て。ここはなんとか耐え切って、反撃のチャンスをまっ

 

ボカァン


 男の追撃は止まない。


「ポッポオオオオオォォォォォォ」


 横たわる僕に数回拳を打ちつけると、今度は頭を鷲掴みにして地面に叩きつける。

 何度も、何度も。


 そんな一方的な暴力が、その後数分続いた。

 

 


 しばらくして、男の手が止まった。

 彼が今まで一心不乱に攻撃していたモノは、今やボロ切れのような姿になり、ピクリとも動きやしない。

 男は殴っていたものを放り投げた。それは、力無くどさりという音を立てて倒れた。

 男の興味はもうそこには無かった。

 橋下からはまだ銃声が聞こえる。

 男は残ったもう一人の獲物を仕留めるため、橋の下へ向かおうと歩き出した。

 

「オい」


 男の後ろで声がした。

 男は振り返る。そこには、今しがた殺したと思っていた者が、ゆっくりと起き上がる姿があった。


 僕の体はすでにボロボロだ。傷は時間が経てば癒えるが、体力はだいぶ削られる。今も立っているのがやっとの状態だ。灰色だったパーカー、、、だった布切れは、血を吸い込んでどす黒く変色していた。

 だからといって、このまま石巻の方に行かせるわけにもいかない。せめて時間だけでも稼がないと。

 、、、僕は死ぬんだろうか?これまで、腕を吹き飛ばされても、銃弾をぶち込まれても、死ぬことはなかった。

 でも今、僕は窮地に立たされている。死んでもおかしくない状況だ。

 嫌だなぁ。死ぬのは。どうせ三日で死ぬのが、今死んでも大して変わらないかもしれない。でもなんか、嫌だなぁ。このまま死ぬのは。

 でも腹を括らないと。せめてこいつを道連れに。できれば、だけど。


「ドコニぃ ぜぇぜぇ 行くンだァ?」


 息を切らしながら、懸命に叫ぶ。


「僕ハマダ生キテルぞ!」


 そう言い、手に手榴弾を取り出す。


「まさかニゲルわけジャぁ ぜぇぜぇ ナイよナア?エエ?」 

「しゅっしゅっしゅ」


 男は再び異音を放ち始めた。


「来イよ!」

「ポッポオオオオオオォォォォォ」


 男は再び僕に向かって来た。

 とうに覚悟は決まっている。

 僕は動かない。手榴弾を持った両腕を広げる。



 

 男の右腕が、僕の体を貫いた。




七月二十一日 爆弾まであと三日

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