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氾濫 ③

ズガガガガガガガガ


 橋の下から銃声が聞こえた。

 石巻は無事らしい。いや、でもなんか違うような?

 まあいい。今は目の前の状況に集中しよう。

 

 先ほどの爆発で、ある程度周りの悪魔を倒すことができた。

 だが周囲は未だ悪魔に囲われており、逃げることはできそうにない。

 男は斧を構え、今にも飛びかかってきそうだ。

 やるしかなさそうだ。

 今しがた口から出した手榴弾を手に取り、すぐピンを抜けるよう構える。

 男が足を踏み込んだ。

 手榴弾のピンを抜き、男に向かって投擲する。

 男はそれをあっさりとかわした。

 手榴弾は地面を跳ね、そのまま奥にいた悪魔に突っ込んだ。

 

ズウウン


 爆発音と共に、悪魔たちが弾け飛んだ。

 悪魔が消えた後には、再び新たな悪魔が現れた。何がなんでも僕を逃したくないのか。

 直後、男の斧が僕の体めがけて振り下ろされる。

 僕は間一髪で直撃を免れた。

 左手の指が三本、橋下の川へ飛んでいった。

 痛みは感じなかった。切られたところから、血液、、、というより、石油か何かのように見える、どす黒い色の液体が飛び散った。


 普通に投擲しても、爆発する前に避けられる。あのごつい図体で、なんでそんなに速く動けるんだ。

 あれに確実に攻撃を当てるためには、、、

 男は斧を振り上げ、先ほど同様、恐ろしい速度で突っ込んできた。

 覚悟は決まった。僕はあえて避けず、向かってくる男に突っ込んだ。

 斧が僕の左肩を貫く。黒い液体が切れ目から噴き出す。

 それと同時に、僕は右手を男の胸元に思いっきり押し当てた。

 その手には、ピンの抜けた手榴弾。

 男は咄嗟に引こうとしたが、僕の体に刺さった斧が抜けない。男は斧を腕に戻した。が、もう遅い。


ズドオォス


 男の体が大きく吹き飛ばされた。

 八メートルほど先で倒れた男は、すぐに起き上がった。

 男の苦しそうな咳と共に、マスクの口の部分から赤い血が吹き出した。

 着用していたエプロンは破れて布切れとなり、ぼとりと地面に落ちた。男は苦しそうに爆発痕を押さえた。


 一方の僕は、右肩から先が吹き飛び、左腕も切り取られており腕がない状態だった。

 やつに確実に手榴弾を当てるには、こうする以外思いつかなかった。腕は再生できるとはいえ、無茶しすぎたか。

 周囲で壁になっていた悪魔が、ここぞと言わんばかりに襲いかかる。

 う、、、ゔぉおええっ

 カランカラン

 僕は手榴弾をいくつか吐き出した。

 そのまま後ろに飛び退く。悪魔の群れは変わらず迫ってくる。

 

ズガアアアアアン


 迫ってきていた悪魔の大群は止まることができず、そのまま爆発に突っ込み、一匹残らず四散した。

 バシュッという音を立て、腕が生えてきた。が、今度は足首から下がない。ちくしょう、靴がなくなっちゃった。


 大男が再び、両腕を斧にして突っ込んできた。僕は這いずったままなんとかかわし、即座に足を再生させた。

 一時的かもしれないが、悪魔の壁が消えた。今なら逃げることもできる。ただ、こいつを野放しにするわけにもいかない。それに、今石巻と合流しても、こいつはどうせついてくる。石巻はなかなか戻ってこないし、銃声も聞こえる。おそらく悪魔と戦闘になっているのだろう。それも、苦戦するほどの量の。状況は良くはならないだろう。そもそもあの超スピードから、逃げ切れるとも思えない。

 ここで倒す。そう決心した。


 この男の早さの秘訣がなんとなくわかった。悪魔が死んだ後の砂がそこら中に散らばっているのだが、男が動く時にそれらが不自然に巻き上がるのだ。

 おそらく、爆発をジェットエンジンのように利用して推進力を得ているのだろう。

 だとすれば、小回りは効かないんじゃないか?

 だとすれば、超近接で戦闘できればこちらにも部があるかもしれない。


 男が斧を振り回して追撃してきた。

 横に大きく振られた斧を、僕は上にかわす。

 そのまま男の頭上を跳び越えると同時に、男の前に手榴弾をぽいと落とした。

 男は右斧でその手榴弾を薙ぎ払い、どこか遠くに弾き飛ばした。

 その隙に、男の背中に左手を押し当てる。

 男は急に振り返ると、押し付けた手を斧でズバッと切り落とした。そりゃそうだ。爆発さえ使わなければ、普通に小回りきいて動けるよな。しまった。

 切り落とされた腕は少し遠くまで吹き飛び、爆炎を上げて爆ぜた。

 同じ手は何度も通用しないってか。

 僕は右手を強く握ると、男の顎下に思いっきり拳を喰らわせた。

 男は一瞬怯むが、続けて蹴りを喰らわせようとする僕の足を、元に戻した手で止めた。そして僕の頭についた導火線を掴むと、そのまま僕を思いっきり投げ、、、


すぽっ


 、、、ん?あ?あれ?

 あっ、導火線(それ)、そんな簡単に抜けるの?

 もっとガッチリついてるものだと思ってた。


 男は導火線がひっこぬけたことに気づいていないようで、そのまま僕を投げ飛ばそうと振り返った。

 僕は隙だらけになった男の脇腹に、思いっきり膝蹴りをお見舞いした。


「グハアッ」


 不意を突かれた男はよろけると、倒れそうになりつつも僕からまた距離をとった。

 僕は頭の後ろを手で確認した。

 導火線はちゃんとそっくりそのまま生えてきていた。

 よかったぁ。

 

「クソッ」


 男は息切れしている。さっきの爆発がだいぶ効いてるようだ。

 男はマスクを整えると、息を荒げて話し始めた。


「ああもういい。もういい。お遊びはいい加減終わりだ。いちいち止めるんじゃねえ。殺してやる。お前はぁ、お前はぁ、ぜってえ殺すからなあぁ!」


 男のマスクから流れる血が、黒っぽい色に変わった。

 続いて、男の肩から上の皮膚が黒く変色した。

 なんか、、、やばそうな雰囲気だ。

 悪魔もなぜか復活しないし、このまま逃げた方がいいか?いや、そもそも逃げられるのか?ここで逃げて背中を刺されるより、ここで正面から受けた方がマシかもしれない。

 すると、男の体の黒く変化した部分が変形を始めた。


「せいぜい後悔しながら死になぁ、爆弾頭ぁ!」


 変形した黒い肉体は、白いマスクを飲み込んだ。


七月二十一日 爆散まで後三日

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