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三十四 お宝の後始末

今日は二話、投稿しています。こちらは、二話目です。



 四人は交代で護宝殿の様子をしばしば探っていたが、おあつらえ向きに、エルジナと宰相はたまに護宝殿に出入りしていた。本来は用のない場所だ。

 エルジナの魔力波動がどこへ動くのかを探り、二階の第二宝物庫らしいとわかった。宰相のほうは二階の収蔵庫に出入りしているようだ。

 その報告を受けて、ダラスとセインは険しい顔になった。

「エルジナは自分が継ぐ宝物を確認しているんだろうな。私が死にかけているからだ」

 ダラスはそう推測した。推測するまでもなくわかりやすい。国王の宮にあるほうの第一宝物庫は王位を継ぐまでは勝手に入れない。護宝殿の第二宝物庫なら入り放題だ。

「宰相が二階の収蔵庫に入っていたのは?」

 ユリシスが問うと、ダラスはまた苦い顔をした。

「二階の収蔵庫にしか入れないからだろう。二階の収蔵庫は、あいつが宰相になる数か月前に新設されたものだ。古い収蔵庫が満杯になったからな。だから、鍵が違う。新しい収蔵庫は護宝殿の鍵と兼用なのだ。宰相でも開けられる」

「二階の収蔵庫には何が?」

「護宝殿の収蔵庫には世間には出せない資料が入っている。もみ消された王族の醜聞とか、裏任務の連中が集めた情報とかだ」

「後ろ暗い宰相が好きそうなものだ」

 セインが苦々しく吐き捨てた。

「新設の収蔵庫にはまださほどのものは入っていないはずだがな」

「むしろあやつの不味い情報が入ってるんじゃないのか」

「裏任務の連中はそこら辺はよくわかってるので、自分たちが危なくなる報告は口頭でしかしない。私も文書では残さない。それより、我らがここを離れる前に、古い収蔵庫のほうの資料をなんとかしておきたいな。王宮に残るのは国の敵ばかりになるのだからな」

「リュウ。協力してくれ」

 ユリシスににこやかに頼まれ、竜也は頷くしかなかった。

 収蔵庫の前には立ち番もいないし、特に困難はない。ダラスが「準備をする」というので、それを待って再び護宝殿に忍び込んだ。

 竜也が新たに作らされた便利袋に貴重な資料を入れてサクっと終わった。ダラスは収蔵庫の鍵を細工しておいた。エルジナは王族の魔力を持たないので収蔵庫は開けられないが、さらに堅固に開かないようにした。どうせ開けても空っぽだが、気付かれるのは遅い方が良い。

 第二宝物庫に関しては「研究者と蒐集家にとっては価値がある。他は二度と手に入らない貴重品でもないし、呪物に関しては、危なくて触れないからな」と、エルジナに残してやることにした。呪物は、始末はおろか近づくことも危険という。残してやるというか、要らないから放置だ。

 古いお宝は、ダラスはもう研究して記録済みなので構わないらしい。

 国王の宮にある第一宝物庫の金銀財宝は、性悪王女には残したくないので小細工をすることにした。イミテーションとすり替える。

 そのため、ユリシスと竜也は国王に小遣いをもらって似た安物を買ってきた。一目で安物とわかると逃げるのに差し支えるので、ダラスとユリシスが細工した。

 クズ魔石を加工して、本物の宝石に見えるようにした。凄腕魔導士の技で、透明度やカットのクオリティを上げた。クズ魔石は最高級の宝石と見まごう輝きを得た。

 竜也は『これって、魔導士の技術料が加わって、もはやクズ魔石じゃないんでは』と、当初の目的を見失ってないかと思う。

 ちらりと見ると、セインも苦笑していた。

(国王とユリシスが楽しそうに加工しているからいいか)

 土台となる金細工なども、二人の魔導士が微細な加工を加え、もう安物にはどう頑張っても見えない。

 それらの二人の技と努力の結晶を宝物庫に収め、本物のほうはまた竜也の作った「便利袋」に仕舞っておいた。


 国王の宮の作業が一段落したころ、竜也はセインに「手伝え」と言われて、闇に紛れてセインの屋敷に向かった。

 セインは屋敷に帰るのは寝たきりになって以来、数か月ぶりだという。

 セインに子供はいない。十歳以上も年上で魔力の低い嫁を押しつけられたからだ。王族が少ないのに子供ができにくい嫁をとらなければならなかった。セインが先々代の王に嫌われていたために。セインの兄である先の王は悪い人ではなかったが、セインを庇うような気概はなかった。

「それって、悪い人じゃないとは思えないんですけど?」

「まぁ、そうだな。だが、嫌いにはなれなかったのでな」

 セインが渋い顔をしている。

 愚王は瘴気の森に生涯行くことはなく、おかげで無駄に長生きした。愚王の後を継いだセインの兄は、神器のあつかいは下手くそだったが熱心に森に通った。そのために歴代王族の中でも特に短命だった。

 なるほど、嫌いにはなれないな、と竜也は悟った。

 セインの嫁は、実家の力が強かった。おかげで、セインは思うように第二夫人も娶れなかった。忙しかったのもある。王族として瘴気の森に行かなければならなかった。

 嫁は、セインはきっと若死にすると思っていたらしい。そうすれば、それなりに裕福だったセインの遺産を継いで悠々自適な生活が待っていると。だが、セインは大方の予想に反して生き延びた。嫁の方が早くに亡くなった。

 セインは夫人が嫌いだったらしい。彼女の実家もだ。

「俺の遺産は、やがてエルジナが継ぐだろうと思っていた。俺は公爵位を得る予定だったが、母の実家が持っていた伯爵位を継いで終わった。俺の資産のほとんども母が残したものだな。それらは、エルジナに渡す気はないんでな」

 死んでしまうのならどうでも良いが、寿命が延びたのでやらん、という。

「了解です」

 セインの屋敷に転移で忍び込んだ。

 屋敷の金庫室は、王宮ほどではないがかなりのセキュリティレベルだった。扉はセインの魔力波動で開くようになっている。金庫室の扉が細工された跡はなかったが、セインの私室が家捜しされた痕跡があった。念入りに元に戻されてはいるが、セインは防犯の魔導具を設置してあったのでわかった。

「侵入者は、嫁の実家関係だろうなぁ」

 セインは「どうせなにもなかったと思うぞ」と平気な顔だ。ダラスに呼ばれて王宮に移るときに大事なものは金庫室に運んでおいたという。

 セインは間もなく死ぬはずだった。長く仕えていた執事には十二分に退職金を渡し、他の使用人たちにも紹介状を書いて暇を出しておいた。屋敷の世話や防犯はダラスが手配してくれたという。

 金庫室の扉を開け中に入り、空になるまでセインの空間魔法機能付き鞄に入れた。セインは金庫室に美酒銘酒の類いも入れていたが、それらも残らず鞄の中だ。趣味で集めた武具もだ。

 気が済むまで片付けをすると、屋敷を後にした。




ありがとうございました。また明日、投稿いたします。

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