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二十五 ルデリアヌ王国、再び


 二人はとりあえず、ルデリアヌ王国の王都に戻ることにした。もたもたしていると高齢の殿下には残された時間がない。

 レジーで移動し、宿や野宿をしながら急ぎ国境を越え王都に向かう。

「リュウ。王宮に忍び込む方法を考えていたんだが、転移魔法を使おうと思う」

 ユリシスは考えた末にそう決めたという。

「さすが魔導士だな。便利な魔法を使えるんだ」

「転移魔法」という異世界な言葉に竜也は密かにわくわくした。

「そう便利でもないが。転移魔法を知っているんだ?」

「そういうのがあるかもっていうくらいは」

 竜也は言葉を濁す。ラノベの情報が不正確なことはわかっている。参考程度のものだ。

 科学とは違う力が使える世界が、ここでの現実だ。

(でも、魔法ならなんでもアリかといえば、そうでもないんだよな)

 この世界なりに辻褄の合わないことは起こらない。魔法だからといっても万能ではないのだ。

(転移魔法なんて飛び抜けたことが出来る時点で、すでに万能感が凄いんだけどさ)

「ふうん? どこまで知ってるんだ?」

 ユリシスは若干、胡乱げだ。

「転移ってくらいだから、行きたい場所に瞬間移動できるわけだろ」

「行きたい場所にいくらでも行けるわけじゃないぞ」

「一度行った場所しか行けないとか、ある程度の制限はありそうだけどな」

「そうだな。転移場所が詳らかにできないと、転移は不可能だな。それに、転移魔法はとてつもなく魔力を喰う。例えば、私が今いる場所からあの岩まで移動するだけで、私の魔力の半分は失われるだろう」

 ユリシスは十メートルほど離れたところにある岩を指し示す。今二人は木陰で休憩中だった。

「たった十メートルで魔力の半分か」

 使えない魔法だな、とつい思ってしまった。

「それに、障害物があるとまたそれを越えるのに魔力を喰う」

「うーん。それで、どうやって王宮に入り込むって?」

 竜也はすっかり期待が削がれた心地でユリシスに尋ねた。

「リュウに伝授する。明らかにリュウのほうが私より魔力を持っているからな。私は王宮で暮らしていた。だから、人気のないところはわかる。転移をする前に風魔法で転移先に障害物がないことは確認するが、転移の魔法陣を使えば障害物の有無を調べる機構は組み込まれてる」

「なるほど」

 転移したところに何かあると不味いもんな、と竜也は想像を巡らす。

「やり方や転移先の指定はリュウに念話を使って伝える。念入りに伝えれば、リュウは転移場所を誤らずに移動できるだろう」

「危険は無いのか」

「大魔法にはどれでも多少の危険は伴うものだ。準備を充分にすればいい。繰り返し試験してから本番に臨もう」

 ユリシスが自信満々にそう言うので、竜也は従うことにした。

 幸いなことに、竜也はそういう変わったことに対しては魔法のセンスがあると思う。狩人の腕は別として。

 きっとなんとかなるだろう。

「転移魔法はこの魔方陣を使うんだ」とユリシスが空間魔法機能付きの袋から分厚い羊皮紙が畳まれたものを取り出した。

 ユリシスは「この魔方陣で城が一つ買えるんだ」と楽しげに言う。

「王家の宝物は凄いな」

 竜也は「これと城が等価かぁ」と古ぼけたそれを眺めた。広げると土台の羊皮紙は真四角で、描かれた魔方陣の大きさは直径一メートルほどの円形。その真ん中に乳白色の魔石が填まっている。

「大叔父上がくださったものだ」

 ユリシスが思い出に浸るように羊皮紙を撫でた。

「大叔父上殿とは仲が良いんだな」

「ああ。エルジナは私に刺客を寄越すような女だ。大叔父上と気が合うわけがない。大叔父上は嫌悪を隠していたが。こっそりと私には色々とくれた。先々代の王が悪逆の王だという話は聞いたことがあるか?」

「ある。王女二人を隣国にくれてしまった、とか」

「そうだ。王に耳の痛い直言をしたり、愚王の悪行を阻止する王女たちだったのでな。それで、愚王は国中から嫌われた。綺麗な王女たちは民に慕われていた」

「そうか」

「大叔父上は、愚王への嫌がらせに宝物庫から色々とくすねていたらしい。それらを私にくれた」

「大叔父上殿の瘴気払いは成功させないとな」

 竜也が言うと、ユリシスはこくりと頷いた。

「こいつをぜひ使いこなしてくれ」

 ユリシスが魔方陣をトンっと指で叩く。

「ずいぶん複雑なんだな」

 魔方陣は細かく描かれていて見ていると目眩がしそうだ。

「転移魔法を可能にする魔方陣だからな。その昔、空間魔法属性を持っている魔導士が設計したと言われているが、どうだかわからない。魔方陣は空間魔法属性を持っていなくても描けるしな。この魔石が肝要なんだ」

 とユリシスは乳白色の魔石を指し示す。

「大きさはさほどでもないな」

 竜也が素人丸出しのコメントを入れる。

「空間魔法属性を持っている魔獣の魔石だよ。この魔石で、この魔方陣の価値が決まったようなものだ。こいつがないと稼働しないのだから。空間魔法属性をもつ魔獣は転移で逃げるから、白金級の狩人でも狩るのが難しい」

「よく狩れたな、さすが白金級」

 へぇ、と魔石を見直すが、綺麗でもないし見た目は地味だ。

「私の空間魔法機能付きの袋も同じ魔石が使われている。これも大叔父上がくれたものだ」

「え? シスの、その便利袋?」

 竜也は思わずユリシスが肩にかけている年期の入ったダッフルバッグに視線を向ける。

「今更か? リュウが私の国宝級の袋に驚きもしないでいるから、肝が据わってると思っていた」

 ユリシスが苦笑する。

「いや、まぁ、うん」

(空間魔法機能付きの袋を作れるって言ったら駄目な雰囲気だな。言わないでおこう)

 空間魔法属性の魔力がないと作れないなんて、竜也は知らなかった。

(頑張ったら出来ただけだしな)

 もしかしたら、空間魔法属性を持っているのかもしれないが、自分の力で転移できる気がしない。

 せっかく魔方陣があるのだからこれに頼ればいい、と竜也はこっそり言い訳をした。


 その後、ルデリアヌ王宮を目指し移動しながら転移魔方陣の使い方を習い、王都中央に着くまでに短距離の転移魔法は確実にできるようになった。


ありがとうございました。

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