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二十一 追跡者

今日、一話目の投稿です。




「へぇ。王妃が浮気?」

 竜也は興味津々にシスに問い返す。

「極秘だぞ」

 シスは声を低めた。

「いいのか、話しても?」

「中途半端に知ってるよりも、しっかり話して秘密を守ってもらった方がいい。それに、王宮勤めの者ならおおよそ聞いている。派手にやらかしてたのでな。王室管理室や王宮中枢は内々で処理したつもりになっているが、王妃は頭の悪い女だったのでバレバレだったんだ」

「なるほど」

 シスの話は具体性に欠けていたが、言いたいニュアンスは通じた。

「王妃は国王を好きでは無かった。国王はいわゆる典型的魔導士だったんだ。自分の魔導技術を向上させたり研究したりすることが何よりも好きで、王妃のような派手好きな貴族女性とは性格的な接点が一つもなかった。だが、政略結婚で決まってしまった。そんな王妃が、好みの近衛と浮気しても不思議は無い。裏の事情を知らない者から見ても、浮気してるだろうと推測して当たってるような国王夫妻だった」

「色々、悲惨だな」

「まったくだ。もっと普通の王妃を選ぶべきだった。でも、節度ある浮気なら問題なかった。長らくお気に入りだった一人目の浮気相手が訓練中の事故で亡くなったのち、王妃は若い美形の近衛に目を付けた。それで、無理矢理、相手をさせ始めた」

「あー、王妃は美人?」

「若い頃はな。亡くなる前はけっこう太ってたし、不摂生が祟って肌や何かの状態も年齢より老けてた。あんなに美容に金をかけていたというのに」

「性格も悪そうだし。近衛は気の毒だな」

「そうなんだ。よほど嫌だったらしい。上司に相談して、近衛隊長は陛下にチクってしまった。それで証拠固めをしてから、王妃は毒杯を賜った。表向き病死したことになっているが、あんな元気で夜会好きな女が突然死んだのでな。不摂生のせいで体を悪くしていたと宣伝されたけどちょっと無理があった。若い近衛が嫌がっていたのもそこらに漏れてて有名になってたし」

「そんな有名な話が極秘なのか」

「もちろん、表だって口には出来ないさ。国の中枢が秘密にしたがってるんだから」

「そりゃそうか。でも、王妃の産んだ」と言いかけて竜也は慌てて口を閉じた。それはさすがに駄目だろう。

「ハハ。誰でもそれを疑うよな。でも、王妃を母とする第一王女は、王族の魔法属性を持っていた。王妃の浮気相手である近衛の子だったら、そうはならないんだ」

「そ、そうか」

 となると、王妃の浮気相手は一人じゃ無かったのか、と竜也は推測した。

 だが、それでも気になることはある。

「でもさ、そんな浮気な王妃を母とする王女であれば、やはり父親鑑定みたいなのをしないのか」

「どうやって?」

 シスが首を傾げる。

「魔力波動を測れるんだろ? それで魔導具で登録することがあるくらいなんだから。それを応用して、魔力波動から親を推測できるんじゃないのか」

「すごい考え方だな。一見、理論的ではある。だが、無理だろ。登録の魔導具は、ただ単に魔力波動を覚え込むだけだぞ。それらの魔力波動から親を推測するなんて、出来るわけが無い」

「そうなのか」

「それに、王族の魔法属性は四属性だ。世界を見渡しても滅多にいない。だから、魔法属性さえわかれば父親鑑定は事足りる」

「なるほど」

 もしやこの国、あるいはこの世界にはDNA鑑定みたいなものはないのか、と竜也は気付いた。

(でも、稀に魔法属性は両親の属性が足される場合があるってのにな)

 死んだ王妃はよほど悪運が強かった。それで、浮気相手との子に稀な魔法属性の追加があった。だから、バレなかったらしい。

「親子鑑定ができる優れものの魔導具を開発できたら、大金持ちだな」

 シスは屈託無く笑った。

(大発見クラスの魔導具みたいな能力だったのか。魔力の色が見えるってのは)

 竜也はぞわぞわとした嫌な予感で背筋が寒くなる。

 ご託宣の求めていた救世主って、もしかしたら、俺だった? と、ちらりとそんな考えが浮かんだ。

(神様には悪いけど、王宮から追い出された身だし。魔力の色が見えたからって証拠にならんし。知らなかったことにしよう)

 竜也はルデリアヌ王国を離れられた幸運を、今更ながらしみじみと思う。

(でも、シスはいいんだろうか)

 竜也は隣のシスをちらりと見る。

「シスは、図らずも祖国を置いて出てきてしまったわけだが」

 竜也が言いかけると、シスは「図らずもではないぞ。しっかり図って出てきた」と笑顔になる。

「そ、そうか。でも、ルデリアヌ王国は瘴気が増えているのだろう。これから大変になる。残してきた家族や友人知人に思うことはないのか」

「ないな」

 シスが即行で首を振る。

「職場の同僚とか」

「同僚で気の合った者は皆、凄腕魔導士だ。心配はないな。それに私の元職場は魔法学研究所だが王立の機関ではない。国からの無茶ぶりは断れるからさっさと逃げられる。家の者が国の重鎮とか、しがらみがなければだけれど」

「なるほど」

「唯一、気になるとしたら大叔父上だが。気にしても仕方がないのだ。もう引退されているしな」

 とシスは寂しげに呟く。

「両親とかは?」

 竜也は建国祭のときのことを思い出していた。あのバルコニーにいたユリシスの家族は、第一王女の他には、大叔父上らしき魔導椅子の男性と国王がいた。

「母は安全な実家に帰っている。父は魔導にかまけすぎた。少しふがいなかったな。立派な父とは思うが」

 シスが遠い目をする。

 そうだよな、庇ってもらえなかったのだからな、と竜也は痛ましく思った。


 ヘイネスの快適な宿でもう一泊しようかと追加を頼んだところ、宿の主から申し訳なさそうな顔で「すでに予約が入っておりまして」と断られた。

 仕方が無い。シスと二人で少しランクの下がる宿に移った。ここではあと二泊くらい過ごす予定だった。町には面白い店がたくさんあるのだ。食事も美味く、二人はかなりここが気に入っていた。

 遅めの朝食を終えて宿からふらりと通りへ出て歩いていると、身なりの良い一群が丁度、数台の魔導車から宿へと降り立ったところだった。

(ふうん。どこかの貴族家、という感じではないな。上級役人ご一行様か)

 遠目に見ていると、ふいにシスが表情を強ばらせたのが横目に見えた。

 竜也はシスの反応で、連中がルデリアヌ王国関係者であることに気付いた。

 さりげなくシスを隠すように体を移動させ、「行こうか」と小さく声をかける。

「ああ」

 シスはすぐさま彼らから離れる方向へと足を進め、竜也もそれを追う。

 下手に走ると余計に目立つだろう。人の流れに沿うように足を速める。通りから横道に入りさらに人気のいない方へと足早に移動していると、追ってくる気配に気付いた。

(なんだ? 足音はしないのに? 妙だ)

 足音を消して追ってくる存在、と即座に理解し、「マズい!」と思った瞬間には体が反応していた。足を強化し、シスの腕を掴んで一足飛びに走り始めたところに魔力を感じた。

 先ほどまでいた場所に魔法の気配。鞭がしなるような、空気が切り裂かれるビュンっという乾いた音。次いで、バシリっと、地面を打つ音が響いた。

 二人は足を速めたが、追っ手の足が速い。

「迎え撃つか?」

 竜也は風魔法で声を届ける。

「出来れば生け捕りにしたい」

 迷うようなシスの声。

 斃す方が簡単だ。だが、敵の正体は知りたいと竜也も考えた。

(こんな最中に人を殺しても精霊石は濁るんだろうか)

 と疑問が浮かぶが、振り払う。そんな迷いは危険だ。

 竜也は必死に相手を捕獲する方法を考える。

(奴は、鞭みたいな縄を使ってたな。なんて魔法だろう)

 風の魔法のような感じがあった。火の熱は感じなかった。水の冷たい湿り気もなく、明らかに土ではなく、空気の動きがあったのだ。

(風の縄? だろうか)

 それなら出来るような気がする。

 竜也は走りながら相手の魔力を探知する。

 後方、数メートル。近い。

 おそらく、こちらの力を測っている。

(ルデリアヌ王国の間諜か)

 上級官僚たちと一緒に移動していた護衛かもしれない。

 ついていなかった。だが、うまく捕らえて情報を仕入れれば、王宮がユリシス王女の生死をどう考えているのかがわかるかもしれない。

 風の鞭が後ろから旋風のように繰り出されるのを竜也は視線の端に見た。

(くそっ!)

 竜也の方にはカマイタチが飛ばされてきた。王女は生け捕り、連れは殺すという方針らしい。

「リュウ!」

 シスの声。

(敵に名前を教えちゃ駄目だよ、姫様)

 竜也は結界でカマイタチを弾くと、風の縄を魔力で作り上げ、敵がいる後方に放る。

 敵の男の姿をようやく振り返りざまに見た。

 薄い灰色の髪に水色の目。カマキリのように痩せた男だ。もう少し肉が付いていればそこそこ美男かもしれないが、どう飾っても悪役風だ。

 竜也がカマイタチを弾いたところで男の目が見開かれたが、縄に絡まれたシスの方にわずかに注意がそれた。

 竜也はその隙を逃がさなかった。竜也の風の縄が男に巻き付く。

 縄がきつかったのだろう。「うぐぅっ」と苦しげな声をあげて男の顔が歪んだ。

 シスのほうを見ると男の風魔法でシスは無残に転んでいる。

(乱暴だな。姫が怪我しただろーが)

 すぐに駆け寄ったが、すでにシスは苛ついた様子で男の風の縄を切り裂いていた。さすが、魔導士の姫だ。

 男を縄でぐるぐる巻きにして転がすと、憤怒顔のシスが男の頭を鷲掴みにした。

 姫らしくない乱暴な所業に竜也が呆れているうちに、男はガクリと項垂れた。気絶したらしかった。シスが何かやったのだろう。



ありがとうございました。

夕方にもう一話、投稿いたします。

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