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暑中見舞いとタコ焼き

 林くんから届いた暑中見舞いには、『祭』という一文字がレタリングされていた。


 真っ赤に(いろど)られた『祭』という文字は、ハガキから飛び出してくるのではないかと思うくらいに生き生きと描かれており、今にも踊り出しそうな勢いだ。


 林くん、祭りに行きたいのかな。


 そう思った僕は、林くんを近所の祭りにでも誘おうかと考えたが、夏休み中にわざわざ部活の先輩に会うのも面倒だな、と思い直してやめた。



 翌日の昼、僕が部屋で漫画を読んでいると、林くんから電話がかかってきた。


「シロ! 祭り行こうぜ!」


「あー、僕ちょっと人混みが苦手なんで、やめときます」


「どこの祭りに行く?」


「……聞いてます? 人の多いところに行くと疲れちゃうんで、行きたくないです」


「うちの地元の祭りはもう終わっちゃっててさぁ。お前んちの方で、なんか祭りやってないの?」


 その後も、林くんは僕の意向などお構いなしに話を進めようとするので、観念した僕は地元の祭りに林くんを誘うことにした。


「来週の土日、うちの近所でお祭りがあるんですけど、来ます? ちょこっと屋台が出るくらいですけど」


「よし、気合い入れて行くから待ってろ!」


「そんな、気合い入れるほどの祭りじゃないです」


「土曜の夕方五時に、シロがいつも降りる駅まで行くから、迎えに来いよ! じゃあな!」


 林くんは、一方的に待ち合わせの時間と場所を僕に告げると、返事も待たずに電話を切った。





 祭りの日、約束の時間に駅まで迎えに行くと、林くんの隣には伊藤先輩もいた。


「俺も来ちゃったー」


 伊藤先輩がテヘっと笑う。

 カラフルに染められた髪は、半分だけ長髪で、もう半分は刈り上げられている。


「……ヘアスタイル変えたんですね」

 という僕の声かけに

「斬新でしょ。俺はビジュアルが売りだからねー」

 と伊藤先輩がドヤ顔をする。


 奇抜な髪型の伊藤先輩と、金髪をオールバックにして気合い十分の林くんは、嫌というほど悪目立ちしていた。


「……行きましょうか」


 僕は少し憂鬱な気持ちになりながら、二人と一緒に屋台の並ぶ通りへと向かった。



 神社へとつながる通りには、ずらりと提灯が吊り下げられ、道の両側には沢山の屋台が立ち並んでいる。


 僕たちは人混みをかき分け、フランクフルトやカキ氷などを買って食べ歩きしながら、祭りの雰囲気を楽しんだ。


 林くんがヨーヨー釣りに挑戦しているところを伊藤先輩と一緒に覗き込んでいると

「あれ、もしかして城崎じゃね?」

 という声が背後から聞こえてきた。


 振り返ると、中学時代の同級生がいた。


「あっ、篠田だ。久しぶり」


 僕が挨拶すると、篠田はチッと舌打ちして僕の胸ぐらを掴む。

 篠田の後ろには、中学時代からつるんでいる仲間たちも数人いて、ニヤニヤしながらこちらを見ている。


「呼び捨てにすんなよ」


 そうだった。

 何故だか知らないが、篠田は呼び捨てにすると怒るのだ。


 彼の顔を間近で見て、中学の頃とはヘアスタイルが違っていることに気付いた。


 トップやサイドは短めなのに、もみあげと襟足(えりあし)だけが、やたらと長い。


「あ、そうだったね。ごめんごめん。それより篠田くん、髪型変えたよね。もしかして駅前の床屋で切った? あそこに置いてある古い漫画の主人公と、髪型そっくりだね。昔のヤンキーに憧れてるの?」


 僕が『昔のヤンキー』と口にするや(いな)や、篠田は思い切り僕の顔面を殴りつけてきた。


 周囲で悲鳴が上がり、近くで見ていた子供たちが泣き出す。


「てめぇ! シロに何してんだ!」


 林くんは威勢よく立ち上がって篠田に掴みかかろうとしたが、腹に蹴りを入れられ、一瞬でKOされてしまった。



 林くん、見かけによらず喧嘩が弱いんだなぁ。



 篠田からボコボコにされながら、僕はそんなことを考えていた。





 屋台のおっちゃん達が止めに入ってくれたおかげで、何とかその場はおさまり、僕は林くんに謝った。


「巻き込んじゃって、すみませんでした」


「シロ! こういう時は、『すみません』じゃなくて『ありがとうございます』って言え!」


「何でですか?」


「シロのこと守ってやっただろ! 俺、カッコよかっただろ!」


「林くん、すぐにダウンしちゃったんで、守ってもらえてないですし、カッコよくも無かったです」


「なんだとこのやろう!」


 林くんがブチ切れたところへ、今まで姿を消していた伊藤先輩が戻ってきた。


「あ、終わったー?」


「今までどこに行ってたんですか?」


「なんか、喧嘩が始まったからさー。怖いなーと思って逃げて、その辺ぶらついてた」


 よく見ると、伊藤先輩の手にはスーパーボールの入った袋や、タコ焼き、射的の景品らしき水鉄砲などが握られている。


「祭り、楽しーね!」


 伊藤先輩は無邪気な笑顔を浮かべ、爪楊枝(つまようじ)の刺さったタコ焼きを林くんに差し出す。


 林くんは、それをパクリと口に入れ

「うめぇ! 俺も買ってくる!」

 と言って、ダッシュでタコ焼き屋へと向かった。


「城崎もタコ焼き食べる?」


「いいです。僕、焼ソバ派なんで」


「何それウケるー。そんじゃ、林が戻ってきたら買いに行こっか」


 のんびりした伊藤先輩の話し方に、ささくれ立っていた気持ちが(なご)んでいく。


「あの……僕って失言が多いですか?」


「シツゲン?」


「なんか僕……言っちゃいけないことばかり言って、人を怒らせちゃうことが多いっていうか……」


「ふーん、そうなんだ。みんな怒りっぽいんだね。俺は別に城崎と話してても腹立たないけど」


「……心、広いっすね」


「よく言われるー」



 伊藤先輩と話していると、心にかかった(もや)が、少しずつ晴れていく。



「また三人で、どっか行きましょうよ」


「いいねー。じゃあ次は、海かプールね」


 そこへ、タコ焼きを二パック抱えた林くんが戻ってきた。


「シロの分も買ってきてやったぞ!」


「いや、僕は焼そば派なんでいらないです」


「おごってやるから食えよ!」


「いらないですってば」


 押し問答の末、無理矢理タコ焼きを手に押し付けられた僕は、仕方なくお礼を言って食べ始めた。


「あっ、意外と美味しい」


「だろ?」



 林くんや伊藤先輩と一緒に食べるタコ焼きの味は、なんだかやけに美味しく感じられて、殴られた痛みさえも、いい思い出にできそうな気がした。

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