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最後のミッション

 卒業式の朝、校門の前に置かれた立て看板の文字は、林くんがレタリングしたものではなく、書道部の部長が書いたものだった。


 林くんの卒業と共にレタリング部は廃部になることが決定しており、僕は高三の四月から美術部の所属となる。


 これまでに林くんが引き受けてきた立て看板や横断幕などの依頼は、書道部と美術部が協力して引き継ぐことになったそうで、ポスターや冊子などの印刷物に関しては、コンピューター部のグラフィック班が請け負うということで話がまとまったらしい。




 卒業式当日、会場に現れた林くんの髪色は、かなり黒っぽくなっていた。しかも、あれほど嫌がっていたメガネまでかけている。


 式典が終わると、卒業生は最後のホームルームを受けるために教室へと戻っていき、僕たち在校生は会場の片付けを手伝った後、卒業生を見送るために校庭で待機することになった。


 卒業生が校舎から出てくると、後輩達はそれぞれが親しくしている先輩のところへと駆け寄っていく。


 林くんの姿を探して周囲を見回していると、向こうが先に僕の姿を見つけてくれた。


「シロ!」


 卒業証書の入った筒を振り回しながら、林くんが僕の方へと近付いて来る。


「卒業おめでとうございます」


「おう」


「暑中見舞いと年賀状、毎年忘れずに送ってくださいね」


「あー、そうだったな。よし、任せとけ。忘れずに送ってやる」


「お願いします。それじゃあ僕、そろそろ帰りますんで」


「もういいのかよ! ずいぶんアッサリしてんな!」


「だって、またすぐに会えるじゃないですか」


 これまでに貯めたバイト代と今年のお年玉を合わせると十万円以上あったので、僕は林くんたちの卒業旅行へついて行くことにしたのだ。

 出発は三日後だから、寂しさなど感じる暇もない。


「ドライな奴だな! 学校で会うのはこれが最後なんだぞ!」


 そう言われて、ぼくは春からの学校生活を思い浮かべてみる。


「……確かに、四月からは林くんが学校にいないと思うと、少し寂しいですね」


「だろ!」


「たまには連絡くださいね」


「仕方ねぇな、そこまで言うなら暇な時にでも連絡してやるよ」


「あっでも、頻繁に連絡してくるのはやめて下さいね。たまにで大丈夫なんで」


「何でちょっと迷惑そうなんだよ!」


 林くんが怒り出したので、僕は話題を変えることにした。


「そういえば、今日はメガネしてるんですね。ダサいから嫌だって言ってたのに、どうしたんですか?」


「それがさぁ、聞いてくれよ。この前うちの親父が急に、『これからは社員として働くんだから、ちゃんとコンタクトをするかメガネをかけるかしろ!』って言い出して、俺をメガネ屋に連れて行ったんだよ。最初は買う気なんてなかったんだけど、試しに色んなメガネをかけてたらすっごく可愛い店員さんが寄って来てさぁ。『わぁ素敵! お客様はホントにメガネがよく似合いますね』なんて褒めるもんだから、思わず買っちゃったんだよね」


 話しながら、林くんの頬がゆるむ。


「……もしかして、その店員さんのこと好きになっちゃったんじゃないですか?」


「すげぇ! 何で分かったんだ? お前やっぱり超能力者だろ!」


「林くんの身近にいる人なら、たぶん誰でも分かると思います」


「そうかぁ? まぁいいや。今からその店員さん(あて)にラブレター書こうと思ってるとこだから、シロも手伝えよ」


「レタリング部としての、最後の活動ってことですね。いいですよ」


「よし! 阿部先生のところに美術室の鍵を借りにいくぞ!」


 駆け出す林くんの後を、僕も追う。



 林くんと過ごす高校生活は、今日でおしまいだ。

 だけどきっと、これからもずっと。

 僕たちは喧嘩をしたり笑い合ったりしながら、くだらなくて楽しくて幸福な時間を、共に過ごしていくに違いない。

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