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9.信との出会い


 「縁!」

「新平!」

二人は親分の配下にある茶屋の奥で会うことになり、久々の再開に喜んだ。

それぞれの近況を話し、差し入れとして出されたお菓子に舌鼓を打った。

聞けば新平も留吉について下働きから始めているそうだ。

「早起きしててよかったよ、他の下働きと違って起きるのに苦労しねえ」

「新平お前もか、おいらもだよ」

仕事が終わると他の仲間と共に読み書きをならっているという。

「燕姐さんたちが出立する前に一度会いに行けたんだ、お前の仕事先もそこで聞いた」

「新平会いに行けたんだ、いいな」

「また都に戻ってきたら縁にも会いに行くって言ってたよ」

その時に親分が手紙を届けてくれるという事で、習ったばかりの字で手紙を書いたそうだ。


お互いにこれからも手紙をやり取りしようと約束をしていた時、どかどかと店の中に人が入ってくる音がした。

酒にでも酔っているのか大声で話している。

「おい早く酒をもってこい」

「何だ、まずそうな団子だな、他につまみはねえのかよ」

そう言って茶くみ娘を捕まえて相手をしろと騒ぎを起こしていた。

店主は

「ここは茶屋ですので酒などはありません、娘たちをはなしてくだせえ」

そう言って頭を下げているのだが、

「無礼な、われらは旗本だぞ!早く酒を持ってこい」

「町人風情が失礼だ」

「娘がわれらの相手をするなど光栄に思え」

そう言って娘たちの胸や尻を触る。

奥の席からそれを見ていた新平と縁は石礫をそれぞれ懐から出して確認した。

「縁、お前眼鏡と手ぬぐいをしとけよ」

「わかった」

そう言ってそっと奥から裏口へと向かい、そこから店の入り口に戻って行った。

店内の騒ぎに人だかりができているが、旗本たちを恐れて手出しができないようだ。

その人ごみの隙間から、新平と縁は石礫を旗本の手にぶち当てた。

「いてっ」「なんだ?」「誰だっ」

そう言って石礫が飛んできた方を睨んだ。

「逃げるぞ縁」

「うん」

そう言って走り出した二人だったが、

「待てよ、ちびども」

そう言って二人は襟首をつかまれた。

どうやら外に三人の仲間がいたようだ。

「町人の分際で旗本に悪さをするなどゆるせぬなぁ」

そう言って縁と新平の二人を地面に投げ出した。

「「いてっ」」

転がった二人に旗本は足を振り上げ、蹴りつけた。

二人が蹴られている間に中にいた三人が外の様子に気がついたのか出てきた。

「おぬしら、この小僧どもが何か投げつけておったぞ」

「何だと?」

「生意気な」

「なんだ?この手ぬぐいは」

中の一人が縁の手ぬぐいを取り去ってしまった。

「あっ」

縁が慌てて手をのばしたが、届かなかった。

「何と、異国のものではないか」

「本当だ」

四人の旗本は驚いてじろじろと縁を眺めまわしている。

「異国人を見るのは初めてだ」「わしもだ」「わしも」「しかも子供の異国人とは」

「縁は異国人じゃねえ」

じろじろと不躾に見る旗本に腹を立てたのか、新平が思わず言い返してしまった。

「ほう、異国人じゃないと」「ならばただの町人、という事だな」

「異国の風貌で町人とは面妖な」

「のう、異国の風貌の血の色はどうなっておるのか知っておるか?」

そう言って一人がすらりと腰の刀を抜いた。

「やめろ」

縁をかばおうとした新平を別の旗本が蹴り飛ばした。

「・・・」

縁は自分に向いている刀におびえて腰が抜けてしまった。

後ずさりをしようにも手足は動かない。

はくはくと言葉にならない息が洩れる。

周囲の人々も刀を振り上げる旗本を止めることもできず、息をのんでいた。

縁はあまりの恐ろしさに目をつむってしまった。


ガキィーンと音がして、誰かが縁の目の前に立ちはだかっている。

「?」

「貴様ら、旗本のくせに町人にむかって刀を抜くとは、旗本の風上にも置けん。

しかも相手は子供、恥を知るがよい」

そう言ってその人は四人を次々に刀の峰で叩き潰した。

「安心せい、峰打ちじゃ」

「「「「ううぅ」」」」

「どこの御家中の家来か知らぬが、この都でその様な狼藉は許されぬぞ」

やがてのろのろと立ち上がった四人はお互いに支え合いながらこそこそと逃げ出していった。


「大丈夫か?」

そう言ってその人は手を差し出して縁と新平を立たせてくれた。

そのまま茶屋の奥に戻って手当てをしてくれた。

「俺は信、貧乏旗本の三男坊だ」

「おいらは縁です、助けてくれて、あの、ありがとう」

「俺は新平です、ありがとうございました」

「縁と新平か、しかしなんで絡まれておったんだ?」

シンに尋ねられ、縁と新平は旗本たちの傍若無人ぶりに腹を立てて石礫を当てた事を話した。

「ふ~ん、まあ勇気あるとはいえんな、命は大事にせねばならんぞ。

まずは番屋に行って大人を呼ぶ方がよっぽど安全だ」

「「はい」」

「だが、人を助けようとした志は見上げたものだ」

そう言って信は二人の頭をなでた。


その後、縁の生い立ちから今の生活まで信に聞かれるがまま話した。

小舟で流れ着いたこと、養父母に育ててもらったこと、養母が亡くなり養父から引き離すために都で仕事につくことにしたこと、青空燕一座と一緒に上京してきたこと、新平は大工見習い、縁は剣術道場で住み込みをしていることを話した。

「なるほどな、なかなか数奇な運命だな」

そう言って団子をほおばりながら信がいう。

同じように団子をほおばりながら縁も新平もへへっと笑った。


その後、「あ、あか・・信様!探しましたぞ」そう言って大汗をかいた旗本がやってきて信に小言を言っていた。

その侍に新平を託し、信は縁を送って行ってくれることになった。

「また勝手な事を」

「そう言うな、勇気ある子どもだ、ケガの説明もしてやらねば棟梁も心配するだろう?」

「そりゃそうですが・・・」

「俺は縁がいるという剣術道場の爺様に久々に会ってくる」

「わかりましたよ、そのまま道場にいてくださいよ!」

「わかっておる」

「縁といったか?この御仁はふらふらとどこかへ行ってしまう風来坊でな、わしが行くまで剣術道場に閉じ込めておいてほしいと師範に伝えておいてくれないか?」

必死な様子に縁は必ず爺様に伝える、と約束をした。


新平とはまた休みに会う約束をして二人はわかれた。





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