6.新平の出立
「伴次、ご苦労だったね」
「いえ、姐さん縁の奴ががんばったからでさあ」
「縁、お前やるじゃないか」
「へへへ、おいら夢中で」
「縁、ありがとうな」
燕へ報告すると燕はとても喜んでくれた。
「さて、新平は決まったが、縁、あんたはどうするんだい?」
「どうしよう」
「縁、明日から新平とお軽と一緒に口入屋に行ってみな」
「口入屋?」
「仕事を紹介してもらうところだよ、お軽が行けばうちの知り合いだってすぐわかるからね」
「わかった」
「新平も一緒に行ってみるかい?」
「うん、縁が心配だからな」
次の日、燕はお軽に手紙を持たせ、三人で口入屋へと向かった。
「おや、お軽さんじゃないか。
今日はどうした?何か人手が必要になったのかい?」
店の中心に座っていた年配の男性がそう言って近寄ってきた。
燕の一座で人手が必要な時にはこの口入屋を通じて紹介してもらっている。
「旦那さん、今日は住み込みで働けるところを紹介してもらおうと思ってね。
これ、燕姐さんから預かってきた手紙だよ」
そう言って渡された手紙を読んだ主人は、三人を奥の部屋に連れて行った。
「手紙を読んだよ。
そのメガネと手ぬぐいを外してみてくれるかね?」
そう言われ、思わずお軽を見ると彼女はしっかりと頷いてくれたため、縁は眼鏡と手ぬぐいを外した。
「おや、これは・・・」
そう言って主人は驚きを隠せない様子で縁を見ていた。
「ここまで異国の風貌だと目立つねえ」
「そうなんですよ、でも都ならちっとは異国の方もいるでしょう?
この子に仕事を見つけてもらいたいんですよ」
う~んと言って口入屋の主人は腕を組んでうなった。
「異国の人が増えてきたとは言ってねえ、子供はほとんどいないんだよ。
まあ、燕さんの依頼だから探してみましょう」
「ありがとうございます」
だが、二日目も三日目も縁の仕事は見つからなかった。
やはり異国の風貌をした子供を働かせていると目立ってしまうのだ。
商家であれば特に周囲の目を気にするもの、縁が働けるところは簡単には見つからないだろう。
今後も働き口を何とか探してみようと口入屋の主人に言われ、縁はがっくりとしたまま口入屋を出た。
「元気をお出し、あの旦那なら何かしら見つけてくださるさ」
「そうだよ、縁が楽しく働けるところがきっとあるよ」
お軽も新平もそう言ってくれたのだが、縁は自分の容姿がかなり異質であることをここにきて更に感じることになった。
一座に戻った縁はがっくりとしていた。
明日には新平が棟梁の家に移動してしまう。
それまでに仕事を見つけて、新平を安心させたいな、と思っていた縁は、どうしようもない思いになっていた。
「縁、行ってくるよ」
「新平、頑張れよ」
「ああ、縁も仕事が見つかったら教えてくれよ」
「うん・・・」
「大丈夫さ、きっと」
「そう・・だよね」
「そうさ、元気だしな。また会いに来るからよ」
「うん」
そう言って新平は燕たちにお礼を言って一座を後にした。
小さくなっていく新平の姿を見ている縁の目からは涙があふれていた。
「元気をお出しよ、今生の別れじゃないんだ、笑っておくっておやり」
燕がそう声をかけ、手ぬぐいをそっと差し出してくれた。
縁は涙をぬぐうとにかっと笑って「新平~がんばれよ~」そう言って大きく手を振った。