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3、旅の一座


縁と新平のに都行きの話は弥平から長屋の皆に伝えられた。

お静が亡くなった後の権平の様子は長屋の皆も心配しており、漁師仲間の男衆は毎日漁に連れ出そうとしていたのだが、あまりにも暴れるため、手の付けようがなかったのだった。

長屋のおかみさんたちも縁が殴られないようにと、それぞれの家にかくまったりしたのだが、結局権平が家の中まで来ては縁を引きずって行ってしまうこともあり、心を痛めていたのだ。

縁も、自分を育ててくれた恩を感じており、長屋の皆が手を貸そうとしても、権平の為に、と戻ってしまうこともあり、権平から離れる縁の決断を喜んでくれた。


新平の両親は新平も一緒に行くことを始めは反対していたのだが、兄たちがそろって

「一人くらい漁師以外の道を目指しても面白いじゃねえか」

そう言って後押しをしてくれた。

「縁が一緒なら大丈夫だよ」

そう言って、新平の家族も都行きを賛成してくれたのだった。


弥平が中心となり、長屋の皆の協力の元、縁と新平の準備は着々と進んでいった。


「縁、新平、お前たちに引き合わせたい者がおる」

そう呼ばれて網元の家まで行くと、高田様と一緒に一人の女性が座っていた。

長屋のおかみさんたちとも違う、艶やかな雰囲気で、派手な柄を粋に着こなしていた。


「高田様、この子たちかい?」

「そうだ、頼めるか?」

「よござんすよ、ちゃんと都までお連れ致しましょ」


女性は旅回りの一座の座長らしい。

「青空燕一座でござんすよ」

女性はそう言ってにっこり笑った。

座長の燕は高田の顔見知りで、子供だけで都にやるわけにもいかず、ちょうど都へ向かうと聞いて、二人の同行をお願いされたのだ。

始めは渋っていたのだが、縁の容姿の事を聞かされ、旅の一座なら目立たないだろうと了承をしてくれたそうだ。


彼女たちは歌と踊り、それにちょっとした軽業などを見せる一座らしい。

縁と新平はそんな一座の雑用をしながら都に行けるという。

旅費も節約できることを縁と新平は喜んでいた。


そして、都へ出発する日がやってきた。

長屋の皆が勢ぞろいで見送りに出てくれた。

網元の配慮でその日の漁はお休みとしてくれたそうだ。

おかみさんたちの縫ってくれた服を着て、「「いってくるよ」」と二人は大きく手を振った。


そんな二人の様子を物陰から権平が見ていた。

「声をかけに行かねえのかい?」

見張りなのか、一緒にいた遠洋漁の漁師がそう聞くと、権平はフルフルと首を横に振った。

「あいつに・・・縁に合わせる顔がねえ・・・」

「そうか」

「いつか、いつかきちんと借金を返して、それからきちんと謝りてえ」

「そうか、いつかまた会えるさ」

権平は小さくなっていく縁の姿を見ながら涙をぬぐうことも忘れて立ち尽くしていた。


青空燕一座は人気の一座らしく、どこに行っても大勢の観客が集まった。

縁の容姿が目立たないように、眼鏡はそのまま、髪も丸刈りにしてさらに帽子をかぶるようにしていた。

二人とも早起きをして貝拾いをしていた事もあり、一座の手伝いも難なくこなしていた。

新平は大道具の手伝いなどをして、大工の修行の真似事をしていた。


そんな旅の日々、お使いを頼まれた縁は街角でいきなり帽子を奪い取られた。

どうやらこの町の子供たちらしかった。

「返してくれよ」

「なんだ?おめえ、変な色の頭だな」

「おい、そのメガネもはずしてみろよ」

縁は他の仲間に羽交い絞めにされ、そのまま眼鏡を取られた。

「うへえ、なんて変な色だ」

「おめえ、人間か?」「へんてこな色ばかりだな」「気色悪ぃ」

そう言って子供たちは縁を囲んで縁の容姿を貶めてた。

今までこのような悪意にあった事がなかった縁は驚き、そして、自分の目や髪を隠すように言っていた人たちが自分を守ろうとしてくれていた事に初めて気が付いた。


「おめえら、何してんだ!!」

そう言って新平が走ってきた。

「おめえ、この変な奴の仲間か?」「おめえも変な色なのか?」

そう言って新平をからかった。

「このやろう!!!」

新平が子供たちに殴りかかろうとした時、振り上げたその手をつかまれた。

「??」

「やめて、こんな奴ら殴ったって新平の手が痛いだけだよ」

縁がそう言って止めたのだ。

「ここで暴れたら燕姐さん達に迷惑がかかるよ」

「そうか、そうだな」

「だからさ、新平」

「うん」

二人は頷き合うと手をつなぎながら走って逃げ出した。

突然走り出した二人を、町の子供たちは唖然として見送ってしまった。


走りには知って一座についた二人は、大きな声で笑った。

「「逃げるが勝ち」」


その後、二人の話を聞いた燕は、今後は縁を一人でお使いに出さないように一座の皆に話した。

「逃げるが勝ちだとよ。なかなかやるねえあの二人」

「ですが、姐さん、護身術や軽業を仕込んでやった方がよくねえですかい?」

「そうさね、逃げるにも役に立つだろうし」


燕の判断で、新平と縁は軽業や護身術を教わりながら、旅を続けるのだった。








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